第16話 背負っているもの

 さて、あれからしばらく経った。僕たちはなんの変わりもなく毎日を過ごしている。今日も、シノと腕を組み、登校している。最早見慣れた光景らしく、目新しいものを見るような目は存在していない。まぁ、これでいいんだよ。僕達のこれが日常になった頃である。


「よう、晴人。」


 京介の声が耳に届く。振り返ってみると神田さんと手を繋いでいる京介。


「京介か。」


「なんか、お前と話すの久々な気がするわ。」


「そりゃああれだろ?お前がいつも神田さんと一緒にいるからだろう?」


「お、なんだ?嫉妬か?」


「馬鹿が、どうしてそうなるんだよ?ま、いつものノリで安心したよ。」


「そりゃお互い様ってやつだよ。」


 とまあ、そんな感じの挨拶を交わす。


「そんで、どうしたよ?」


「いや、特にこれと言ったことは無いけどさ、どうしてるかなって。」


「なんだよそれ。」


「なんだっていいだろう?俺たちっていつもそうじゃなかったか?」


「まぁ、それもそうだな。」


 不意に、ムギュっと腕にかかる力が強くなるのを感じだ。どうにも、今はシノだけを見ていてほしいようで………いや、流石に嫉妬はないよな?


「シノ?」


「………なんでも………。」


 あの、シノさん?なんでもないならその殺意をどうにか抑えてもらいたいんですけど………?


「あぁ………俺邪魔だったか?」


「悪い、先行っててくれ。」


「おう。じゃまた後で。」


 さて、そうして京介と離れることはできたが………。


「どうしたよシノ?」


「だから、なんでも………。」


「なんでもないことはないだろう?僕の腕をここまで強く抱き締めることなんてそうそうないじゃないか?」


「………だって、楽しそうだったんだもん。それで離れそうだったし。言ったよね?側にいて当たり前だって。でも今さっき力緩まってたよ?」


 え?あ………左様ですございますか?納得はできたが………ここまでの独占欲っていうのもなかなか考えものである。まぁ、僕が足を突っ込んだんだから僕の責任であることに変わりはないが。


「それは………ごめん。久々だったからさ。」


「………我慢させちゃってる?」


 あぁ、駄目な雰囲気になってきたな。欲と理性が入り混じっている現在のシノ。落ち着かせるのは至難の業である。だが、一言こう言うと不思議とどうにかなる気がするのはなぜだろう?頭をなでながら僕はその言葉を言った。


「大丈夫だよ。」


 その嬉しそうな顔を見るのが楽しくて、僕はこのような行動に出たのかもしれない。だって、この顔のためならば僕はそれなりの事はできる。そのくらいには僕を酔わせている訳だ。


「うん………ごめんね。こんな私で。」


 申し訳なさそうな一言。口元が緩んでいるというのは言わないでおこう。

 束縛強めな可愛い彼女。それでいい、僕がこの選択肢をとったんだ。ゆっくりでいい。


「大丈夫だって。」


 助けようと決めたなら、最後までやり切るというのが助けた側の責任だ。どれだけ重い事だろうと、時が来るまで寄り添い続ける。手を貸し続ける。それが助けた側の責任なのだ。

 自分で言うのも何だが、僕はそれなりに責任感のある方だ。故に、背負いきれないものは初めから背負わないようにしている。そうで無いと、きっと僕は屑になるだろうから。


「うん………ありがと。」


「じゃあ行くぞ?」


「うん!」


 そうして、僕達はまた歩を進める。僕が今背負っているもの。簡単に言うと、大切な人の時間である。これをいつまで背負い続けるのか、僕には見当がつかない。一生かもしれないし一瞬かもしれない。何が起こるかなんてわからないからな。だけどまぁ、これからを左右する大きな事には変わりない。だから………背負わなくちゃいけないんだ。


「シノ、いつまでも側にいてくれよ?」


「どうしたの、急に?」


「なんて言うかな………お前の気持ちがちょっとわかったってだけだよ。」


 僕だって、一瞬なんてそんなの嫌だと………そう思った。一生背負ってたって僕は苦痛に思わないないらしい。僕の考えが甘いのか、それとも本当にシノのためなら何だってできるのか………僕自身でも分からない程の謎の自信だ。

 この使命感が、一体僕達を、僕をどこに運んでくれるのだろう?分からない。わからないからこそ、楽しみと言うやつである。

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