第3話 魔女と人型戦闘機



「魔女ってあの、黒い服を着て三角の帽子をかぶった、魔女?」

 佐々木はにこやかに否定した。

「服装はお好きになさっていただいてかまいませんよ。私たちの言う魔女というのは、便宜上魔力と呼んでいる未解明の力を、一定以上持っている女性のことです。中村さんは魔力をお持ちなんですよ」

 私が、とカンナは口をぱくぱくした。

「ねえ蓮太郎、私、すごいんじゃない?」

「そうみたいだね」

 蓮太郎がうなずくと、カンナはようやく不安そうな表情から偉そうな表情へ変わった。その顔の方がいつもらしくていい。蓮太郎は少しほっとした。

 佐々木が話を続ける。

「現在、この星が異星人と交戦中であることはご存知ですね」

 正式な発表はないが、以前ニュースを席巻したあの映像から、きっとそうでないかと察してはいた。

「あの通り、既存の兵器では戦闘にならなかった。それで、私たちは新しい兵器を作りました。それが、人型戦闘機、デアクストスです」


「デアクストス?」


「映像に大きな人型の機械が映っていたでしょう。あれを、この星でも作りました」

「えっ、あのロボットを?すごい!」

 カンナが身を乗り出す。

「すごくはありません。相手の機械を真似して作っただけで、仕組みもちゃんとわかってはいないんです。しかし、わかるまで待っている時間がないので、使っています」

「それと魔女がどう関係あるんですか?」

 蓮太郎はカンナのように素直にはしゃげなかった。固い声で割り込むと、佐々木は面倒そうに蓮太郎を見た。気のせいだろうが、佐々木は少し蓮太郎に当たりがきつい。

「デアクストスは2人乗りです。魔女と、操縦者が必要になります。中村さんは魔女に、雨野さんは操縦者になってもらいます」

 蓮太郎は仰天した。俺にあのロボットを動かせって?

「無理です、あんなの操縦できません」

「大丈夫ですよ、操縦自体は難しいものではありません。自転車に乗れるなら大丈夫です。少々慣れは必要なので、研修はしていただきますが」


「良かったわね蓮太郎、私のおかげね」

 カンナが小声で言う。

 確かに先に乗れるようになったカンナが蓮太郎の自転車の練習をしてくれた。しかしさっさと自分だけ自転車に乗り、こうよ、ちゃんと見てよ、もう1回!と檄を飛ばすだけの、実にスパルタ、それなのに放任主義な方法であった。

 蓮太郎はカンナと一緒に自転車を乗りたい一心でひとりで努力したので、そういう意味なら確かにカンナのおかげではあるのだが。

「でも、カッコいいじゃない。蓮太郎によくそんな才能あったわね」

「才能ではありません。操縦者は魔女に選ばれるんです」

 にやにやしていたカンナが驚いて佐々木を見る。

「操縦者は魔女が心を許した者でなくてはなりません。魔女が操縦者を受け入れない限り、デアクストスは動きません。ですから、魔女が大切に思う男性に操縦者になってもらうのです」


「……じゃ、蓮太郎で正解だね」

 カンナが悪戯っぽく蓮太郎を見た。

「私が魔女なら、相手は蓮太郎しかいないもの」

「カンナ姉」

 蓮太郎は真っ赤になった。やはりカンナもそう思ってくれていたという嬉しさと、告白は自分の方からしたかったという気持ちが混ざってどんな顔をしていいかわからない。

「中村さん、本当ですか」

 急に盛り上がる後部座席を振り返り、佐々木は戸惑ったようにカンナに確認した。

「はい、私の大切な人は蓮太郎です」

 カンナははっきり言って、握った手に力を込めた。

「……そうですか。魔女の方の意志は、できる限り尊重することになっています。雨野さん、いいですね」

 蓮太郎ははい、と答えた。

「では、今日からお2人は一緒に生活していただきます」


 それからも長い時間、2人とも佐々木への質問をし尽くしても余るくらいの時間を移動した。

 車幅ぴったりの山道を進んでいる時は、運転手の技術に舌を巻くと同時に、やっぱり騙されているんじゃないかと不安になった。

 しかし、その山道に不釣り合いなほど厳重なゲートがいくつもあることで、佐々木の話はだんだん現実味を増してきた。


 最後のゲートを越えると突然目の前が開けた。

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