第6話 デート後編

 しばらくすると、信也くんがやって来る。これはデートなのかと改めて疑問に思う。胸はドキドキして素直に聞けない。ただ、雑貨屋でマグカップを選ぶだけの約束である。ショッピングモールに入ると先ずはスタバである。

砂糖一個の仕方が分からないので、苦いブラックコーヒーを飲みまったりする。


「新しいパソコンが見たいから、電気店に寄ってくれないか?」

「は、はい……」


 二つ返事で返してしまったが、やはりデートである事を感じた。信也くんはわたしの車椅子を押してショッピングモールの中を進むのであった。そして、電気店でパソコンを見た後で本題の雑貨屋に向かう。


 雑貨屋の中は薄暗くアンティーク西洋ランプが光っていた。値段が書いてあるので売り物らしい。


「六万か……」


 信也くんは値段を見て呟く。よくは分からないが、アンティークと言ってもレプリカなのでこの値段である。


「行こう、この雑貨屋は高い物しかない。一階のスーパーでの雑貨コーナーで買おう」


 少ししょげている信也くんは西洋ランプが欲しかったのであろう。パソコンは仕方ないかもしれないが趣味で西洋ランプは高校生には無理がある。


 雑貨コーナーに着くと。約束どおり、わたしが選ぶのであった。白色のマグカップである。値段も普通にリーズナブルな価格であった。しかし、これで正解なのかはわたしには不明であった。わたしがタジタジしていると。信也くんはレジで精算する。


「少し休もう」


 その言葉と共にオモチャ売り場の端にあるガチャガチャコーナーに行き、信也くんはベンチに座る。わたしの車椅子を押して色々回ったからだ。信也くんがサッカー部のキャプテンでも疲れるのは当たり前だ。そこでわたしはガチャガチャを一回することにした。出てきたのはタヌキのキーホルダーであった。うぐ、普通に要らない。


 これで三百円か……。動物ランドを選んだのが失敗らしい。


「さて、ランチにしよう」

「Wバーガーに行きたい」


 わたしの意見は高校生として普通の選択である。一瞬、困った顔の信也くんであったが優しい笑顔で応えてくれた。きっと、焼肉でも食べたかったのかもしれない。

わたしは背中にある折れた羽根を見かえす。ささやかなしあわせに折れた羽根の事が少しらくになった気がした。


 信也くんとのデートが終わり。


 わたしは辻美さんと時美さんへのお土産のシュークリームを手にしていた。ロータリーで信也くんと別れるとバスで帰るのであった。一人になり、やはり、車椅子の移動は大変である。最寄りのバス停に着く頃にはフラフラしていた。ここから自宅まで車椅子を押すのである。


 しかし、何故か歩いて帰る気分ではない。わたしの心は折れた羽根の影響なのか車椅子を選択していた。


 息があがりながら美和家に着く。玄関の中に車椅子を横付けして家の中を歩く。わたしの行動は疑問だらけだ。とにかく、お土産のシュークリームを時美さん手渡す。


「あれ、デートでのお土産とは余裕ですな」


デート……。


 改めて思い返すと血流が増して顔が赤くなる。シンプルなデートであったがわたしには特別な時間であった。


「あらあら、美味しそうなシュークリームですこと、今日はわたしがコーヒーを入れるわね」


 辻美さんがシュークリームの袋を開けて嬉しそうに言う。三人でコーヒーを飲みながらシュークリームを食べる。


……。


 皆、無口になるのが不思議であった。美味しい物を食べる時は無口になるらしい。


「あーまた、ダイエット中にお菓子を食べてしまった」


 顔は満足そうであるが時美さんのダイエット中がまた聞こえてきた。何時から始まって、目標体重も不明である。


「そうね……残念だけど今日はカレーライスよ」


 時美さんは辻美さんの一言に「意地悪」とだけ返して嬉しそうにする。ふう、時美さんのダイエットは長くなりそうだ。

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