第3章「東洋のルソー」

第14話「おはよう、『優ちゃん』」

 登場人物紹介


 赤井優あかいゆう→何があっても、幼なじみの葵アズミのことを愛し続ける一途な主人公(男)。しかし、前章までは泣くか、逃げるか、自慰行為しかしていない、かっこ悪い男。


 あおいアズミ→優が片想いしているレズビアン。頭は悪いけど、女子力は高い。料理上手で、優の胃袋を完全に掴んでいる、ヨーソロー。


 桃井瑠美ももいるみ→アズミの『カノジョ』 前章でやっと本名と漢字が判明し、『るみさん』から昇格した。


 赤井陽子あかいようこ→優の母。元ヤンキーだが、息子のことは甘やかしている。カミュの『異邦人いほうじん』のせいで、優には「ママン」と呼ばれている。


 緑井朱里みどりいあかり→優の友達(女)。目隠れ、ダウナー、ボクっ子と、属性盛りすぎ。



(ここから本文)

 いつまで経っても、


 葵アズミへの恋心、


 捨て切れない僕は、


 こう言わざるを得ない。


「ごめんねアズミ、僕が女じゃなくて」


 ある日、


 神様がやって来て、


 思い悩む僕に、


 こう言ったのさ。


「大好きな幼なじみがレズビアンだから告白できない日々は苦しかろう、だから今日からお前のことを女にしてやろう」


 やった!


 この章からこの作品のタイトルはこう変わるんだ!!


「大好きな幼なじみがレズビアンだから、告白できなかったけど、神様の粋なはからいで、女の子に生まれ変わって、幼なじみと付き合うことにした赤井くん、もとい、赤井さん」ってね。


 いや、長いわ!!


 いくらなんでも、長すぎるよね……




「やったー……これで今日から僕は『優くん』じゃなくて『優ちゃん』だー……ムニャムニャ……」


 僕は、あまりにも間抜けすぎる自分の寝言で目を覚ました。


 一応、確認してみたが、胸はぺったんこのままだし、乳首は小さいし、何より股間に『アレ』がしっかりついていた、朝から元気に大きくなっている『アレ』が……


「夢か……そりゃそうだよな、夢に決まってるよな。第3章で主人公がいきなりTS性転換して万事解決とか、読者のことをなめすぎだよな……」


 僕は憂鬱な気持ちになった。


 春休みは夢のように一瞬で過ぎていき、今日は高校の入学式の日だというのに、いったいなんの夢を見ているというのか?


「ハッ……」


 憂鬱な気持ちになっていた僕だったが、部屋の中に誰かがいる気配を感じ、警戒した。


 だんだんと明るさに慣れてきた僕の目に映ったその人物は……


「おはよう、『優ちゃん』」


 ママンだった。


 最悪だ、さっきの寝言を聞かれている……


「おはよう、ママン」


「そんなことより優、大事なことは早く言えよな」


 ママンはベッドに腰掛け、馴れ馴れしく肩を組んできた。


 もちろん、実の母親にベタベタされたところで、何も思うわけはない。


 部屋着がジャージのおばさんにベタベタされたところで……


「大事なことってなんだよ」


「お前、女の子になりたかったのか?」


 ママンはニヤニヤしながら、思いもよらぬことを言ってきた。


「はぁ!? そんなわけないだろう! なんで! どうして!?」


 僕は朝から大声を出して否定する。


「いやー、見つけちゃったんだよなー、これー」


 ママンが手に持っていたのは、かの有名な『レズビアン風俗コミックアンソロジー』だった。


 あれから毎日のように『お世話になって』いる『レズビアン風俗コミックアンソロジー』


「なっ……」


 僕はママンの手から『レズビアン風俗コミックアンソロジー』を取り戻そうとしたが、あっさりかわされて、取り戻せなかった。


「いやー、私は心配してたんだぞ、中学生になってもエロ本のひとつも読まずに、文学だのクラシック音楽だのばっかりで、優はそういうことに興味がないんじゃないかってな。でも安心したよ、ついに優がエロ本を買って読むようになったんだからな。いや、私は嬉しいよ、まさか優の初めてのエロ本が女の子同士でえっちしてるやつだとは思わなかったけどなぁ、アハハハハ」


 なぜママンが笑っているのか、僕にはまったく理解することができなかった。


「それでお前は、責める方と受ける方、どっちが好きなの? 優ちゃん」


「朝から何を聞いとんじゃ! それと『優ちゃん』って呼ぶな! 別に女の子になりたいとか思ってないから!!」


「そうなのか?」


「そうだよ!!」


「そうかー、私はてっきり、優は『体は男だけど、心は女なの。でも恋愛対象は女の子だけ。百合、尊い』とかいう、複雑なセクシャリティーの持ち主なのかと……」


「んな奴、いるわけねえだるぉうっ! 朝からなめたこと言ってんじゃぬえぇずおぉ!!」


 ママンのとんだ言いがかりに、思わず巻き舌ヤンキー口調になってしまう、本当はこんな汚い言葉づかい、したくないんだけど、怒るとなぜかこうなってしまう、遺伝なんだろうから仕方がない。


「悪い、悪い。ちょっとからかっただけだよ、そんな怒るなって」


「まったく……でも、もし」


「ん?」


「もし僕が本当に、そんな複雑なセクシャリティーの持ち主だったとしたら、ママンは僕のことどう思う?」


「どう思うもくそも、お前は私の大事な一人息子だ。どんな性癖持っていようと、必ず受け入れてやるから安心しろよ」


「うーん……」


 せっかくいいこと言ってくれそうな気がしたのに、『性癖』なんて言葉を使われてしまっては台無しである。


「たとえお前が私のことを嫌ったとしても、一生離れてやらないから、そのつもりでいろよ。地獄の底、宇宙の果てまでもついて行ってやるからな」


「はいはい、そりゃどうも……」


「そんなことより、さっさと起きろ。高校の入学式に遅刻しちゃうぞ」


「はいはい、言われなくても起きますよ……」


 僕はベッドから出て、学校へ行く支度を始めた。



 作者謝辞


 こんなテンプレのテの字もなければ、両想いでも、甘々でも、ストレスフリーでもない、せつなさ炸裂の作品を上げても、どうせ誰にも読まれないんだろうなと思っていたのですが、だから最初の方は深夜にひっそりと上げていたのですが、ここまで自分の予想をはるかに上回るほど、たくさんの皆様に読んでいただけて、嬉しい限りです。最初の方は日刊ランキングにも地味に入っていましたし、感想もらえたのも早かったし。


 上を見ればキリがないけれど、作者的には手応え感じているので、序文に書いたように『思うまま』書いて、これからもひっそりと更新を続けていこうと思っているので、よろしくお願いします。

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