第2話「綺麗な薔薇には」後編

 第二話「綺麗な薔薇には」後編


 リアル恋愛サバイバルドキュメント番組の日本版、”MASTER JAPANマスター・ジャパン”の”薔薇の儀式ローズ・アクセプト”とは……


 ひとりのセレブ男性を巡って、応募してきた何人もの女性と着飾ったパーティーを開いたり、海外へバカンスへ行ったり……


 色々なイベントを経て愛を深めた末でのセレブ男性、つまり”MASTERマスター”による選別の儀式だ。


 毎回人数より少ない薔薇が用意され、それを渡されなかった女性がひとり、またひとりと去って行く……


 ――なのに初回でひとりきりで”薔薇の儀式ローズ・アクセプト”!?


 ――意味あんのかよっ!!


 「少々手違いがございまして……」


 あからさまな俺の不信顔を見て、司会進行役である阪堂ばんどうさんが初めと同じ台詞を口にする。


 ――”手違い”……どんなだよ


 ここまで来ればどうやら俺は”嵌められた”という事に気づく。


 自然なトラブルで流石にコレは無いよな。


 ならどんな理由だ?


 この謎な制服美少女が関係しているのか?


 ――どちらにしても、ここまで来たらどういった言い訳でお茶を濁そうとも俺も……世界経済界の新たなる騎手ニューカマーと呼ばれし”阿久津あくつ 正道まさみち”は簡単には誤魔化されな……


 「”スポンサー権力”により今回はこういう形で、さぁMASTERマスター!薔薇を!!」


 「たのむからチョットは誤魔化してぇぇぇぇっっ!!」


 なんだか今回俺はこんなのばっかだった。


 「さぁ、MASTERマスター!」


 「……う……うぅ」


 俺は再び目の前に立った美少女を見る。


 「…………」


 サラサラの黒髪に透き通る白い肌、そこに輝く美しい瞳。


 俺よりも頭一つ分は背が低い美少女は変わらぬ表情で俺を見上げている。


 ――ま、まぁ……あれだ


 色々と腑に落ちない点はあるが、彼女が欲しいという俺の当初の目的は達成される。


 俺はテーブルに置いてあった、今では空しいばかりの二十本の薔薇から一本を手に取り……


 ――普通に考えるなら、番組スポンサーは彼女か彼女の家で、彼女はどんな方法を使ってでも俺とお近づきになりたいと……


 「…………」


 薔薇を手にした俺の指は震えていた。


 別にどんな陰謀があるとか、どんな思惑があるとか、そんな些末事を恐れている訳では無い。


 たかが日本のいちテレビ局……いてはその後ろのスポンサー企業如きの思惑など、現在の我が財力と権力ならどうってことはない。


 ――ただ俺は……


 スッと持ち上げた薔薇をゆっくりと美少女の胸の前に……


 恥ずかしい話、その時の俺の顔は遠目にも解るくらいにカチンカチンにこわばっていただろう。


 ――そう、阿久津あくつ 正道まさみちは……


 「こ、このバリャ……う……バ、薔薇を受け取ってもらえますか?」


 ――こんな超可愛い美少女が今このときから彼女なんて言うヤバすぎる状況に完全に舞い上がってしまっているのだっ!!


 「…………」


 実際の時間にしたら数瞬だろうが……


 番組的に毎回いつもどおりのその沈黙タメは俺には永遠に感じられる時間で……


 彼女のセーラー服の胸元に装われた赤いリボンの前で咲く一輪の薔薇はプルプルと小刻みに揺れ続けていた。


 そして、そのまま至近で俺を見上げる美少女の瞳はどこまでも純粋で、可憐な唇がゆっくりと……


 「…………………………ありが」


 ――おおっ!!


 「た迷惑です、ごめんなさい」


 ――なっ!?


 「なにゆえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」


 俺はその夜一番の絶叫を上げた。


 「い、いや!!スポンサー圧力まで使ってっ!?なんでっ!!ウソでしょぉぉっ!!」


 ――もちろん、女性側も薔薇の受け取りを断ることができるが、俺の記憶では先ずそっちは観たことがない


 ――確かに参加した目的とか番組の構成上から考えてもよっぽど男が期待外れのゴミ屑で無い限りは有り得ない事だろう


 「うるさいっ!!うるちゃぁぁーーいいっ!!」


 普通では決して有り得ない結果に俺は見苦しくも身もだえ続けたのだった。


 ――

 ―


 だが本当に恐ろしいのはこれから。


 この不可解な一件……それはこの物語の序章でしかなく。


 そして取りあえず今回の”MASTER JAPANマスター・ジャパン”。


 史上最初で最後だろう、シリーズが一回こっきりの放送は世界一間抜けな”馬鹿男マスター”観たさに後日の再生回数も大盛況だったらしい……


 ――てか、こんな回!放送すんなよ!!ドチクショォォーー!!


 第二話「綺麗な薔薇には」後編 END

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