第16話 突然の潜入捜査

「今日はありがとうございました」


 純や紫音と協力関係を結ぶべく、粟生の探偵事務所を訪れた清良。自身の目的を話し、主とこの土地のために事件を解決に導きたいと彼らに伝えた。


 探偵の二人もそれを了承し、知識の探偵と力の清良は正式に協力することになったのである。


「もう帰るんですか?」


 結局少し話しただけなので、まだここにいても良いのではと純は感じた。


「いえ、電車での移動時間も長いですし遅くなるのは危ないです。それに先程、芦屋様から連絡が来ておりました」


 清良たち三人が探偵事務所にいた間に、恐らくテレビ局からの取材を終えたであろう一蔵から電話が来ていた。何かあったのではと、清良は少し心配していた。


「分かりました。今回はありがとうございました」


「何かあったら連絡するか、こちらに来て頂けると嬉しいです」


 純と紫音は粟生駅に向かう清良を見送った。彼らには言えないが、清良のこの流れは二度目である……


(あの人とまた会いたい。)


 次にここに行く時があれば、また真澄に会えるのだろうか。


「それでは、失礼します」


 駅まで歩く際、彼女がどこかで見ていないかと期待した。だが、真澄はどこにもおらず、見つけられないまま清良はその場を去った。




 思い出したかのように、清良は一蔵に電話をかけた。


「御影です、只今赤石探偵事務所での用件を済ませました。何か御用でしょうか?」


 すると、微かなエンジン音と共にいつもの声が聞こえてきた。


「ああ、終わったか。実は、取材の帰りに警察の方から新たな情報が入ってね」


 向こうは恐らく、車で芦屋廷に帰っている途中だろう。


「新たな情報ですか?」


 川田製作所関連のことだろうか。清良は気になりつつ、一蔵にそう聞いた。


「川田製作所が本社とは別に用意していた、拠点と呼ばれる場所がある。具体的な所在は分からないが、それが兵庫県の小野市にあることが分かった」


「小野市……!?」


 小野市、それは粟生駅や探偵事務所がある場所であり、今まさに清良がいる所でもある。


「神戸空港で御影が捕まえた川田製作所の関係者、そのうち一名が自白した。警察は継続して、具体的な所在地を聞き出そうとしている」


 清良は以前、覚醒剤を密輸しようとした男たちを神戸空港で捕まえたことがある。取り調べを受けているとは聞いていたが、自白したという情報は初耳だった。


「正確な所在地……小野市のどこかは、まだ判明していないのですね」


「ああ。爆弾・拳銃等を保管している可能性が高いため、恐らく広い土地なのではないかという見立てだが……」


 なるほど、だから市街地から離れた場所にあるのかと清良は納得した。


「では、その拠点を捜索します」


「待つんだ、流石にそれは危険ではないか?」


 どこに川田製作所と関係している人物がいるか分からないので、一蔵は止めに入った。


「危険物を保有しているのであれば、早期に解決せねばなりません。また川田側が今回の事態を受けて逃亡を企てる可能性も考えられます」


 追加の情報が入らないとなると、今ここで川田製作所から町の人々を守れるのは自分しかいないと清良は思っていた。


「大丈夫です、私は負けません」


 純たちが協力してくれた、それにはばタンもいる。自身の立場や戦う目的について不安になっていたかつてと比べれば、背中を押してくれる者は多い。


「分かった、詳しいことは後で話そう」


 一蔵も否定することはできず、その後少し話した後に電話を切った。




「そういえば、小野東高校ってどんな場所ですか?」


 清良が去った後、紫音は気になって純に聞いた。


 以前小野東高校で殺人事件が起きたと警察から聞いたが、彼女は神戸から来た人間であるため、そもそも小野東高校やその周辺がどうなっているかも分からないのだ。


「市場駅からすぐにある高校だ。三木高校や小野高校が近くにあるからか、生徒数は少なくて四百ちょい……だった気がする。辺りには何も無いし、はっきり言って地元民向けの学校だろう」


 純は棚からコップを取り出し、水を入れて飲み干した。


「……行くか?」


 そして、振り返って紫音に聞いた。


「良いんですか?」


「まあ近所だし、さっきも言ったけど何も無い。それで良いんなら、明日にでも見に行こうぜ」


 紫音にとっては予想外だったが、軽く小野東高校に行くことが決まってしまった。


「ありがとうございます」


 これから連続殺人事件の解決に乗り出すこともあるので、ここで小野東高校を見ておくのも良いだろう。


「そういえば、お前ってここ触ったか?」


「はい?」


 純は皿やコップが入っている棚を指差した。気のせいかもしれないが、若干これの配列が変わっているような気がした。


「いえ、そこは全く」


 紫音がそう答えると、純は首を捻った。


「そうだよな……」


 純は消えない違和感を抱えながら、リビングの椅子に座った。




 そして、翌日になった。朝探偵事務所の前で待つ純の前に、紫音がやって来た。


「おはようございます」


「おはよう。今日は小野東高校に行くのと、周辺も少し歩くか」


 今は九時。向こうは恐らく授業も始まっている時間なので、周辺も混雑していなさそうだ。二人はゆっくりと、軽い足取りで歩き始めた。


「分かりました。小野東高校は、市場駅の近くでしたよね?」


 純は駅に向かって歩きながら、紫音の方を向いて答えた。


「ああ、今からまた神戸電鉄に乗る」




 電車を市場駅で降り、純たちは改札に向かう。


「何だか、一気に静かになりましたね」


 電車が発車して通り過ぎると途端に付近は静かになる。学校は授業中、かつ微妙な時間帯なので仕方ないかもしれない。


「若干寒いな、もう冬が始まったか」


 駅舎・ホームは簡素な造りで待合室等も無く、夏は日差しを防げずに暑く、冬は風を防げずに寒い。もし乗り逃してしまうと……想像するのも嫌な田舎の駅である。


「小野東高校はここですね」


 狭い改札を出ると、小野東高校はすぐそこにあった。


 なるほど、雰囲気としては控えめだが必要な設備は備わっている普通の学校といった印象だ。風と共に先生が何かを話す声が微かに聞こえてくる、だが詳しく聞き取ることはできない。


「ここに赤石さんは通っていたんですね。そして、原因は不明ですが記憶を失ってしまった」


 隣の純は何も言わずに立ち尽くしている。恐怖に怯えているわけではなく、また怒りに震えているわけでもない。


「今、複雑な気持ちだよ。ここに色んな思い出もあるし、振り返りたくもない過去があるようにも感じる」


 当然だろう、と紫音は思った。記憶を失った後は周りの人たちに支えられて生きてきた純だが、もしかしたらその前は高校で悩みがあったのかもしれない。


 失った記憶の断片は今もはっきりしない……だからこそ怖い。


「どうせここまで来たんだ、隣の樫山まで歩いてから帰ろう」


 もう、純はここにいる意味を失ったようだった。


「はい」




 清良は一人で愛車を走らせ、川田製作所の拠点を捜索していた。


「この辺りには無さそうですね」


 昨日、屋敷に帰った後も一蔵と話していたが、結局清良は捜索する意思を曲げなかった。


「分かった。だが、何かあったらすぐに連絡することと、危ない所は避けるんだ」


 一蔵はそんな言葉を残し、最後に清良を励まして見送ってくれた。


「極端な話、ミサイルでも降ってこなければ何とかなりそうですが……」


 清良は少しふざけた口調で言い、僅かながら自身を勇気づけた。北側にそれらしき建物は無かったので、やはり拠点は南側の山沿いにあるのだろうか。


「予想してはいましたが、ここからが面倒ですね」


 樫山駅から北側に上った所にゴルフ場があり、その向かいには工場が多く立ち並ぶエリアが存在する。廃工場も解体されず残されているそうだが、ここが怪しいと清良は感じていた。


「行きましょうか。迷っている時間が無駄ですし」


 一昔前のエンジン音を鳴り響かせ、清良は工業地帯に急いだ。




「ここは、神社ですか?」


 純たち二人は、神戸電鉄の線路沿いにある神社を訪れた。


「山ノ神社、風の神様が祭られている神社だそうだ。参拝すると風邪が治ると言い伝えられているが、今はお年寄りの憩いの場になってる」


 しかし、今日は神社に人がいなかった。


 参道の下には神戸電鉄の線路が通っており、そこを越えた先に本殿がある。周りの住宅街から打って変わり、静かで神聖な場所といった感じがする。


「……ここで、竹田さんが殺害されたらしい」


「えっ?」


 そう、純が一年生だった頃、山ノ神社で同級生の竹田葵が殺害された……ようだ。正確には、純も覚えていないので人から聞いた話である。


「そう考えると、何だか恐ろしく感じます。犯人はどんな思いで竹田さんを殺害したのか……」


 紫音は神社を一通り見て回った。広いが特に変わった所もなく、時折静かな境内に電車が通過する音が聞こえるくらい。


「ここ、何だか前にも来たような気がします。初めてなのにどうしてでしょう?」


 頭の中に僅かではあるが、ここの風景や雰囲気が残っているような気がした。


「気のせいじゃないか? さて、そろそろ駅から電車に乗るか」


 純は来た道を引き返し、神社を出ようとしていた。


「そうですね、大体この辺りのことは分かりました」


 紫音もそれを追いかけ、少し早足で神社の階段を下りた。




 階段を下りた先は大きめの道路になっている。ここを真っ直ぐ進み、そして左に曲がると駅の改札がある。


「深山、どうだった?」


 純は樫山駅に向かう途中、紫音にそう聞いた。


「そうですね、周辺の環境は良かったです。粟生と同じく、ちょっと奥に入った時の冒険感と言いますか、それも好きでした。高校は思ったより人は少なかったですが設備がしっかりしてると思います」


 隣の道では時々車が行き来しており、速めの速度で目の前を通過していく。


「それなら良かった。ああ、そういえば少し上った辺りに知り合いが経営している喫茶店があるんだ。俺も様子は見に行ったけど、いつか気が向いたときに二人で行かないか?」


 純は紫音に、野崎のことについて少し説明した。


「良いですね。それって昨日、赤石さんが言っていた用事ですか?」


 会話に夢中になっている純たちは、ここで予想外の事態に直面することとなる。


「そうそう、昨日喫茶店に行ったんだけどさ……」


 それは、二人の前を一台の車が駆け抜けた時のことだった。




「「あっ!!」」


 車に乗っている清良と、道を歩く紫音の驚く声が重なった。


「はあ?」


 一瞬だけ遅れ、純が状況を理解していないような気の抜けた声を発した。


 そう、清良は川田製作所の拠点を捜索している途中だった。車で偶然、純と紫音が歩いている所を通り抜けていったのである。


「御影さん、どうしてこんな所に!?」


 紫音が叫んだ直後、向こうもブレーキをかけて車を止めた。


「ああ、御影さん……えっ!?」


 純も遅れて車に乗っている人物に気付き、そして素っ頓狂な声を発した。三人が落ち着いて話せるようになるまでは、しばらくかかったような気がする。


「もしや、皆さんも川田製作所の拠点を探しているのですか?」


 清良が車の窓を開け、少し離れた場所から聞いた。


「川田製作所……? いえ、この近くで以前に殺人事件があったと聞いたもので。」


 紫音が答えた直後、クラクションを鳴らして車が横を通り過ぎていった。ここは交通量の多い道のため、止まっている清良の車が邪魔になっていたのだろう。


「まずいですね、駐車場にでも停めますか」


 そうは言ったが、付近に駐車場らしきものは無い。清良は紫音たちを手招きした。


「取り敢えず乗って下さい」


「分かりました」


 紫音と純を車に乗せ、清良は駐車場を探した。




 その後樫山駅を過ぎた辺りで清良はコンビニを見つけ、そこに車を停めた。


「それで、お二人がここに来た理由についてですが……」


 後ろの道路では頻繫に車が行き来していたが、そんな中でも清良の声はよく聞こえた。


「赤石さんが高校の一年生だった頃、樫山駅近くの神社で同級生が殺害される事件がありました。犯人はまだ発見されておらず、小野市連続殺人事件との関連が疑われています」


 かつて純が通っていた小野東高校に行ったことも、紫音は清良に伝えた。


「そうだったのですね」


 純はもしかすると、高校や事件現場に行けば記憶が戻るかもしれない……という期待も抱いていた。しかしそう上手くはいかず、いつまでもはっきりしない恐怖が彼の心を包んでいる。


「確かに、当時の関係者を調べることができれば解決にも繋がりそうですね」


 新たな証拠が出るまで解決に踏み出せないと思われていた小野市連続殺人事件だが、少しずつ関連事件の存在が明らかになる等、前に進んでいるような気がする。


「そして、清良さんは川田製作所の拠点を捜索しているんですか? この付近にそのような場所は見当たりませんが……」


 連続殺人事件の話は一区切り。今度は紫音が、ここに車で来た理由を清良に聞いた。


「警察の方からの情報です。川田製作所が拠点と呼んでいる場所が小野市にあるとのことで、探しておりました」


「拠点が……ここに?」


 当初川田製作所が密売のためにライフルや、爆弾等を所有している場所は谷上本社だと思われていた。しかし本社とは別にそれらを保管する拠点を用意していたことによって、警察は今まで見つけられなかったということだ。


「神戸空港で捕らえた川田の者を取り調べた所、判明したそうです。北側は既に捜索しましたが見つからず、この樫山町を上った先に工場が乱立する地帯があります」


 清良は先程まで通っていた道を指差した。


「恐らく、今は使われていない廃工場が拠点ではないかと推測しています」




「川田の拠点は私が必ず見つけ出します」


 協力して欲しい、というわけではなさそうだ。清良のそれはどちらかと言うと、今回はあまり関わらないで欲しいという意味合いのものに聞こえた。


「探偵のお二人には危険な仕事です。敵の本拠地を見つける、場合によっては中に入ることもあるので勧められません」


 もちろん探偵がいることで素早い判断ができるというメリットはあるが、清良は純たちを守りながら戦うことを強いられる。


「分かりました。でも御影さんの力になりたいので、せめて拠点を見つけるまでは付き添えませんか?」


「深山、お前……」


 紫音は単なる興味や探偵だからという理由で、付き添いたいといったわけではなかった。危険であることを承知の上で、それでも拠点に向かう清良を助けたかったのだった。


「それに、貴方の元々の依頼は何でしたか?」


 そう、当初芦屋財閥が探偵事務所に依頼した内容は、「川田製作所を共に止めて欲しい」といものだった。


「しかし、大丈夫なのですか?」


 覚悟を決めた紫音に、清良が念を押す。


「私たちにはまだ解決しなければいけない依頼が、事件があります。ここで立ち止まるわけにはいきません」


 川田製作所がどのような恐ろしさや力を持った組織なのか、実際に対峙したわけでもない紫音は知らない。だが、彼女はそんな逆風には負けたくない。


(いや、俺はまあまあ怖いんだけど……)


 そんな中、純は車の窓にもたれかかり、誰にも聞こえないようにため息をついた。




「はあ……」


 それとほぼ同時だっただろうか。全く客がいない喫茶店のテーブル席やカウンターを見て、マスターの野崎もため息をついていた。


 彼女は純の昔からの知り合いで、彼からは「おばちゃん」と呼ばれ今でも憧れの存在となっている。


(閉店日まで、あと少しか。)


 野崎が閉店を決めていた日はもう五日後まで迫っていた。


 純はまた来ると言っていたが、せめてそれまでにもう一人ぐらいの客と接しておきたかった。


「ん、いらっしゃい」


 そんなことを考えていると、扉に付いていたベルが明るい音を立てた。


「すいません、コーヒーを頂けますか?」


 それは純ではない、初めて見る顔の男性客だった。細身で綺麗なスタイルをしているその人は、少し遠慮気味に注文をしてきた。


「暖かいやつで大丈夫かい?」


 野崎の問いに対し、その男性は無言で頷いた。そういえば最近は寒くなって来たな、ということを考えながら彼女は黙々と作業している。


「あの、ちょっと聞きづらいんですけど……」


「どうかした?」


 男性はやはり控えめな声だったが、変わった人でもなさそうなので野崎は気軽に話せると感じていた。もちろん、向こうがどう考えているかなんて分からないのだが。


「赤石純さんについて、知っていることはありますか?」


 カウンターに座る男性……日岡瀬名は、野崎に対してそう聞いた。


「純のこと? もちろん知ってはいるが、どうしてそんなことを……」


 野崎は喋りながらできたコーヒーを持ち、瀬名の前に置いた。


「あの人とは近所で、最近ふとした用事で関わる機会が多くなっているんです。でもいまいち仲良くなれないというか、彼との関係で悩んでました」


 瀬名も軽く会釈をした後、カップに手をかけてコーヒーを飲み始めた。割と苦みには平気そうだったのが意外だった。


「他の人から聞いたんですけど、マスターさんと赤石さんって昔から仲が良いのでしょう?」


「なるほど、そういうことならできる範囲で話してあげる」


 他の人とは誰だ? という質問は面倒だったのでしなかった。後に起きたことを思えば、ここで追及した方が良かったのかもしれない。


「純はね……」


 しかしこの時の野崎は気にせずに、純について話し始めた。




 清良の乗った車は道路を一直線に進み、工場があるエリアに向かっていた。


「何も無いですね」


 途中住宅街を抜けることもあったが、大部分は建物すら無い田舎の風景と言える。ただ道路だけはどこまで行っても綺麗に整備されていることに、若干の違和感を覚えた。


「走っている車も、俺たちだけか」


 そう、最初は交通量も多かったが、進むにつれて車も人の数も減ってきていた。これから向かおうとしている場所を考えると背中が少し寒くなってきたようにも感じた。


「さて、この辺りがそのようですが……」


 ゴルフ場や野球場に面した曲がりくねった道を抜けると、車は遂に工場が乱立する場所まで辿り着いた。食品系の工場や化学工場がある中、立派なホテルも一軒のみだが存在する。


「えーと……あそこでは?」


「む?」


 車でぐるりと回って廃工場らしきものを探していたが、見つけたのは紫音だった。


 他の建物と比べるとあまり人気が無く各所が錆びており、また門には何かの表札を取り除いたような跡が残っている。


「あー、これは怪しいな」


 純が目を付けたのは工場付近の様子だった。確かに建物自体はもう工場としての役目を果たしていないように見えるが、雑草等は全く生えていない上、必要な設備は全て壊れずに残っている。


 清良が車のエンジンを止め、ドアを開けて静かに出始めた。


「いますね、恐らく川田の者です」


 それらしき作業服を着た男が、タイミング良く廃工場に入るところであった。男が扉の前に立つ姿を清良たち三人は静かに観察している。


「合言葉は?」


「俺たちの始まりの日」


 インターホンに向かって合言葉を話すと、ドアはすんなりと開いた。


「なるほど、そういった仕組みですか」


 清良は何回か頷いた後、誰もいないことを確認してドアに向かった。


「私が戻るか、連絡が来るまでここを動かないで下さい。予想通り奴らがいたということは、戦闘は避けられません」


 しかし、一人で向かおうとする清良を純は心配していた。


「まだ向こうに何があるか分からない状態なのに大丈夫ですか?」


 その言葉に対して、清良は思い切った様子で返した。


「私は確かに心配ですが、それは向こうの証拠をどれ程残した上で拠点を潰せるか、です。


 数や強力な武器などに私は負けません」


 最後に力強く手を振り、彼女はその場を去った。




 一方その頃、拠点奥の部屋にはとある人物が座っていた。


「あーもしもし、川田やけど」


 その人物は四十代後半から五十代くらいの男で、周りには数人の部下を引き連れている。川田製作所の会長、川田燗信である。


「以前こっちが送った改造ライフル、使い心地はどうや?」


 彼が連絡をしているのは、川田製作所が裏で率いている犯罪組織の人物である。


「改造ライフルと呼ぶと危険デンジャラスな気がしますね、特注スペシャルライフルなんていうのはどうです? ……肝心の使用感ですが、威力も使いやすさも最上ベストですかね」


 電話の向こうからはふざけた調子の声が返ってくるが彼との電話ではこれが普通であり、燗信も半分慣れている。


「ミスターカワダには頭が下がりますよ、これで我々も動きやすくなるってもんです」


 川田製作所はこうして仲間の犯罪組織にも武器を送り、代金を貰ったり協力を頼んだりしているのだ。


 燗信は真剣な面持ちで電話の相手に言った。


「あんたらには期待しとるで、広野さんよ」


「ご期待に応えてみせますよ、必ずね。それではスィーユー」


 最後までふざけた喋り方のまま、電話は向こうから切られた。


「川田会長、お相手は広野さんですか?」


 部下の一名が燗信に歩み寄って聞いてきた。


「ああ、メカニックや。ずっとあんな感じやけど、腕は確かやしなぁ」


 燗信はそう呟きながら受話器を少し乱暴に下げた。机からタバコの箱を取り出して、一本手に取った後火をつける。


「さて、これからはどうするか」




 表からは見えなかったが、駐車場には先程の男が使っていたであろう車があった。


「あのインターホンはカメラも付いていますね。こんなことなら、スーツを着て行けば良かったです……」


 清良のメイド服を映されると怪しまれる可能性があるので、カメラに服が映らないように屈んでインターホンを押した。


「……ん?」


 やはり職員ではないと気付かれたか、インターホンの向こうから怪しんでいるような声が聞こえた。


「合言葉は?」


 しかし、しばらくすると普通に合言葉を求められた。もしかすると上から雇われた者だと判断したのだろうか。


「俺たちの……いえ、レディなら私たちの始まりの日と言う方が正しいですか?」


「十分だ、入れ」


 ドアの鍵が開き、清良は遂に中に入った。よく見ると、遠隔でドアにロックをかけたり開いたりするタイプのものらしい。


「ふん、所詮はこの程度ですか」


 そのまま廊下を進んでいくと、数名の男が立ちはだかった。流石にここまで来たら逃げようがないだろう。


「お前、どうやってここに来た?」


 男たちのうち一人が、警戒心を強めた声で聞いてきた。清良はわざと相手を挑発するように、気の抜けた表情で言った。


「観光ガイドで、廃工場をカフェに再利用した場所があると聞いたのですが……ここで合ってます?」


 すると、どうやら見事に効いたようだった。


「ふざけた口きくなやボケ!」


 そして分かりやすく、拳を振りかぶって殴りかかってきた。しかし、清良はそれを受け止めた。


「何っ!?」


「もちろん、今言ったことは噓ですよ!」


 男が怯んだ隙に、横から蹴りを加えて倒した。


「こいつ……!」


 清良は男が気絶したことを見届けると、勢い良く飛んできた腕を見ずに避けた。ここに残っている職員はあと三人。


(増援が来る可能性も頭に入れつつ早めに倒しましょうか。)


 清良は立ち上がり、周りを囲む男たちに対して身構えた。


「長引くと良くないので、ここは急ぎ目に突破させてもらいます!」




「会長、侵入者です!」


 清良が入ってきたという知らせは、燗信の方にもすぐに伝わってきた。


「ふん、いつか来るものとは思っていたが。相手の特徴は?」


 燗信は落ち着いた様子で席を立ち、部下に聞いた。


「侵入者は女一名、その他は確認できません。またこいつは武術の心得があるのか、止めに入った職員を蹴りで気絶させてこちらに向かっています」


「文言からしておもろいやっちゃな。ここもダメか、逃げる準備を……」


 燗信がそう言いかけた時、部屋のドアに衝撃音が走った。


「ああん!?誰じゃ!」


 部下の一人がドアに近付いた直後、なんと扉が再び大きな音を立てて飛んできた。


「マジか……」


 部下は飛んできた扉が命中して気絶、怪我はしているが致命傷は免れたようだった。その様子に今まで冷静な態度を保っていた燗信も驚いた。


 そして、彼は隠していた何かのスイッチを押した。


「おや、力加減を間違えたようで失礼しました」


 そしてドアがあった場所の奥から、侵入者がゆっくりと歩み寄ってきた。


「お前は、芦屋の付き人か?神戸空港じゃうちの人間がお世話になったな」


 燗信は侵入者……御影清良のことを知っていた。川田製作所のことを調べている危険人物で、警察程ではないが警戒しなければいけない……といった認識だった。


「やったれ」


 燗信の一言で、部下の二人が鉄の棒を持って清良に襲いかかった。




「とっとと消えろっ!」


 思ったよりも動きが早い。清良は咄嗟に相手を倒すより、攻撃を避ける選択をした。


「善良な組織になりすまし、地域を脅かす乱暴者め。貴方の目的は何です、川田!」


 再び振り下ろされた棒を腕で受け止め、反撃をしながら清良は燗信に向かって叫んだ。


「かつてこの地域に震災があった時、それが俺らの始まりやった。区別も無く襲ってくる災害、被害も甚大やったがそれだけやない」


 燗信はその場を動こうとせず、清良に自身の目的を話した。


「活気が無くなったんや、神戸にはな。行政が市民を舐めた結果衰退が進み、若者なんかはとっくにこの街の未来を捨てとる」


 彼は何かを諦めたような表情と声で、そのまま話し続ける。


「お前が開発を加えようとした西神も、そしてここの小野市も、兵庫県が手を加えなかった結果産まれた負の遺産ということやわ。お前が信じる兵庫県とやらに、もう未来なんて無い」


「くっ……!」


 清良は徐々に追い詰められ、部下の二人が近付いてくる。先程の職員たちとは根本的に何かが違う、彼らには底知れぬ力があるように感じる。


(そちらも半端な覚悟では無い、ということですね……しかし!)


 だが、ここで負けては紫音たちにも向ける顔が無い。


「未来が無い? それは本気で言っているのですか、大馬鹿者!」


 清良は部下が持っている鉄の棒を蹴り、それを弾き飛ばした。


「この暖かさと希望に満ち溢れた土地に住む者が、その土地のことを信じられないでどうするのです! 私は大災害を経験したものではありません……ですが兵庫県に失望したことも、未来が無いと感じたこともありません!」


 清良は常に持ち歩いているはばタンのキーホルダーを取り出し、握りしめた。


「兵庫県は不滅です。そうでしょう、はばタン?」


 部下の二人を倒すべく力をため込む。


「知ったような口、叩くなや!」


 彼らが清良に近付き、隙ができたほんの一瞬を見逃さない。


「天地流奥義、風林華斬ふうりんかざん!!」


 回し蹴りを二人に当て、そのまま綺麗に着地した。


「疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し。この奥義は素早く、静かに、力強く、軸がブレないように技を叩きこむことによって隙の無い攻撃を実現する」


 部下たちは呻き声を上げて蹲り、立ち上がる様子がなかった。


「中々やるな」


「次は貴方です、川田!」


 清良はそのまま燗信に向かって走り、殴ろうとしたが……




 その拳が、寸前で停止した。燗信の手にはすでに起動した小型リモコンのようなものがあり、彼は不敵な笑みを浮かべていた。


「時限爆弾を起動した。この拠点はあともうすぐすれば、大爆発して木っ端微塵になる」


「何っ!?」


 清良が驚いている隙に、燗信は彼女のもとから離れた。


「お前だって、ここの証拠を掴みたいんやろ?」


 彼がクローゼットを開けると、そこには爆弾が残り十五分でセットされていた。


「安心せえ、間違えたところで爆発することは無いから十五分みっちりと考えることができる。ただし、ここは山奥やから警察に頼んで止めてもらう暇は無いんとちゃうか?」


 燗信は立ち上がれない部下を起こし、走って部屋を出た。


「例えここが爆発したからって、俺らは別の拠点を造るだけの話や」


 そして物音がしなくなり、清良は一人部屋に残されてしまった。


「せっかく証拠が得られたというのに!」


 壁を叩いて叫んだが、そんなことをしても爆弾が止まるはずがなかった。気付けば、爆発まで残り十四分となっていた。


「時間がありませんか……」


 清良が途方に暮れて困っていると、突然携帯が鳴った。


「はい」


 番号を見ると、それは純の携帯からの電話だった。


「あっ、良かった!川田製作所らしき人が十人くらい出てきて、二台の大きな車に乗り込んだんです。そっちで何かあったんですか?」


 清良はしばらく無言になった。あの者たちは本当にこの拠点を爆破し、何一つ残さないつもりだろう。


「……分かりました、こちらも大変なことが起こっていて私の力ではどうしようもありません。可能であれば来て頂けませんか?」


 探偵なら、この状況をどうにかできるかもしれない。清良は最後の望みを託して純に頼んだ。


「了解です、すぐ向かいます」


 すると電話からそんな声が聞こえた後、切れた。彼らが爆弾を止められるか分からないが、できなければ証拠は諦めて退避するしかない。


「さて、取り残された職員がいたら確保しましょうか」


 悪人とはいえ、ここで見殺しにすることはできない。清良は今自分にできることを考え、廃工場に残された人がいないか確認に向かった。




「で、御影さんは大変なことがあったとか言ってたけどさ! あれって何だと思う!?」


 純と紫音は廊下を進み、清良が待っているであろう部屋に向かっていた。


「嫌な予感がします、さっき職員が逃げていたのも含めて!」


 もしかしたら、紫音の頭の中に悪い想像が横切った。


 すると、彼女はとある部屋で足を止めた。それは先程まで燗信がいた、爆弾が置いてある場所……ではない。


「これは何でしょう?」


 ライフルなどの武器や、無線機を保管していた広い部屋である。時間と余裕が無かったのか、職員が回収することもなく放置されている。


 その中で一際目立つ、黒いケースを紫音は手に取った。


「何だよこんな時に? うーん……爆弾とかじゃないか?」


 純はとっさにそう予測したが、紫音はそこまでの危険物ではないと考え、中を確認した。


「これは……どうしてこんな所に!?」


 その中身を見て驚愕した紫音だったが、部屋の外から聞こえた声に呼び戻された。


「探偵さん、こちらです!」


 それは残された職員の確認に回っていた清良であった。電話の通り、彼女もかなり慌てた様子だった。


「時限爆弾がセットされていました。現場は上の部屋です」


「マジか!?」


 清良の後を追い、純が階段を駆け上がる。紫音の最悪の予想が当たってしまったのだ。


「早く行かないと、拠点が破壊されてしまいます!」




 紫音たちはようやく、時限爆弾の前に辿り着いた。残り時間は十分となっていて、余裕が無い状態となっている。


「止めるためにはパスワードが必要となるそうです。一応、間違えても爆発する仕様にはなっていないそうですが……」


 清良の説明を受けて、紫音はクローゼットに仕掛けられた爆弾を改めて確認した。大型というわけでもないが、これが爆発すると連動して別の爆弾も起動する仕組みになっているという可能性も捨てきれない。


 入口からここまで来るのに二分かかったので、残り三分までが粘れる限界だ。


「ここは赤石さんと二人で引き受けます。御影さんは逃げた職員を追って下さい」


 紫音はそれらを判断した上で、止めることは可能だと判断をした。


「大丈夫なのですか?」


「力の御影さん、知識の私たち。力を合わせればどんな相手にも勝てる、貴方はそう言いましたよね?」


 紫音が言ったのは、昨日清良が彼女に向かってかけた言葉だった。


「それに、先程爆弾解除に役立ちそうな物を見つけました」


 それは、先程拾った黒いケースのことだった。


「御影さん、パスワードに関しては入力していませんか?」


「いえ、まだですが……」


 紫音はケースを開けながら、付け加えて清良に質問をした。


「あの人たち、何か気になることを言ってませんでしたか?」


 清良は必死に思い当たる節を探り、しばらくしてこう言った。


「かつてこの地に震災があった日が、自分たちの始まりだと言っていました。そこから神戸が衰退し、無残な姿になったと」


 すると、紫音は良い答えが聞けたのか勢いよく頷いた。


「良かったです、これなら時間内に解けるはず!」


「分かりました。しかし、危なくなったらすぐに逃げてください!」


 清良は立ち上がり、逃げた燗信を追いかけに向かった。


「おい、あんなこと言って大丈夫なのか?」


 清良が去ったのを確認した後、純は心配そうな顔で紫音を見た。


「できなかったら証拠は捨てざるを得ません。これが最後の賭けでしょう!」


 紫音は満を持して、黒いケースを開いた。




 そこには懐中電灯のような形のライトと、ゴーグルが入っていた。


「何だそれ?」


 純はケースを覗き込んで首を傾げた。


「詳しい説明は省きます。赤石さん、照明を消して下さい!」


「おう、分かった!」


 純も状況が整理できないまま、部屋の電気を消して暗くした。


「私もよくは知らないけど、ちゃんと動いてね……!」


 紫音はゴーグルを装着し、ライトを付けて爆弾の方に向けた。すると彼女は何かを見た上で、純に指示を出した。


「〇、一、五、七、九! 赤石さん、メモをお願いします」


 紫音の指示に従い、純はメモ帳に数字を書いた。


「うう、暗くて字が書きづらいな……」


 そして紫音はゴーグルを外し、ライトも消して明かりをつけた。


「今見ていたのは、キーボードに付着した指紋です。初期設定の際に誰かがここを押してパスワードを設定した、ということはこれらの数字を組み合わせれば止まります」


「なるほど、そういうことか!」


 純はようやく納得した。つまり、パスワードには〇、一、五、七、九の数字が入るということだ。


「パスワードは八桁ですね。先程の清良さんが言ったことが本当なら、正解は恐らくあれでしょう」


 紫音はキーボードを操作し、パスワードが八桁であると判断した


「合言葉ですよ。爆弾がもし誤作動した時、職員が止められるようにパスワードを共有していたとするなら?」


「八桁は何年の何日って可能性もあるな。普通に考えたら、川田製作所が設立された日とか?」


 紫音は純の言葉に首を横に振って、自身の予想を話した。


「かつて大震災があった日、それが川田製作所の始まりの日のようです。パスワードは阪神淡路大震災があった年月、一九九五〇一一七ではありませんか?」


 照らし合わせてみると、指紋が検出された数字と合致している。紫音は一つ一つ確実にキーボードを押してパスワードを入力した。




「しかし、あそこを手放すとはな」


 廃工場から逃げた車の一台は、清良の車が行きに通った道路を下っていた。


「仕方ないやろ。川田さんが言ってたように、また新しい拠点を探せばええねん」


 この車には会長の川田燗信が乗っている……わけではなかった。彼らの車は道路を下ることなく、反対側の谷上本社に向かっている。


 職員たちが運転しながらそんなことを話していると、一台の車が行く手を阻んだ。


「ん、何だあの車!?」


 そして、その車に乗っていた運転手が降り、職員たちの車の前に立った。


「ようやく追いつきましたよ、川田」


 そう、その運転手は清良だった。紫音が爆弾を止めようと奮闘する中、清良は逃げた車を追っていたのだ。


「くっ……どけ!」


 目の前に人がいることも気にせず、職員はアクセルを踏んで突破しようとした。しかし、清良は速度を上げる車を足で止めた。


「は……はああっ!?」


 運転していた職員は驚いた……いや、普通は驚くだろう。


 本来なら吹き飛ばされてもおかしくないこの行為だが、清良は涼しい顔で車を止めている。


「私は御影ですよ、こんな物で倒せると思わないことですね」


 清良はそのまま凍えるような視線で驚愕する職員たちを見下した。そんなことをしていると、後ろからようやく通報を受けたパトカーが到着したようだ。


「噓やろ!?」


 職員はもう逃げられないことを悟り、アクセルから足を離した。


「考え直しなさい、もう一度」


 最後に、清良はそう言葉をかけた。




「止まりましたね……」


 紫音はパスワードを入力した結果、爆弾は残り五分の状態で停止した。もうすぐこちらにも警察が到着するはずなので、後はそちらのお仕事だろうか。


「しかし、一時はどうなることかと思ったぞ」


「ええ、私もこれが無理なら打つ手がありませんでした」


 清良も、無事に燗信たちを捕まえることができたと信じたい。


「それはそうと、今回のことについては疑問が残りますね。」


 紫音はライトが入っていた黒いケースに目を移した。


「これはALSライトと呼ばれる物でして、ゴーグルを装着してライトを点灯させると指紋が浮かび上がります」


 正式にはLED科学捜査用検査キットという名称で、川田製作所は事件を起こした際の証拠隠滅を想定して保管していたのだろうか。


 詳しい仕組みは紫音もあまり知らなかったが、今回は緊急事態だったということで本で読んだ記憶を掘り起こして使用した。


「しかし本来は名称通り捜査機関が使用する物で、どうして川田製作所がこれを保有していたのでしょうか?」


 紫音はその理由が分からず、その場で考え込んだ。


「まさか、警察にも川田の内通者が……?」


 まだ決めつけるのは早かったが、そう考えるのが自然だった。




 清良は警察が到着した後、職員たちが乗っていた車が一台しか無いことに気付いた。


「この者たちはおとりですか。しかし証拠が発見された以上、川田が捕まるのも時間の問題ですね」


 恐らく燗信が乗った車は別方向に逃げたため、清良は見事に向こうの罠にはまった結果となってしまった、今まさに連行されている、おとりにされた職員たちを彼女は睨んだ。


「しかし、何故川田はあの大震災に固執しているのでしょうか?」


 よくよく考えると、川田製作所が急成長を遂げたのも阪神淡路大震災後のことだった。そして彼が「始まりの日」と呼んでいたのも、その震災があった日であった。


「川田製作所について、もっと知る必要がありますね」


 証拠を掴めたからといって最後まで油断してはいけない。どちらにせよ、今回の事件はまだ終わったわけではなさそうだ。


「このまま、何事も無く終わってくれれば良いのですが……」


 紫音たちの安否を確認し一蔵に現在の状況を伝えるため、清良はその場を去った。




 続く

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