第13話 天使長ウルフェルの一矢の報い

 イシドル一行は、凍てつく猛吹雪の中を自国の居城を目指して進んでいた。

土地勘のある者たちでも、一面何がどこにあるのかすら、分からない程の豪雪で、

その寒さに耐えてはいたが、城の場所が分からなければ、

方向を定める事は困難であった。


独りを除く全員が、ヴァンベルグの居城を、探しながら進んでいた。

天使長ウルフェルは、寒さのおかげで感覚を取り戻し、自我に目覚めていた。

そして状況を確認しようとしていた。

悪魔たちに囲まれている事から、部下たちは、既に全滅させられている事を知った。自らの記憶もまるで何事も無かったかのように、記憶を深く探っても何も思い出せなかった。


己が第六位の天使長であり、そして封印されし者たちがいる事も、分かっていたが、この状況はどう見ても、何かに利用されようとしている事は、間違いないと感じていた。


悪魔たちの会話から、北東にあるヴァンベルグという国の城を探している事から、既にその地域の人間は滅ぼされ、悪魔の居城として、この桁外れに強い、元人間が、王として君臨している事は、明白な程の強さを実感していた。


通常の手順ではない方法で悪魔になっているというよりは、悪魔のエネルギーで、満たされている人間だった。

つまりはまだ同化していないとウルフェルは知り、

この男を何としてでも倒さねばならないと、強く感じた。


ウルフェルは第六位の天使長である。

それ故、神より授けられた特殊能力があった。

そしてその忠義心から、第四の勢力の封印を託された。

彼は神に心から赦しを乞い、この悪魔たちと共に自らの命を以て、倒す事に対して誓いを立てた。

まともに戦えば勝てない事は分かり切っていた。

これは自らに与えられた使命なのだと、ウルフェルは感じていた。

それは彼の能力は、これらの悪魔たちを倒す為に授けられた能力であった。

ウルフェルはこの者どもの居城で、能力を発動させる為、自分を偽って見せて、警戒されないように、注意を払いながら歩き続けた。


そして凍った巨大な城が見えだした。

猛吹雪の中で、チラつくように真っ白い世界に確かに何かがあった。

そして、それはヴァンベルグの居城であった。

イシドルは準備をする為、一度城に入り、再び出発する事を皆に伝えた。

ウルフェルは迷った。今やるべきか、それとも連れ出されてから、やるべきかを考えた。彼はすぐに決断した。

今は確かなチャンスであり、後に再びチャンスが来るとは限らないと。



 彼はわざと倒れたように地面に膝をつき、両手をついて、体中に巡る神聖なるエネルギーを全て、この白い世界に注ぎ込んだ。

ウルフェルはガブリエルの配下であり、水の属性の特殊能力を有していた。


ウルフェルの雄叫びのように、その力は積雪を全て水に変化させた。

山は岩の様に肌を出し、ヴァンベルグの居城を支える五本の石柱を凍らせていた氷も水になり、ウルフェルは、全ての力を一気に使い果たした。

高々とあがる荒波が何もかもを飲み込んだ。

城にいる悪魔も、北の施設も怒涛の如く、ウルフェルの怒りの一撃は、ヴァンベルグを飲み込んだ。

イシドルは気が動転し、天使を見て、その怒りを天使長ウルフェルにぶつけた。

怒りの一撃を食らってウルフェルは空高く宙を舞ったが、彼の顏は、満足した自信に満ちた顏をしていた。



サツキはすぐに北での変化を、ディリオスに報告した。しかし封印されし者がどこに現れるのかが、分からなかった為、予定通り事を進めるよう指示を出した。

サツキは命令通り、高閣賢楼に向かって、アニーを疾駆させた。

幸運にも天使のおかげで、ディリオスはイストリア城塞の守りにつくことが出来た。ヴァンベルグの居城は崩れ去り、多くの悪魔も怒りの荒波に飲まれて死んだ。


状況は相当変わる事になった。

五位の天使軍も現れる事になり、そして第四の勢力の封印も解かれた。

第六位の封印であった為、それほど強くは無いはずだと思ったが、安易な答えを選んだ事に気づき、すぐに気を引き締めた。


倒す事が出来ないから封印した訳であって、封印した時にも、おそらくは多大な犠牲の元に、封印されたと考えを改めた。


イシドルの動向も大きく変化する事になると考えた。

城も施設も配下も失った。

すぐにグリドニア神国を制圧し、自国として立て直すだろうと、ディリオスは考えた。その道のりはすでに、裏切り者によって整っており、そう動くしかなくなった。だが、悪魔の配下を全て失った。


ディリオスは北部に目を向けていた。

それは彼だけでは無く、大勢の人々が北部を見ていた。

一本の光の柱が、地上から上がっていたからだ。

ディリオスは直ぐに理解した。

そして、それは幸運だという事も理解した。

体に封印した第四の勢力は、第六位の天使長から上がっている事に疑念は抱かなった。イシドルと近い距離にいる、何者の味方でもない長い年月、封印されし者の行動は、復讐から始まるだろうとディリオスは考えていた。



(ディリオス様! 一体何者ですか?!)アツキは明らかに、動揺していた。

(誰かは限定できないが、第四の勢力である事は間違いない)

(我々はどうすればよいのですか? 皆動揺してます)

(お前たちは高閣賢楼に居ればいい。もうじきサツキもそっちに着くはずだ)

(私の能力で調べましたが、会話をしています。複数いるようです)

(分かった。イシドルが近くにいるはずだ。上手くいけばイシドルを倒してくれるかもしれない。第四の勢力は何者にも味方しないようだ。だから何もするな)

(わかりました。ディリオス様はどうされるおつもりですか?)

(俺も暫くは様子を見る。サツキのように探知は出来なくても、容易に分かるほど強いはずだ。イシドルの予定では、ベガル平原で第六位の天使長を殺す予定だったはずだったが、天使長の能力で我を忘れて、殺したに違いない)


(なるほど。それなら納得できます)

(ただ、どこに出現するのかは、俺もイシドルも分からなかった。だから奴はもしもの事を考えて、南下していたが、全てを破壊されて一瞬我を忘れたのだろう)


(これで封印された第四の勢力がどこから出るのか、はっきりしましたね)

(ああ。だがようやく理解できた。奴らは強すぎるから封印されただけの事はある。正直言って、戦いになれば俺でも勝てる自信はない。お前たちは高閣賢楼の中で第四の勢力について色々調べておいてくれ。鍛錬などは今はするな。探知能力があるかも不明だからな)

(わかりました。全員中に入るよう伝えます)

(俺たちの会話も暫くはやめておこう。緊急時のみ連絡してこい)


(はい。それが無難ですね。ディリオス様も無茶はおやめください)

(ああ。攻めて来る気配が無い限り、俺のほうからは仕掛けない。一応、先手はうっておいたが、予定通りに動いてくれるとは限らない。ではまた後でな)

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