第5話 青春かよ

 笑ってはいけない状況ってあると思います。僕にとってそれが今です。そもそもとして笑えない状況ではあるが、何してんだろうなと自分でも思います。そうです。問題となっているお昼休憩です。

 何が駄目って、お互い無言だからいけないんだろうっていうのはわかってる。わかってるけど………あなたでしょう?キスしてって言ったのは?どうすんの、この空気?僕は何したらいいかなんてわかんないよ?向き合って僕たち何してんの?

 しばらくの沈黙をはさみ、ようやく口を開くシノ。


「………なんかごめんね?最近私変だよね。」


 恐らく、自分の暴走具合に気がついたのだろうり少し真面目な話になりそうだ。


「まぁ、何ていうか昔から心配性な部分はあったけど最近抑えきれなくなってさ。」


「あぁ、それはちょっと感じてる。」


「本当にごめんね。なんか急に監禁したいなんて言い出したりしてさ。今日のキスのことだってごめん。何にも考えきれてなかった。やっぱり変だよね。」


 笑い混じりに彼女はそういう。やっぱりまだ理性はあるみたいだ。それでもどうしてこんなことに………まぁ、これに関して、僕が深入りするなんて選択肢は無い。多分、そういう時期になった。それだけだろう。それだけで、充分な理由だ。


「あれってさ、どのくらい本気なの?」


「法律がなかったら、多分めちゃくちゃにしてる。」


「………まぁ、そんなところじゃないかとは思ってた。」


「それでさ、やっぱり話しておこうかなって思って。」


「………大丈夫だ。あのときのことは幼馴染なんだからだいたい知ってる。無理に話さなくたっていい。」


「………私が、抑えきれなくなった原因。」


「………抑えきれなくなった原因?」


「そう。昨日さ、ハルが結構持てるって話したじゃん?それでさ………実際、ハルのことが好きな人はこのクラスにいるの。もちろん私以外で。まぁ、そんなこと気がついてもないだろうけど。それでさ、取られたくなんて無いんだよ。ハルに、どこにも行ってほしくないんだよ………。」


 この展開は………予想外だった。それが、シノのヤンデレ化のトリガーになっていたと言うことらしい。


「でも、その子に昨日言われちゃったんだ。『明日晴人君のこと呼び出して』って。もちろんそんなことしなかった。だって私もハルのことが好きなんだもん。これって人間として当然だよね?好きなものは取られたくないんだからさ。」


「まぁ、間違いではなかったな………ちなみに、その子にはなにか伝えたのか?」


「………何も、言えないよ。」


 理性があるだけ葛藤がある。その分だけ沈黙というのは長く続くものだ。今回の件はそれを体現している。


「まぁ………あれだ。取り敢えず、その子の件は断るよ。僕だってシノが好きなわけだし。で問題のその子っていうのは?」


「あぁ………香織かおり。」


 一条いちじょう 香織。うーん、全く接点はないはずである。強いて言えば、それこそ同じクラスなだけ。ただの面食いか?いや、自分でこういうのは自惚れてるか。


「一条さんか………そこまでの関わり合いっていうのもないからな………ちょっと話しづらいかも。」


「それで言ったら、ハルってこのクラスで関わり合いのある方が少ないんじゃない?もうちょっと交流深めれば?」


 実際そうだ。僕がまともに関わってるのって言ったら京介とシノくらいしか居ない。


「いいや………僕の性にはあわないんでな。このくらいの関係が丁度いいんだよ。まぁ、それはそれとしてだよ。」


 今は一条さんに合うのが先決だろう。


「一条さんって今どこにいるかわかる?」


「多分………屋上で待ってる。」


「………そうか。」


 さてと………なんでこんなシリアスなのかな?これこそ性にあわないってやつなのに。まあ、いいさ。僕にだって好きな人がいる。自分の気持ちを伝えるっていうのは大事だからな。まぁ、それが難しいっていうのもまた事実って訳だ。

 そういう訳で、僕は階段を登っている。色々、情報が渋滞しているがまぁ、やるべきことをやろう。

 その重たいドアを開けると青空が広がっていた。春のいい風が吹いている。それに長い黒髪をなびかせる同い年のその人が、そこに居た。

 何だ、青春かよ。

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