第11話 ひな祭りイベント


「ネオ人材派遣会社田中マックスは三月の交流イベントを開催いたします。そのイベントは誰もが知っているひな祭りです」

ミーユは集まった人達に今日のイベントについて説明をする係だ。


今日はネオ人材派遣会社田中マックスの庭に皆は集まっている。


数日前。

ひな祭りとは一体何をするイベントなのだ?

ひな人形並べて、菱餅とひなあられを食べればいいと思いますよ。後は金平糖こんぺいとう食べたり?


人形を飾って食い物を食うだけのイベントなのか。


元のイベントが薄味なのに、ひな祭りイベントをやるだななんて、どうすりゃいいんだ。


「わぁぁあああああ」

イベント係は発狂した。


こうなったらムチャクチャやってやる。そうして生まれたのが今日のひな祭りイベントである。




時間軸を今日の話に戻す。


「ひな祭りイベントだって? 一体何をやるんだ?」

「俺はひな祭りって歳じゃないぞ」

「むしろ女子ですらない」


集まった冒険者たちは口々に言った。


どうやらまぁまぁな数の冒険者が今日は集まっているようだ。



「本日のひな祭りイベントでは、モンスター5匹倒すごとに1回分の参加資格を得ることができます」

ミーユは説明を開始した。


「へえ、モンスターを倒すのかい」

モブの冒険者おじさんはそう言った。


「そしてこちらをご覧ください」

ネオ人材派遣会社田中マックスの庭に超巨大なひな壇が登場した。


「皆さんにはこのひな壇を登っていただき、頂上で待ち受けるひな担当の人に金平糖を食べさせてください。そうするとお礼に、金平糖を食べさせてもらえます」


「なんだぁそれだけかよ」

「お雛様担当の人は誰なのー?」


「わたくし、ミーユ・ホレットが担当させていただきます」


うぉおおお


一部冒険者が盛り上がった。


「ミーユさんに金平糖を食べさせてもらえるなんて!」


「それがどうした、いくら美人だからといって口移しくらいしてくれなくちゃ驚きはしない」


「何、口移しだと!」


「それはいい、いいぞ」


うぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!


別の一部の冒険者のおじさんたちは口移しと聞いてすごく盛り上がった。


でもそんなのない。あとでがっかりするだけなのに、想像力がたくましいというのは幸せなことかもしれない。


しかしその他の冒険者、女性陣からは特に盛り上がりはなかった。さすがにそれだけではそうですよね。


「さらに、先着三名に賞金が出ます」

ミーユがそう言うと会場はその金額を聞き逃すまいと一瞬静まりかえった。


「一位、300万円、2位、200万円、3位、100万円です」


うぉおおお


初心者から中級者当たりの冒険者が盛り上がった。


「ルールの説明をさせていただきます。まずは乗り物は禁止です。それから魔法とスキルの使用も禁止です。己の肉体のみで頂上を目指してください」


「どこのモンスターでもいいので、5匹倒すごとにこのスーパーひな壇への挑戦権が得られます。ただし、このひな壇には様々なトラップや仕掛けにモンスター、果ては上級冒険者まで進路を妨害するものが沢山用意されています」


「ひな壇の外に出ると一度挑戦が終わりとなります。自分で出ても何かに出されても同じ扱いです」


「その後はまたモンスターを倒してくれば、再度挑戦できるという仕組みです」


「このスーパーひな壇は格段ごとにある程度は仕掛けが統一されていますので段を登るごとに様々な仕掛けをお楽しみください」



「どうせ上級者が勝つんだろうと思っている初心者の方、ご安心ください。冒険者のランクに応じてハンデがつけられます。ですので上級者の方でも簡単には勝てない仕組みになっております、さらに、参加賞や特別賞なども用意してありますので、低レベルな冒険者の方も遠慮なくご参加ください」


「ハンデは重り、スタート時間の調整です」


「それでは30分後にスタートしますので、それまでに参加の登録と、ハンデの調整を受けてください」



冒険者たちは登録を済ませて開始時間を待った。



「一体何がおきるんでやしょ」

茂助はあたりを見回すと最近見知った顔が結構いた。


「さぁ、わからねえが、賞金は欲しいものだ。それにしても人数が多いな」

三衛門もあたりを見回して言った。


「是非とも、賞金300万取りますわよ」

ドミール・ベタムが現れた。


「へぇ、お嬢。でも参加にはモンスターを倒さなきゃなりやせんぜ」

三衛門はいまだにモンスターを倒せていないドミールにそう言った。


「今日こそはモンスターを倒しますわよ」

ドミールは意気込んでいる。



「武器の差はうまらないよな」

鈴木はハンデがあるとはいえ、中級や上級の冒険者に勝つのは難しいだろうが、どうにか勝つ方法がないだろうかと思案していた。


「そうでもありませんよ」とお使い型マスコットデバイスのエルエが話しかけた。

「冒険者の皆様の装備も含めてハンデをつけておりますので、初心者の方でも優勝のチャンスはありますよ」


「へぇ、そうなんですか、それはよかった。賞金が手に入れば一気に装備を買えるな」

鈴木は人形が浮いてることに少しは驚いたが、ファンタジー世界ならそれくらいよくあることだろうと特に気にしなかった、それよりも優勝のチャンスがあるとわかってがぜんやる気を出した。



「なんか強そうな人ばかりだよ。かおりちゃん」

町田美樹は正直ビビっていた。


「そうだね。でもせっかくのイベントだから楽しもうよ」

と関口かおり。


「そうだよ。ハンデもあるんだし、むしろ優勝しちゃおうよ」

と幡ゆり子は軽いノリで言った。


「できるかな、ゆりちゃん」と関口かおり


「できると思えば何でもできるよ」と町田美樹


「そうだね。だって私たちはアイドルだもんね。ハハハ」

幡ゆり子は笑って言った。


「ハハハ」

三人は仲良く笑っていた。


「あ、こないだの人いるよ、話してみようよ」

町田美樹は、少し離れた場所にいたメーラムのところへ行った。


「こんにちは」



「やあ、君たちか」


「こないだはありがとうございました」

三人は声をそろえてメーラムに改めてお礼を言った。


「ああ、息災なようで何よりだ」メーラムは表情を変えずに答えた。



「メーラムさん、今度私たちのライブに来てください」町田美樹はまさかの勧誘をした。


「魔物を倒すのに予定は立たない。約束はできないが、機会があれば応じよう。概ね魔王を倒して世界が平和になったあとになるだろうがな。それでも良いか?」


「はい、魔王をバンバン倒して、世界を平和にしちゃいましょう」

町田美樹は魔王を侮っていた。そういう向こう見ずなところが町田美樹の魅力でもあるのだが。


メーラムの表情が一瞬和らいだように見えた。

「ああ、そうだな。魔王の討伐には尽力しよう」


「ところでメーラムさんは今日はなんで来たんですか」と関口かおり


「あ、確かに。メーラムさんこういうの来なさそう」と町田美樹はやや失礼な言い回しだ。


「パーティーになるべく実力者を見極めるためだ。交流イベントとはいえ冒険者の実力はわかる」


「へーそうなんですねー」幡ゆり子は勉強熱心なメーラムに感心していた。


「まぁ主らには、そこまでの余裕は無かろう、単純にイベントを楽しむといい。よい訓練にもなろう」


「はい、がんばります」と町田美樹




「ヒーヤァァァア」

いつものあいつが叫んでいる。


「優勝はいただきだぜ―」

グラムドの優勝宣言に周りの人間が注目したが、すぐにみんな目をそらした。

かかわりたくないんだろうな。


しかし一人だけ、グラムドに話しかける者がいた。

「そうはいかないよ。僕も優勝を狙っているんだ」

ノイフェは物おじせずにグラムドの前に立った。


「なんだぁー、おめえ? 俺の優勝をじゃますんのかよ。それならただじゃ置かないぜ―」


「うん、受けて立つよ」


「人の結婚の邪魔をするやつは容赦しねーぜー」


「え? 結婚?」

皆が驚き振り向いた。

「優勝して口移ししたらそりゃあもう結婚するしかねえだろうよ」



「そういうのありませんから」

通りかかったエルエはモヒカンをさわさわしながらグラムドに教えてあげた。



「うるせー、とにかく結婚だー。ヒャーアー、うぉぉおおお」


うぉおおおお


なぜか結婚という単語を聞いて他の冒険者も盛り上がったやつがいたみたいだ。



さわさわ


エルエはしばらくグラムドのモヒカンにくっついていた。



「俺のモヒカンに触るんじゃねーぜ―、ヒャァーハー」


でもなんだかグラムドは楽しそうだった。


ノイフェはそのやり取りを見ていた。


その様子をさらにラッセンソンも見ていた。

「ちらほらと凄腕の冒険者が混じっているようだが、彼らはイベントとやらで実力を発揮できるのだろうか」



ネオ人材派遣会社田中マックスに登録にやってきたのだが、あいにく今日はイベント日で対応できないと言われてしまった。

仕方なしに今日はイベントを観察することにした。よってラッセンソンは参加はしない。



「そろそろ皆さまの準備は整いましたでしょうか」

ミーユはマイクを通して冒険者たちに呼びかけた。


「それではスタートの時間です。 …3…2…1…スタート」


ついにイベントが始まった。



まずは初心者グループがスタートした。彼らは一斉に転移門のある部屋へ向かった。


「行き先はどちらに?」

転移門の守番扉政影は参加者たちに行き先を聞いてはそこへのゲートを開いていった。


一度に三つも五つもゲートをひらいて、滞りなく対応している。さすが転移門の守番だ。



鈴木は部活動で調べたゴブリンの分布を頼りにゴブリンのいる場所を選んだ。

鈴木と扉政影のやり取りを見ていた茂助も鈴木と同じ場所を扉政影に告げて鈴木についてきた。


暇があればゴブリンを倒していた鈴木は5レベルになっていた。

一方の茂助も道場通いで少しは強くなったのだろうか?


鈴木はゴブリンを見つけると、走って行ってナイフで切りかかるがゴブリンの方もよけたり盾で防いだり暴れたりして、なかなかうまくいかない。


ザク


やった。



茂助は急がず慎重にゴブリンとの距離を詰めていった。


鈴木が一匹目のゴブリンを倒した。

「やった」


茂助はまだゴブリンとの距離を詰めている。


鈴木は調子を取り戻し、次々とゴブリンを倒して5匹目の討伐を終わった。

そして、ゲートの方へと戻って行った。


茂助はまだ一匹目のゴブリンを倒せずにいる。


「いやー」


ザク


ついに茂助もゴブリンを倒した。茂助はレベル4になった。



ゲートを抜けてネオ人材派遣会社田中マックスに戻ってくるともう何人かの冒険者がひな壇への挑戦を開始していた。


鈴木は討伐数の確認をしてもらうとすぐさまスーパーひな壇へと挑んだ。



第1段


ツルツルステージ


「うぁああああ」


冒険者が一人流れ落ちてきた。滑る床に傾斜がかかってる。そして進行方向からの向かい風のおまけつき。


「く…」


「ぐわっ」

三衛門はさらに転がってきた丸太をよけるためにジャンプしたが着地と同時に転んでしまった。


縦方向に滑り落ちれば登りなおせるが横方向に滑り落ちると場外に出されてしまう。

そうなったら、またモンスターを倒し直すところからやり直さねばならない。


勢いをつけて正面突破を図ろうとしていた冒険者が、風に押されて、あ、転んだ。そして倒れたまま滑ってきた。


傾斜はさほどきつくはない。慎重に歩けば十分に登れるだろうが、皆が焦って、そして風に押され丸太に当たったり、避けるためにジャンプして着地で足を滑らせるなど難航しているようだった。


冒険者たちはなかなか前へは進めない。慎重に登るものがやや優位に立っている。


せいぜい15mから20mという距離を進むのに皆は難航している。三衛門は風の弱い端の方を風の抵抗を受けないように這って進むことにした。


ドフ


転がってきた丸太に顔をぶつけた。三衛門はそのままコースの外へと滑って行った。


慎重かつ大胆に滑らないようにうまく歩く者たちは徐々に第1段のツルツルステージを抜けて行った。


鈴木やRin・Feeの三人もこれに続いた。


そのころようやく茂助がひな壇に到達した。



第2ステージ


ブクブク熱湯綱渡りステージ


「要約するとつながあって綱渡つなわたりをしてください。落ちると熱湯が待っています。熱湯に落ちた方はコースアウトとして、モンスターを倒し直すところからやり直しです」

アナウンスはミーユだ。


「ヒィーヤァー」


勢いよく走ってたグラムドは真ん中の綱をつかむと揺らし始めた。


「落ちろっ それで俺が一番だ」


わっ


3人くらいロープから落下した。


「ヒャー」

「あつーい」

「グワー」


「汚いぞ」


冒険者の中でそんな声が上がった。


「言い忘れていましたが、冒険者同士の妨害はアリです」


「いうのが遅いぉー――」


そう言い残して一人の冒険者がまた落とされていった。


妨害がありだとわかるやいなや他のロープでも揺らし合いや殴り合いが発生し始めた。


「ミーユさんと結婚するのはこの俺だー」


「だからそんな話はありません」


ミーユははっきりと言っているのに、人の話を聞かないグラムドみたいなやつらが大量発生している。


そんなことをやっているうちに中級者たちがスタートした。


ロープの上でのバトルでうまく身をかわしながら戦っている者はなかなか進まない。


一番端のグループはバトルをするのをやめて協力して進んでいるようだ。賢い。



しかしロープの半ばあたりまで行くと強めのボールが飛んできた。


「痛っ」

思わず手を離してしまった冒険者は落下して熱湯に落ちた。


「あつぅーい」


コースアウトした人たちの中にはけがをしている者もいる、そんな人たちにネオ人材派遣会社田中マックスの職員たちはポーションを販売していた。商魂たくましいな。

職員じゃないやつが、混じってる当たりやはり商魂たくましいとしか言えない。


ヒュン ヒュン ヒュン ズド


飛んでくるボールが外れればラッキー。狭いロープの上では避けるのは不可能。


ロープに寝転がり這うように進むのが確実だ。


鈴木は端の方で人のいないロープを見つけてそこを渡った。運よくボールが飛んでこないタイミングだった。




第3段


トゲトゲスパイクステージ


「第3段はなんかこうトゲトゲしたステージです」とエルエ


説明が雑じゃないかなと鈴木は思った。


ゆっくり歩けば靴を貫通するような高さは無い棘が床から生えているが、急いで走るにはとても歩きにくい。おまけにギロチンめいた大きな刃が天井から吊り下げられていて振り子のように左右に振れているのがいくつもある。


先頭集団はトゲトゲステージを走り抜けようとして、あ、吊り下げられた刃に一人刺さった。当たったのは肩のあたりだ。そして床に倒れると床の棘が刺さって結構な血まみれ状態になっていた。


このころようやく茂助がひな壇ステージに現れた。そのすぐ後に中級者の先頭がもう現れた。その後続々と中級者集団が現れた。初心者集団もうかうかしてはいられない。


第3段は第2段に続いてやっぱりボールが飛んできた。それも棘付き鉄球だ。


ザクッ


痛てえ


冒険者が棘付き鉄球に当たり血を流しながら棘の床に転んだ。


棘付き鉄球は正面だけでなく左右に上からもやってくる。


「なんだこりゃぁ、殺意高すぎだろう」


冒険者は次々と血を出して倒れて行った。倒れた冒険者はなんか地面の複雑な動きで棘が波打つ床めいて外に出されていく。


しかし、装備が使えるので、盾や鎧をうまく使う冒険者たちに徐々に突破されていった。


運よく棘付き鉄球が飛んでこないところをゆっくりと通り抜けることもできた。


そろそろ上級者たちがスタートをした。


中級者の中には第1段を一っ飛に飛び越える者もいた。



第4段


もちもちとりもちステージ


「第4段はモチモチとくっつくステージです、食品衛生の観点と倫理観からもちっぽい見た目ともちよりもはるかに強い粘着力の新素材でできています。本物のもちはやっぱりやめておこうということでした」



「うおう」

もちもちとくっついて動けねえぜ。


ここではあちこちから火炎放射が発射された。


ゴウ


ゴウゥ


「アチャー」


冒険者たちはもちで素早く動くことができない中火炎放射で身を焼かれる。


ギャー


まぁまぁな阿鼻叫喚な図となった。


ゴウ


ゴウゥ


冒険者たちは炎に当たらないように地面に伏せてあとはくっつくもちの中を進むための筋力勝負だった。


このステージは装備が身軽な方が有利なようだ。




次々と脱落者が出る中、いち早くもちもちとりもちステージを突破したのは鈴木だった。


「よっしゃ、突破ー」


鈴木に続いて他の冒険者たちも突破して来た。


上級者グループの上位勢はすでに第1段を突破したようだった。




第5段


ミュージックオブ五人囃子ごにんばやし


「第五段は五人囃子が音楽を奏でます。それからハイスピード牛車が体当たりしてくるので注意してください」

エルエはさも当たり前かのように言った。


「我ら五人囃子の音波攻撃、とくと受けてみよ」

「あ、ほい」

「よー」

「あ、それ」

「あ、それそれ」


五人囃子が楽器を奏でると目が痛くなったり、耳が痛くなったり頭痛がしたり、目の前がくらくらしてついでに胃痛も催した。


「これじゃ、うまく歩けないぞ」

鈴木は何とか歩きだしたが、そこにハイスピード牛車が突進して来て危うくひかれそうになった。しかし鈴木は何とか回避した。


「危なかった」


鈴木は何とかうまく突破する方法を考えていたが、素早く通り抜けることにした。


他の冒険者も同じ考えに至ったようで、皆走り抜ける作戦だ。


「わー」


「ギャー」


「あ、それそれそれそれっ」


ハイスピード牛車が突進して次々と冒険者を場外へとはじき出していく。


「あの牛車のうしはレベルが高いぞ」


「ここは牛車の方が本命だ。音波攻撃は耐性装備を付けていればそれほどでもない」


そんな声が聞こえてきた。あと五人囃子の妙にそれそれ行ってるのが腹立つ。



後続の中級者や上級者のグループは、第2段と第3段もアッというまに通り抜けて迫ってきている。冒険者同士のバトルによってけっこ脱落者も出ているようだ。



最終第6段、バトルオブ三人官女


「さぁ、最終段、最後の関門は三人官女が襲ってきます。撃退するかうまくかわしてゴールしてください」

ミーユはなんだか楽しそうにアナウンスをした。


「さぁかかってきな、一番乗りのあんたには手加減してやるよ」

と女冒険者が言った。


鈴木はどうすべきか迷ったが武器を出して挑んでいくことにした。


「はんっ、いい度胸だね。気に入ったよ。それっ」


鈴木はあっとゆう間に吹っ飛ばされて場外へと出されてしまった。落下した時に骨が折れたようだ。



「うぐ」


「ポーションはいかがですか」

ネオ人材派遣会社田中マックスの従業員が鈴木のところへポーションを売りにやってきた。


「1つ1000円です」

「買います」


鈴木はまたモンスターを倒すところからスタートしなくてはならない。




第六段の三人官女では一人目の官女役の冒険者をまだ突破できた者はいない。

初心者冒険者も、ハンデとして重りを背負う者も、魔法やスキルの禁止された中では官女役の冒険者は結構手ごわい。


しかし、だんだんと上級の冒険者が多くなってくると、戦いも官女が苦戦するようになり、横を通り抜ける者も増えてきた。


その中で一人目の官女役の冒険者はとうとう倒されてしまった。


一人目の官女役の冒険者を倒したのは、ムパーだった。


「やっと一人か、横をだいぶ抜けられちまった。まだ二人もいるんだ。次のやつはスルーしてやる」


そんなことを思っていたのだが、次の官女役の冒険者は何故かバニースーツを着ていた。

そう、ハーミンだったのだ。



「いくわよー」


ハーミンの一撃で次々と冒険者が場外に飛ばされていく。


次はムパーの番だ。

「くそっ、戦うつもり何ざなかったのによ。やるしかねえ」



「落ちなさいっ」


ハーミンのハンマーがムパーを襲う



「甘いっ」

ムパーはハーミンのハンマーを受け止めてカウンターを放とうととした。



「甘いわ」

しかし、ハーミンはそれを見越してそのままハンマーで吹っ飛ばした。ムパーはそのまま場外へと吹っ飛ばされてしまった。



その後も次々と冒険者たちが場外に吹っ飛ばされていった。



「もう少し骨のあるのはいないのかしら」

ハーミンは少し退屈そうだった。



「ここにいるぞー!!!」

そう、この男スディー・アームである。


「少しは楽しめそうね」

ハーミンは長槌を担ぎ上げた。



「それではお相手願おうか」

スディーは剣を構えた。



「はっ」

「やぁ」


お互いが武器を振りかぶり相手を狙うが互いの武器がそれを阻む。

ガチン


すぐさまスディーは横から第2撃を放つがハーミンもそれを長槌の柄で受ける。


「やるわね」


「はっ」


スディーの連続攻撃、ハーミンは長槌で軽々受けながら、横を通り抜けて行こうとしていた冒険者たちを吹っ飛ばした。落下した人たちの何人かは骨折くらいはしただろう。



「甘いわね」



中級、上級の冒険者たちはハンデとして重りを背負って、魔法やスキルの使用は禁止されているが、ハーミンはイベント側の人間だ。この制限はかかっていない。


現時点ではハーミンが優勢なのは致し方ないこと。



スディーも合計300kg超の重りを体中に着けている。


「はっ」



スディーは横、突き、横、逆横、切り上げと連続で剣を振る。


ハーミンはそれを長柄で受けて、反撃のハンマー。


スディーはぎりぎりでそれを躱す。そして横に一回転しながらの切りつけ。


今度はハーミンがそれをぎりぎりで避ける。


「ハーミンスペシャル」


ハーミンの長槌の一撃が放たれたが、スディーの剣で長柄の根元を受け止めこれを不発にさせる。


お互いに一歩も譲らない戦いだ。



二人の戦いをよそに迂回してハーミンと戦わずに進む冒険者も徐々に増えてきた。



そしてハーミンの近くを駆け抜ける者もいた。


「行かせないわ。エイッ」


ハンマーを振るハーミンの攻撃をかわして、突破していく男、メーラムとノイフェだ。


ハーミンが横を向いた瞬間にスディーの突きが来た。ハーミンはこれを躱してスディーを叩こうとするがスディーはこれを躱す。


そして振り終わったハンマーの隙をついて通過していった男オーディースだ。



ノイフェたちをまねてハーミンの射程内を抜けようとする冒険者が多数現れたが全部ハーミンに吹っ飛ばされた。


結局ハーミンの射程内を通り抜けたのは先の三人だけだった。





鈴木がモンスター退治に戻った時、茂助はまだ3匹目のゴブリンを相手にしていたし、ドミールは相変わらず0のままだった。


鈴木はさっさとモンスターを倒しきると、再びひな壇に戻って行った。


そのころRin・Feeのメンバーは第4段を突破するところだった。



スディーとハーミンが白熱するバトルを繰り広げる中、ついに先頭集団は最後の関門にたどり着いた。


三人官女の最後の一人はそう、クラスア・ハートだったのだ。


「ここから先は一歩も通さないわよ」

クラスアは斧の刃で地面に線を引きその前で仁王立ちした。



「しゃらくせー」

頭の悪そうな冒険者集団は一斉にクラスに襲いかかった。



「そー-い」


クラスアの斧の一振りで20名近くが一気に場外へ吹っ飛ばされた。うち一人は斧がかなり深めに入って盛大に出血していた。


「甘すぎるわ」


やってくる冒険者を次々となぎ倒すクラスア、そのたびに血の雨が降る。死人は出さないように最低限の手加減はしているが、逆に言えば、死なない程度に全力で切りかかってくる上級冒険者クラスア。危ない(アブナイ)




ハーミンとスディーの一進一退の戦いも徐々にスディーが苦しくなってきた。

しかしそれでもどちらも決め手となる一撃は食らわないでいる。どちらも小さな傷から出血くらいはしているが、すぐさまポーションを飲んで回復しながら戦っている。


優勝を目指す冒険者はハーミンを迂回し、優勝をあきらめた冒険者はスディーとハーミンのハイレベルな戦いに見入っていた。


こんな戦いはめったに見られるものじゃない。


「いいぞーいけー」


観客と化した冒険者はスディーやハーミンを応援していた。



スディーの他にハーミンに挑む者はいなかった。



いや、いた。


「ヒィィィイイーヤァァァァアア」


「俺だー」


そう、モヒカンの男グラムドだ。


グラムドは剣を抜いてハーミンに向かって行った。



「邪魔よ」

ドカ

「ぐえ」


グラムドは一瞬で場外にはじき飛ばされてしまった。そして落ちた衝撃で骨折した。



最終関門のクラスア、こいつノリノリである。スディー以外には結構手加減をしているハーミンと違って、こいつは結構全力でりに来てる。殺意が高いですね。


クラスアに近づくヤツは片っ端から大量出血させられて場外へどんどん飛ばされる。


もはやクラスアを止められるものはいないかのように思われた。



「ふん」「やぁっ」


メーラムとノイフェがクラスアに同時攻撃しかしクラスアは斧の刃の側面と斧の柄でこれを受け止めた。


メーラムの連続攻撃、側転回避からまた連続攻撃。


ノイフェも連続攻撃、顔を狙う、手を狙う、斧を狙うしかしすべてクラスアに防がれる。


「来たわね。やっとまともなのが。一人はちっこいのだけど」

クラスアは楽しそうだった。


「クラスア、強いね」とノイフェ


「冒険者の血を流しすぎだ。ゴールして終わらせる」

メーラムも真剣な面持ちだ。



「ふっ」「やぁっ」



メーラムの右から振りかぶるバジュラ攻撃、クラスアは避けて斧を振る。メーラムは横回転で回避して左手でバジュラ攻撃。


クラスアはそれを腰をかがめて避ける。


避けながら地面から尖った石柱を発生させて二人を刺そうとする。


ノイフェは石柱をよけ切り倒しながらクラスアに近づく。


ノイフェの袈裟切り、見切って顔の前1cmで避けるクラスア、ノイフェの突き。斧の刃で受けて回転、そのまま回転切り。


ゴツ

ノイフェは剣で受けたが受けきれず腹にかすり傷を負いながら、4mほど吹っ飛んだ。


メーラムは石柱をよけながらクラスアの側面へと回り込んだ。


ゴールはもう目の前だ。


しかしクラスアはメーラムがそれ以上一歩でもゴールの方へ近づけば真っ二つにしてやると言わんばかりの気迫で威圧。


メーラムもはギリギリであるとわかってそれ以上は回り込めない。


ノイフェが飛びかかって切りかかる。


メーラムもそれに合わせて足を狙いに行く。


クラスアはメーラムの攻撃をジャンプして回避、ノイフェは蹴り飛ばして近づけさせないようにして、メーラムに斧を降り下ろす。


「アースクラッシュ」


地面に転がったメーラムも体を回転させて斧を避けた。



その一瞬の隙をついて鈴木はゴールした。



「ゴーーール、第一位は鈴木!」



ノイフェたちもスディーもどちらも一進一退の攻防だ。

ハーミンはともかくクラスアには他の者を相手にしている余裕はあまりなかった。


大技を振った瞬間を見逃さなかった鈴木は見事だっただろう。勇気もあった。



「しまったー」


近くまで来て隠れていた他の冒険者も一斉にゴールを目指して突進した。


しかしすでに油断していないクラスアの前では、次々と斬り飛ばされるだけだった。


また血が吹き荒れる。



「これであと2人ゴールすれば終わるわけだな」


メーラムはようやく終わりが見えたという表情に一瞬なったが、またものと表情にすぐに戻っていた。



「さぁあと二人はいったい誰がゴールをするのか、むしろ予想より真っ赤になっているこの血祭りを早く終わらせてくれるのは誰なんでしょうか」

アナウンスのミーユは早い終了を望んでいた。



「少年よ。我ら二人がゴールすれば戦いは終わりだ」

メーラムはノイフェに話しかけた。


「僕はまだ戦えるよ」

とノイフェ


「人間と戦うのが勇者というわけでもあるまい。傷ついたものが多すぎる。いずれ手が回らなくなるぞ、そうすれば死人が出る。むやみに死人を出したくはあるまい」


「わかったよ」

ノイフェは承諾した。

「どうすればいい?」


「二人で攻勢をかける。隙があると思えばいつでもゴールへ向かえ。私もそうする」


「わかったよ。やろう」



ノイフェとメーラムは作戦を決めた。



「いくよっ」


ノイフェは走りだした。


「おおっ」

メーラムも走りだした。


「させるか―」とクラスアは斧を振ってくる。隙の無い機敏な攻撃だ。


ノイフェもメーラムも次々と攻撃をかわすが、今はクラスアの方が早い。


クラスアの魔法もある。


石柱がメーラムを襲う。側転回避、バク転回避、バク転バク転回避。


「やぁー」


ノイフェがクラスアに切りかかる。クラスアは柄で受けると見せかけて片手を離し、てこの原理を使ったプロペラめいて斧の刃がノイフェを襲う。そしてノイフェの肩口に切り込まれる。


メーラムのジャンプバジュラ。クラスアは柄で受けてメーラムの腹をキック。


メーラムを吹っ飛ばして距離を取った。



この戦いを見ながらミーユは時間切れを設定していなかったのは失敗だったと反省した。


素人の目にもクラスアの優勢に見えた。クラスアがこの二人を倒せば、この祭りはどうやって終わらせればいいのだろうかと困ってしまうところだ。


メーラムはバク転着地から一気に前に出た。クラスアの連続石柱攻撃だ。


グサ

「ぐ」


メーラムの脚に石柱が刺さった。メーラムは急いでバジュラで石柱を切り倒すとクラスアの次の攻撃に備えた。


「とどめよ」


クラスアの攻撃がメーラムを襲う。


「今だ少年」


ノイフェはゴールへと向かった。



クラスアの攻撃は飛び込んできたオーディースがその身をもって受け止めた。


グサーーー


ブシシュー


「今だ」とオーディース


メーラムはゴールへと転がり込んだ。


そしてゴール。


ノイフェもメーラムもゴールをして、3位までが決まった。戦いは終わった。



「しゅー---りょー----」


「やられたー」

悔しそうなクラスアだ。



終了のアナウンスを聞いてスディーとハーミンの戦いも終わった。


「なかなか楽しかったわ。次はハンデなしでやりたいものね」とハーミンはまだ余裕の発言だ。


「ああ」とスディーは短く答えた。その肩は上下に揺れ息は上がっていた。



祭りが終わったことでスキルや魔法の使用制限がなくなったので、オーディースは自分にヒールをかけると、次はけが人のところへと向かって行った。





「皆様お疲れさまでした。それでは表彰式に移りたいと思います」

ミーユは表彰を開始した。

「第一位、鈴木君。おめでとうございます。賞金の300万円です」



「ありがとうございます」

鈴木は賞金を受け取った。


「そして金平糖の授与です。口を開けてください」



うぉおおおおお


一部の冒険者たちがなぜか盛り上がった。



ミーユは親指と人差し指で金平糖をつまむと鈴木の口へと近づけた。


鈴木は歯で金平糖をキャッチして、おいしくいただいた。



うぉおおおおおおお


一部の冒険者が盛り上がった。やっぱうらやましいんだな。


「二位のノイフェ君、賞金200万円です」


「ありがとう」

ノイフェはお金を受け取った。


「三位のメーラムさん、賞金100万円です」


「私はまだまだ未熟だ。最後は助けがなければ切られていただろう。実戦であれば死んでいたということだ」

メーラムは賞金を受け取った。



上級の冒険者にとって賞金の金額よりも、同じく上級の冒険者たちとの戦いであったり、その戦いを見ることの方が価値があった。


それゆえに上級の冒険者も参加者が結構いたのだ。



そして戦った者たち同士にも、友情のようなものが芽生えたのかもしれない。




「ノイフェ、次は負けないわよ」


クラスアはノイフェに握手を求めた。


「僕も負けないよ」とノイフェ。


「私もだ」とメーラムはクラスアに握手を求めた。


「ええいいわよ」

クラスアはこれに応じた。




今日の振り返り。


結局ドミールは相変わらずモンスターを倒せなかった。


「次こそは頑張りますわよ」



三衛門、3回挑戦、ステージ3まで通過。


「お嬢に怪我がなくてよかってでさぁ」



茂助、2回挑戦、ステージ2途中まで。


「いやぁ、モンスターが手ごわかった。それさえなければ優勝できたのに残念でやした」




Rin・Feeの三人、町田美樹、関口かおり、幡ゆり子は3回挑戦、ステージ5突破後、ステージ6のバトルを遠くから見てた。



「なんか怖かったけど楽しかったね」と幡ゆり子

「冒険って危険がいっぱいなんだよね。ダンジョンにはもっと怖い罠があるって聞くよ」と関口かおり

「もっとレベルアップして、すっごい冒険アイドルを目指そう」と町田美樹




グラムド、7回挑戦、ステージ6でハーミンに負け。


「ヒィィィィヤァァァァア」

こいつになんか聞くだけ無駄だな。


「次は負けねえ。俺が優勝だぁー--」

意外とまともな答えだった。そして次は来年だよ。気が早いな。



スディー、1回挑戦、ステージ6でハーミンとバトル中にイベント終了。


「よい訓練になった。ハーミンと言ったか? あれほどの使い手はそうそういない。また手合わせ願いたいところだ」



オーディース、1挑戦、ステージ6でクラスアに切られているうちにイベント終了。


「痛かったですよ。すっごく。死ぬかと思った。だけど早くイベントが終わってよかったよ」



ノイフェ、1回挑戦、第二位でゴール


「僕一人じゃ、クラスアには勝てなかったよ。次はクラスアにも勝てるように頑張るよ」



鈴木、2回挑戦、クラスアの隙をついて第一位でゴール。


「なんか、優勝できちゃいました。お金ももらえたので装備を買いたいと思います」




メーラム、1回挑戦、ステージ6でクラスアに負けそうになるが、オーディースの助太刀もあり三位でゴール。


「未熟。ゆえに更なる鍛錬が必要だ」



ムパー、2回挑戦、三人官女の一人目を倒すもハーミンに負ける。その後ステージ4あたりでイベントが終了。

「時間の無駄だったな。回復代と参加賞が釣り合う程度だが、まったく稼げなかったな。今後のイベントとやらは参加するかどうか考えてからやらねばならない」



エルエ、運営側のお手伝い


「皆様お楽しみいただけたようで何よりです」



ミーユ、運営、アナウンス係

「今後も月一くらいで、冒険者たちの交流イベントを開いていく予定です。みなさま奮ってご参加ください」



ラッセンソン、見学。

「様々な冒険者の実力を見ることができました。パーティーを組む際には今日の情報は、役に立つでしょう」



扉政影、ゲートの守番として皆をどこかに送り続けた。


「それが仕事だ。参加できなかったのは残念だが、いずれは交流イベントに参加する機会もあるだろう」




ハーミン、ステージ6の妨害係、スディーとのバトル中に終了。


「賞金の使い道にハーミン堂の装備なんてどうかしら?」




クラスア、ステージ6の妨害係、3名に突破されて終了。


「悔しいー、次は絶対に負けないんだから」





今日はポーションが沢山売れたなぁ。



夕暮れとともに血みどろ戦いは終わった。


今日の出来事はのちに”ひなの血祭”と呼ばれることになる。それほどまでに血が流れた。


一部のステージと主にクラスアのせいで。



追伸、ひなあられに出番はなかった。

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