ぬいぐるみにされた魔王

三ノ神龍司

第1話 どこにでもある討たれる魔王の物語

 そこはどこまでも続く闇が広がっている。不規則に並ぶ石柱が延々と続く先には、終わりは見えない。

 

 ここは『魔王の間』。空間がねじれ、外界から完全に切り離された世界。

 

 そこは今や所々、石柱が吹き飛び、地面にはクレーターが出来上がっている。


 荒々しく吹き荒れる聖魔入り乱れる魔力の渦には、並の存在では一秒たりとも生存を許されないほどだ。


 そこにいるのは、大きな影――魔王と――彼を倒さんとする勇者達だ。


 今や魔王が劣勢であり、片膝をついている。


 勇者が床を蹴り、跳びかかると、異形なる魔王の胸にある剥き出しになった核へと聖剣を突き立てた。


 幾度の変身を経て、魔王は魔力の塊である核を露出させてしまっているが、それを壊せるモノはほぼないと言って良い。


 唯一のものが――勇者の持つ伝説の聖剣だ。


 魔王の魔力渦巻く紅玉に聖剣が深々と突き刺さる。


 勇者はさらなる力を込めようとしたが、魔王が身体を大きく振り回したために大きく弾き飛ばされてしまう。


「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 魔王は苦しげに叫び、五メートルほどある巨体がかしぎ、手をついた。なんとか片手で聖剣を掴んで引き抜き、捨てるが、しかし紅玉に入ったヒビは大きくなっていく。魔力はとめどなく流れ出て、それが戦いの終わりを報せていた。


 勇者も片膝をつきながら魔王を見据える。


 魔王は、苦しげに貌を歪めながらもクツクツと笑いながら勇者を見返した。


「どうやら我の負けのようだな。……弱き者共が我を倒すとは見事と言っておこう。だが、これで終わったと思うなよ。幾星霜いくせいそうの時を経て我はまた蘇るであろう。その時は貴様ら人間共の最後だ」


「たとえ何度でも僕達は負けはしないっ!希望は絶対に潰えたりしないんだっ!」


 勇者の言葉に崩れ落ちる魔王はただ嗤って応える。さて、それはどうかな、とでも言うかのように。


 ――そうして魔王の野望は潰え、滅び去るのであった。だが、これで終わりではない。魔王は不滅でいつの世か、また復活を遂げて再度人類にあだなすだろう。


 それが世の理なのだ。

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