第34話

「エリス!」

「エリスちゃん!」


 橙色に近い景色が一杯に広がっている。急にウィリアムの顔が視界に入ったことで、空だったんだとエリスは呑気におもった。


「あ、ウィリアム?」

「おい、おい! エリス! 大丈夫かよ!?」


 メオンとの勝ち負けより、体中の痛みより、ウィリアムが生きていることのほうが、何億倍も嬉しかった。


「あ、あの人・・・・・・兄弟子が・・・・・・まだ・・・・・・」

「だ、大丈夫だ! 今レイチェルが縛ってる!」

「そっか・・・・・・陛下は?」

「ああ、父上もご無事だ! 今マーリンが治療してるよ! お前のおかげだ!」

「君の声が聞こえたんだ。へへ、そしたら、さ・・・・・・」

「ああ、お前やっぱりすげぇよ! あんなやつに勝っちまうなんて! 見えたぜお前が勝ったの!」

「ありがとう・・・・・・・・・大切なことを、君が教えてくれた・・・・・・・・・」

「・・・・・・! っっっ!」


 ウィリアムは、エリスをかかえながら抱きしめた。今更やってきた、耐えられないほどの絶え間ない激痛が酷くなる。


「馬鹿野郎! なんでお前が・・・・・・お前がお礼を言うんだよぉ!」


 けど、もう少し我慢していよう。ウィリアムのくしゃくしゃの泣き顔とぽつぽつと滴り落ちる涙。滝みたいに際限がなくて面白くて愛くるしい。


 なにより、ウィリアムの温もりをもっと堪能したいから。もう少しやせ我慢しようとエリスは微笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る