第8話 美和家の次女

 わたしは大型スーパーの下着売り場にいた。誰に見せる予定の無いが、信也くんの事を想うと自然に来てしまったのだ。


 乙女心は自分でも理解はできなかった。しかし、火照る体にドキドキする胸は正直であった。そして、光るマネキンのカラフルな上と下は、まるで勝負下着だ。


 一着くらい……。


 小さな膨らみの胸はスポーツブラがメインである。下だって普通過ぎるモノであった。


「おやおや、お嬢さん、下着ですか」


 今日は大学生の時美さんと二人で買い物に来ていた。時美さんは下ネタ大好きの中年オヤジかと思わせるセクハラ発言である。ホント、分かりやすく、ヤジを入れる時美さんであった。


「黒か赤で迷うのですよ」


 時美さんは人ごとだと思って言いたい放題である。


「ブルーにするわ」


 わたしの言葉に時美さんは小首を傾げる。正確には色のチョイスではなく生地の多さに減滅した感じである。そう、高校生のわたしにどこまで勧めるか悩んでいる様子であった。


「あー相手も高校生よね?」


 相手もって、何処まで知っているのか不明である。鈍感な時美さんは女同士のお泊りパーティーを想定しているらしい。しかし、信也くんの事を想うとブルーの下着ではあるが生地の少ないモノに変更するのであった。


「はぁぁ……」

「わたしならこっちの黒かな」


 わたしのため息に何かを感じとったのか。時美さんは更にセクシーなモノを持ち出す。そう、それは下着ではなくランジェリーであった。この人の思考は大胆過ぎるなと呆れる。


 わたしは少し子供っぽくてもいいから、やはり、ブルーを選ぶ事にした。買い物が終わり一階のたこ焼き屋の前で休むのであった。


「ここはたこ焼きでも買ってたべますか」


 熱々のたこ焼きを買い。フードコートにて二人で食べる。しかし、生地の少ない勝負下着など買ってしまったが。


 どうしようかと悩むのであった。


  ***


 夜の空気に誘われて庭に出ると星を眺めると綺麗であった。


「美味しいモノでもあるの?」


 部屋の窓から時美さんが声をかけてくる。わたしは無視するか悩んだが小腹が空いていたので一緒にカステラを食べる事を提案する。時美さんはセクシーなボディーでありながら、天然おとぼけキャラである。きっと神様も残念な性格にオマケをしてくれたのであろう。しかし、使い道の無いセクシーボディーである。わたしが失礼な事を考えていると。


「ハム、ハム……視線を感じる」

「イヤ、変な事は考えてないですよ」


 カステラを食べながらの微妙な会話である。


「そうだ、後で一緒に星を見ましょうよ」

「えーめんどくさい」


 ま、時美さんだし……。当たり障りのない会話をしよう。


「このカステラ美味しいですね」

「でしょ、今、四代目が店主をしている、菓子屋のモノよ」


 ほほう。


 そんな伝統のある菓子屋のカステラか、通りで美味い訳だ。


「でも、そこの店主が言うのよ、時美さんは黙っていればいいのにね」


 それは万人が思う事であろう。試しに星を見る事を勧めてみるか。


「それは、星を見て教養をつけろとの事ですよ」

「何か、適当な事を言われている気がする……」

「そんなことないですよ、教養のある女子は星を見るのです」

「……」


 考えている、考えてる。しかし、騙している様で気がひけるな。


 そこに辻美さんがやってくる。


「ドラえもん、わたしに教養は必要なの?」


 だから、実の姉をドラえもん扱いするから。黙っていればいいと言われるのだ。


「あらあら、バカは教養など要りませんよ」

「えへへ、バカと言われた」


 怒らないのかよ。やはり、黙っていればいいのにだ。


***


 簡単に説明すると、和美家は小さな一軒家である。庭も小さく塀に囲まれていた。


「ミィー、ミィー」


 うん?


 子猫の鳴声がする。


 捨てられたのか、それとも野良猫なのかは不明であった。辻美さんがミルクを皿に入れて飲ませていた。


「ルドルフ二世で決まりだ」


 時美さんがもう名前を付けてしまった。黒と白の子猫は嬉しそうである。辻美さんがネットで猫小屋を買っている。どうやら、そこで猫を飼うらしい。気まぐれな猫が小屋に入るのか不安であるが小屋をポチリする。


「あ、ついでに、子猫用のキャットフードを買って」


 時美さんが辻美さんにアドバイスする。この世界には子猫用のキャットフードがあるらしい。


「ミィー、ミィー」

「あははは、こいつめ……」


 じゃれ合う時美さんは完全にルドルフ二世のとりこである。


「大丈夫ですか、時美さんは飽きやすいですよ」


 わたしが辻美さんに問うと。


「あらあら、心配?問題無いわ、わたしが面倒をみるから」


 数時間後、時美さんは飽きたのか携帯ゲーム機で遊んでいる。


「ルドルフ二世の面倒は見なくていいのですか?」


 ……。


 どうやら、本当に飽きたらしい。


「仕方がない、ミルクでも与えるか……」


 時美さんは頭をポリポリかきながらミルクを用意するのであった。

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