ヴァンパイア・オブリージュヴァンパイア・オブリージュ 〜美しき〈吸血姫〉の尻拭い戦記〜

@saidaigessirui

プロローグ:始まりの戦記

今から千年ほど前のこと。

当時、この世界では人間と吸血鬼は種族間での闘争と休戦を繰り返していた。


お互いがお互いの矛によりお互いを傷つけては、矛を収め、また矛を抜く。

世界各地が血に濡れ、犠牲者は増え続けていった。


それは、永遠と終わることのない連鎖のようにように思われた。


だが、或る日を皮切りに世界は急変を始める。


きっかけは吸血鬼の元に〈吸血姫〉と呼ばれる特異個体が誕生したことだった。


それはその名の通り、姫、即ち女性の個体だった。

彼女は圧倒的な力を持ち、いとも容易く他を屠ることが出来た。


故に、彼女の登場により戦場は変容を遂げた。


吸血鬼はいかに、〈吸血姫〉を使うかを考え、人はいかに〈吸血姫〉から逃げるかを考えるようになった。

防戦一方の人間に対して吸血鬼の勝利は確実だと思われた。


しかし、吸血鬼の側には一つ誤算があった。


〈吸血姫〉が争いを好まなかったのだ。

〈吸血姫〉はいつまでも終わらない人間と吸血鬼の争いを憂いていたのだ。

〈吸血姫〉は次第に殺戮を拒むようになった。

やがて、〈吸血姫〉の足は戦場から遠のいていった……。


かくして、〈吸血姫〉は戦場から姿を消し、また人間も吸血鬼に対する不干渉を決め込んだ。


それによって世界は長い泰安の眠りに入る。


その後、千年以上もの間、争いらしい争いは起こることはなかった。


〜〜〜〜〜〜


しかし或る日、突然〈吸血姫〉は姿を消した。

吸血鬼は血眼になって探したが見つかることはなかった。

やがて、人間にも〈吸血姫〉の不在が知れ渡る。

人間は〈吸血姫〉の失踪によって思い出した。

一方的に虐げられた屈辱を。


両種族間には緊張が漂い始めた。

戦争が始まるのも時間の問題だと思われた。

そして、ついに再度、開戦の火蓋は下ろされる。

きっかけは、人間の吸血鬼統治区域への侵攻であった。


それにより、千年以上にも及ぶ泰安の眠りは妨げられた世界はまた混沌の波に呑み込まれていくのであった。



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