勇者募集!

おだわら

第1話 勇者募集

3…2…1…ファンブル



異世界転生、失敗!



異世界転生や、異世界転移も、もはや珍しくなくなった時代。ついに異世界そのものが転移してきた。



異世界と現世がつながって早10年。

様々な異世界に人類の経済圏を拡大すべく多くの組織が現世や異世界の交錯する界隈に参入した。


今日もシェア拡大を目指し、とある企業が、冒険者の中でも抜きんでて優秀な存在である「勇者」を募る。勇者面接、「始まる!」




どうぞお入りください


「本日はよくいらしてくださいました。面接を担当するミーユ・ホレットです。それでは面接をはじめさせていただきます。まずはお名前をどうぞ」

若い女性が言った。


「スディー・アームだ」

背の高い青年はその名を答えた。


「それではスディーさん、志望の動機をお願いします」

「志望の動機? それはなぜ勇者になったかということか?」

青年は少し戸惑ったように聞き返した。


「はい。それで構いません」


「私の家は、代々戦士の家系でね。魔王の領土拡大を抑えるため戦っていてな、私も幼いころから訓練を積んでいる。そして我が父やその仲間たちとともに魔王をなんとか討ち果たしたのだが、私以外の仲間たちはみんな死んでしまってな。しかも、悪いことに、魔王の血から更なるモンスターが大量に発生してね。それらに押されて故郷を失ってしまってな…そのあとは放浪しながら訓練を続けていたが」


「あの、」


「なんだ?」


「その話長くなります?」


「いや、成人になったので故郷を取り戻すための仲間を探しをはじめるところだ」


「はい、ありがとうございます。スディーさんは戦士の家系で、故郷を取り戻すために仲間を探しているということですね。わかりました」

ミーユはなれた口調で話を続けた。


「スディーさんは戦士の家系ということですが、どのような戦い方をなさるんですか」


「ドラゴンに乗って戦う、剣と槍の腕前もかなりのものだ」


「なるほど、ドラゴンライダーということですね」

ミーユはスディーとの話を紙に書き留めながら聞いていた。



「そう言って差し支えない」



「それで、私を呼んだ理由はなんだ」


「私を呼んだ理由?」

ミーユは意味が分からずに聞き返してしまった。


「勇者募集と書いてあっただろう?」


「はい、ありましたね」


「勇者とは当然私のことだろう。それでやってきたのだ」


「あー、正直スディーさんのことはご存知ありませんでした。多数の世界が重なってしまった昨今、勇者って世の中にたくさんいるものなんですよ」


「そ、そうなのか」


「お仕事の内容につきましては、面接後に皆さんとご一緒に説明いたしますので、お隣のお部屋でお待ちください」


「……承知した」

心なしか、スディーが小さく見えた。なんと言い表せない悲しみがにじみでていた。


「次の方どうぞー」





「クラスア・ハート。勇者よ」

大きな斧を持った若いショートカットの女性は力強く言った。


「それで、私になんの用? 勇者を呼んだでしょう?」

クラスアは部屋の壁に長斧を立てかけた。


「クラスアさんですね。用件といいますか、まずはいくつか質問をさせていただきます。そのあとで、別室でみなさんとご一緒にお仕事の説明をさせていただきますね」


「わかったわ」


「ではまずクラスアさん、志望の動機の方をお願いします」


「志望の動機って何? 呼ばれたから来たのよ」


「そうですか……ではまず、勇者になった動機を教えていただけますか」

ミーユは返答を聞き漏らすまいとペンを構えた。


「そうね。斧の人気を高めるためよ。ほら勇者っていえばすぐに剣だし、ほとんどの冒険者や戦士も剣が多いじゃない。それか槍。斧だってカッコいいし、斧を持った重鎧戦士なんてサイコーにカッコいいのに。斧を持っているだけで、バカにされる世の中なんて間違っているわよ。だから私が斧を持って勇者になって活躍して、斧がカッコいいって世の中に知らしめてあげるのよ」


クラスアは立ち上がって一気にまくしたてた。ミーユはというと、勢いに圧倒されてペンが止まっていた。


「斧…ですかぁ」


「なにその気のない返事」


「斧…ですか」


「何よー、斧のことをバカにしてるわねー、そんなに剣がいいのー?」


「い、いえ、私は斧を持った勇者がいてもいいと思いますよ、ええ、ええ、そうですとも。斧の勇者、カッコいいと思います」

ミーユはだいぶ困った返答をしたが、何とか話を穏便に済ませようとしていた。


「どーも、お世辞でもうれしいわ。斧の人気が出るかどうかは私の活躍しだいよ。絶対に斧に人気を出してみせるわ」

今度はこちらが気のない返事をした。ただ、クラスアはこんなことは慣れっこだ。


「ただ、世間の風当たりは…」


「いい、それ以上言わないで、わかっているわ。はぁ…斧はこんなにカッコいいのに世の中の人はなんでわかってくれないんだろう」



「それではクラスアさん、戦いの実績などを教えてください。魔王や竜王やそれに比

肩しうるものの討伐実績などを教えてください」



「実績は、そうね。モンスターたくさん倒したわよ。それはもうたくさん。12歳のころからだから、結構な数になっているはずよ。魔王や竜王の討伐は無いわ。そのようなものもないと思うわ」


「え、勇者なのに、王クラスの討伐実績がないんですか?」

ミーユは困惑した。



「う、痛い所を突かれたわね」

クラスアはやや引きつった顔だ。


「たまたま、運が悪かっただけよ。そういうのと出会わなかったの。場所さえわかればいつでも倒せるわ。何なら今からでもいいわよ。いずれ倒すんだし勇者で問題ないでしょ」


「…選考の際に…考慮させていただきますね」


「わかったわ。好きにして。それとお金よ。冒険するのにも装備を買うのにもお金がかかるのよ。お金を稼いで活躍して、人気もでるんだから、勇者するに限るでしょ。以上よ」


「わかりました。もう一点質問してもいいですか」


「なにか?」



「クラスアさん12歳からモンスターを倒していたとおっしゃっていましたが、現在の年齢は履歴書にある17歳で間違いないでしょうか」

ミーユは履歴書を見ていた目をクラスアの方へ上げた。


「そうよ」


「未成年の方ですと、お仕事の紹介の際に制限がかかる可能性があります」


「勇者に年齢なんて関係ないでしょ。魔王討伐できる時に、年齢を理由に辞めるつもり? 馬鹿らしい。」


「そうですねと言いたいところですが、私たちの世界では、未成年の労働には、法律で制限がかかることがいくつかありまして」


「じゃあ、そういうの無いのでいいわよ。どうせ今までやってきたんだし、勇者より成人が必要な仕事は、そういう人にやってもらえばいいわ。勇者は勇者の仕事をするわよ」


「…はい」

ミーユは困ったなという顔を何とかこらえた。


「それでは、お隣の部屋で、お待ちください。詳しいお仕事の説明はほかの皆様とご一緒にいたします」


「はいはーい、別に私一人でもいいのに」

クラスアは壁に立てかけてあった自分の長斧を持って部屋を出て行った。



「次の方どうぞー」



ドアを開けてどう見ても若い少年が入ってきた。

「やあ、来たよ。…それでお姉さん、僕は何をすればいいのかな」


「こんにちは、あなたのお名前は」

ミーユはだれか冒険者の子供かと思って対応をしようとした。


「こんにちは、ノイフェだよ」


「ノイフェくんね。親はどこにいるのかな?」

ミーユはやや屈み込んで視線をノイフェに合わせた。


「親はいない。たぶん、死んだ」


「……ごめんなさい」


「いいんだ。僕はもう子供じゃないし、そんなことは気にしないよ。僕はもう13歳だよ」


「13? そうね、ではお仕事の話をする前に、いくつか聞きたいんだけどいいかしら?」


「あなたの年齢は13歳で間違いないのね」


「そうだよ」


「あなたは何で勇者になろうと思ったの?」


「僕の育ったカラッサ村のラムジ婆さんが魔王がいるから魔物がいるって、魔物がいなくなれば、みんな安心して暮らせるって言ってたんだ。だから僕が、魔王を倒すよって言ったら、それが勇者なんだって言ってた」


「なるほど」

ミーユはノートに書き込んだ。


「それではノイフェくん、モンスターの討伐なんかはしたことはある?」

 持ち上げたノートの上から目を出してノイフェの顔を見た。


「たくさんあるよ。いろんなモンスターを倒したよ。特にスケルトンはたくさん倒したよ」


(魔王や、竜なんかは倒したことはないだろうな)

ミーユはノイフェにはこの質問はしないことにした。


「武器は何を使うの?」


「剣だよ」


ノイフェは剣を抜いて見せた。特に変わったことのない普通の剣だが、手入れは行き届いているようだ。しばらくミーユに剣を見せた後、ノイフェは剣を鞘へとしまった。


「ノイフェくんもし…もしもだけど勇者に年齢制限があるって言われたらどうするの?」


ミーユは仕事をしてもらうにあたって年齢が問題になることもあるのでノイフェの意気込みを確かめるために聞いてみたのだ。


「勇者に年齢なんて関係ないよ。僕はいつまでも勇者だよ。みんなは年を取ると勇者を辞めちゃうの?」

ノイフェは年齢制限の意味を勘違いしたようだ。


「そう、ね。勇者に年齢なんて関係ないわね。年齢を気にするのは仕事を任せる側の都合よ。勇者に年齢制限なんてないわ。ただ、あまりにも若いとみんな、本当の勇者なのか心配になるのよ」

ミーユは勇者とは何なのかを考え直していた。


「僕は10歳のころから勇者だよ。それに、ヌテリアは親がいない子供なんてまさしく勇者らしいって言ってたよ」

ノイフェは誇らしげに言った。


ミーユは勇者の伝説を思い出すと確かにそういったものが多かったことを思い出した。そのまま勇者のお話を思い出すよりも、新しく上がった名前が気になって聞いた。

「そのヌテリアというのは?」


「僕のパーティーの魔法使いだよ。ヌテリアは魔法がとっても強くって色々知ってるんだ」


「ノイフェくん、モンスターはそのヌテリアさんって人がほとんど倒してるの?」


「ううん、ヌテリアはすっごく強い敵と戦う時しか戦わない。モンスターのほとんどは僕が倒しているんだよ。ヌテリアはとっても強いんだけど、僕を勇者にするって、だから、甘やかすとだめだから、できるだけ僕が倒すようにって言ってたし、僕も早く強くなりたいからそうしてるんだよ」


「わかりました。ノイフェくんはそういう勇者なんですね。立派な勇者に成れるといいですね。……あっと、一つ聞き忘れていました。ノイフェくん、苗字はありますか?」


「無いよ」


「わかりました。詳しい説明は隣の部屋でするのでそっちで待っていてね」

様々な世界が重なり合った昨今、苗字の無い世界の住人も大勢いたので、ミーユはノイフェに苗字がないことは特に驚かなかった。むしろ、苗字のある世界の人間の方が少ないくらいだ。



「次の方どうぞー」



「失礼いたしますわ」

丁寧な口調の女性がドアを開けて入ってきた。

「ここに来れば勇者に会えますのね?」


「お嬢、お待ちください。危険なことはやめてください」

女性のあとに続いてボロい着流きながし姿の男が入ってきた。


三衛門さんえいもん騒ぐのはおやめなさい。はしたないですよ」


「しかしお嬢」

三衛門さんえいもんと呼ばれた男は先ほどよりも口調が強くなりかけたが言葉をつづけることはできなかった。


「三衛門」



「へえ」

三衛門はそれだけ言うと静かになった。


「あの」

ミーユは二人に話しかけた。

「お話を始めてもよろしでしょうか?」


「はい、始めてくださいまし」

女性はミーユに答えた。


「それでは改めまして、私はミーユ・ホレットです。普段はここで受付け係をしています。今日は皆さんの面接をさせていただきますのでよろしくおねがいします」



「ええ、よろしくですわ」


「ではまず、お名前をお願いいたします」

「わたくしは、ドミール・ベタムですわ。こっちのはうち使用人の三衛門さんえいもんですわ」


「ドミールさんと三衛門さんですね」

ミーユはノートに書き込んだ。

「それでは志望の動機をお願いいたします」


「ベタム一族再興のためですわ。ここ10年で我が領地にもモンスターがあふれ、人が住めなくなってしまいましたの。それで一族も散り散りになってしまいました。所在も不明ですわ。ですので、是非とも勇者様を連れ帰りモンスターを一掃していただきたいのです。ここへ来れば勇者様に会えるのでしょう?」


「今回募集したのは勇者なのですが…勇者さんに会う目的で来られた方はちょっと…」

ミーユは困ったなという顔をした。そして対応を考えながらもう一人の方に話題を移した。


「えっと、そちらの方は」


「へい、俺は三衛門というもので、お嬢の家の門番をしているものです」



「門番ですか…ちなみに勇者に成る予定などはありますか? お二人ともですが」



ドミールと三衛門はお互いの顔を見合わせた。先に口を開いたのはドミールの方だった。

「ありません…いえ、私が勇者になります」


「無理です。お嬢」


「いいえ、私が勇者に成ればモンスターも倒せますし、お金だって稼げるでしょう?一族再興のために私はなんでもやるつもりですわ」

ドミールは鼻息を荒げた。フンスッ


「危険なことはやめてください、お嬢。モンスター1匹倒したことのないお嬢が簡単に勇者に成れるものじゃありませんよ。危ないことは俺がやりますのでお嬢は無茶しないでください」

三衛門は何とかドミールをなだめようとしている。


「俺がやりますよ。俺が勇者に成ります。勇者に成れないまでもベタム一族の再興を果たしてみせますから」

三衛門はもう必死だ。


「それでは、お二人とも今日は体験の…そうですねインターンということにしましょう。それでできそうなら勇者を目指していただきまして本当に勇者に成ると決めた際には弊社に登録いただくというのはどうでしょう」

ミーユは何とか落としどころを見つけて提案した。


「そんな危険な…」


「わかりました」

ドミールが三衛門をさえぎって了承した。


「しかしお嬢」


「一緒に勇者を目指しますよ。三衛門。それともあなたのいう勇者とは私一人守れないものなのですか」


「そういうわけではありませんが」


「なら問題ありませんわね。あなたが勇者になるなら私は危険はないはずよね」


「無茶をおっしゃいますなあ」


「どのみち勇者を雇うお金もないのだし、今は仕事をしなくてはなりません。お前へのお給金だって払えませんもの」


「お嬢。そんなことは気にしないでください。俺一人の生活くらいどうとでもなりますよ」


「それでは、一族の再興はならないでしょう。やるしかないのですよ三衛門」


「お嬢わかりました。俺も覚悟を決めます」



(盛り上がっているところ悪いのですが、お金を稼ぐだけなら勇者にならずとも他の仕事でもいいのではないのでしょうか?)とはさすがに言えなかった。その言葉をミーユは心の中に留めた。


それではお仕事についてはお隣の部屋で他の方と一緒に説明いたしますのでそちらでお待ちください。


「わかりましたわ。行きますわよ三衛門」

「へえ」

二人は部屋を出て行った。



「次の方どうぞ―」



ドアを開けて変わった格好の男が入ってきた。頭にはターバンを巻いていて顔は日焼けして色黒だ。



「メーラムだ。まだ勇者ではないが、いずれ勇者になる」


「はい、メーラムさんですね。本日はよろしくお願いします」

ミーユはニコヤカに声をかけた。冒険者には変わった人が多いのでそれらに困惑した顔を見せないようにするプロの技だ。


「ああ、よろしく頼む」


「それではいくつか質問させていただきますね」


「かまわん、やってくれ」

メーラムは表情を変えずに答えた。


「まだ、勇者ではないとのことですが、戦いの方は可能ですか?」

先ほどの戦闘経験のなさそうなドミールをみて最低限の力量を確認したくなったからだ。


「経験は特別多くはないが、モンスターを倒したことなら何度かある」

メーラムは答えた。


ほっ

ミーユは最低限の力量はありそうだと安心した。しかしそれを顔には出さなかった。


「メーラムさんは勇者を目指しているということですが、どのような戦い方をするのでしょうか」


「踊りだ」


「踊り?」


「踊りだ」


メーラムは表情を変えなかった。

「踊りながら敵を攻撃したりけたり、踊りを詠唱の代わりにして魔法を放ったりする。簡単に説明するとそんなところだ」


「男性の踊り子の勇者?…ということで間違いないでしょうか?」


「そうだ、それで合っている」



「へー、ずいぶん珍しいですね」


「何か問題か?」

メーラムの顔が気迫にあふれていた。


「いえ、特に問題というわけでは」

ミーユはメーラムに気圧された。


「えっと、メーラムさんはなぜ勇者を目指しているんですか?」

ミーユは話題を変えた。


「勇者になるということは、勇敢であるということも必要だが、他人を勇気づけることができてこその勇者だと思っている。私のダンスで、人々を元気にして勇気付けたいのだ。だから勇者を目指す。いずれは勇者を名乗るつもりだ」

メーラムの表情は元に戻っていた。


「わかりました。高い志があってのことなんですね。素晴らしいです。そういう心構えの人材は、もろ手を挙げて歓迎いたします」


「そうか」

メーラムは相変わらずの表情で、身動きせず椅子に座っていた。まるで石像のようだとミーユは思った。


「ちなみに武器はどのようなものをお使いになるのですか」


「これだ、バジュラという」

メーラムは背中から2本のバジュラを取り出して見せた。



「踊り子でバジュラ使いっと」

ノートに書き込んだ。


「まだ、魔王などの討伐経験はないですよね」


「その通りだ。一人では魔王は倒せない。まずは身を鍛えることが先決だが、魔王を倒すにはやがて仲間を集めることも必要になろう。よき実力者と出会えればいいがな。今日はその機会にも期待している」


メーラムについてミーユは変わった人かと思ったが、案外しっかりした人だなという印象を受けた。

「はい、ありがとうございました。お仕事の説明は隣の部屋で行いますのでそちらでお待ちください」


「承知した」

メーラムは部屋を出た。



「次の方どうぞ―」



「名前は、えっと鈴木です」

学生服を着た青年は鈴木と名乗った。


「えっと、鈴木何さんですか?」

ミーユは下の名前を聞いた。


「えっと、名前はないんです。その、魔王の件で」


「あー、例の魔王の」


「あー、多分それです」


はたから見たらわからない会話を繰り広げる二人であったが、二人には話が通じていた。この重なり合った世界には、名を奪う魔王がいるというのは冒険者たちの一般常識であった。


「それでは鈴木さん、いくつか質問よろしいでしょうか」


「はい、あ、これ履歴書です」

鈴木は鞄から封筒に入った履歴書を取り出すと、ミーユに手渡した。ミーユは封筒から履歴書を取り出して内容を確認した。



「鈴木さんは、現在学生さんということで間違いないでしょうか?」


「はい、そうです」


「年齢は?」


「今は16歳です」


「志望の動機を教えてもらえますか?」


「はい、自分は異世界部に入っているんですが、将来のために実戦経験を積みたいと思いご応募しました。まだ異世界に行った経験はありませんが、将来は異世界の冒険者になって、やがては勇者になりたいと考えています」


「異世界部ですか、最近は増えてきましたよね。鈴木君の学校の異世界部はどんなことをしているの?」


「はい、異世界のモンスターの倒し方を書物やインターネットで調べたり、薬草について調べたり、筋トレとか、体を鍛えています、あと、罠の見つけかたとか解除の仕方も練習してます」


「割と一般的な異世界部ですね。異世界経験が無いとのことでしたが、指導してくれる冒険者とかはいるんですか?」


「いえ、うちの学校は田舎なので冒険者の人は来ません。異世界経験の無い学校の先生が顧問をやってくれています」


「なるほど、鈴木君は異世界には早く行ってみたい?」


「はい、早く冒険者になりたいです」


「お仕事をしてもらうとして、学校はどうするのかな?」


「今はまだ、学校があるので土日や祝日や長期休暇での冒険を考えております」



「なるほど~、日本人はごく一部の人を除けば異世界デビューも遅いもんね。学生のうちから、冒険者になろうなんて偉いね~」


「ありがとうございます」

鈴木はちょっと顔を赤らめた。


「あ、あと、」

鈴木は思い出して言葉を繋げようとした。


「はい、何ですか?」


「志望動機なんですが、自分が冒険者になれば、部活のメンバーにも異世界のことや冒険のことを教えてあげられると思いました」


「わかりました」

ミーユはノートに書き込んだ。


「鈴木君は異世界は未経験ということですが、使える武器や技能はありますか?


「特にありません。これから一生懸命学んでいきたいと思います」

鈴木は終始緊張した様子だ。


「ふむふむ、では、異世界に行ったら使ってみたい武器はありますか?」


「短剣を使おうと思っています」


「ほう、それは何故ですか?」

ミーユは意外そうに聞いた。


「レベルをあげればリーチの差は身体能力で埋められると思いますし、ダンジョンなどに入る場合には、大きい武器では動きにくいと思ったからです。それとコストパフォーマンスにも優れますし、あとカッコいいと思ったので」


「なるほど、なかなかしっかりした考えですね。どこかで学んだの?」


「漫画で読みました」



「あの有名な漫画?」


「多分そうです」


「あれ面白いよね~」


「はい、面白かったです」

ミーユと鈴木は面接と関係のない話題で盛り上がったが、そう言ったことはたまによくあることだった。


「鈴木君勇者になれるといいね」


「はい、なりたいです」


「ありがとうございました。隣の部屋でお待ちください」


「はい」彼もまた隣の部屋へ行った。



「次の方どうぞ―」



「ヒィヤッハー、邪魔するぜぃ」


高身長で筋肉質(というか上半身裸)でオレンジ色のモヒカンの男が勢いよく入ってきた。どう見てもモヒカン、どっからどう見てもモヒカン、世紀末かな?いやいやそんなわけない今は世紀末どころか世紀のまだまだ序盤です。


「こんに…」

ミーユが挨拶をしようとしたときモヒカンの男はさらに元気な声でミーユに語りかけた。

「よぉぉ、ねーちゃん、上玉だな俺と結婚してくれやっ」


「なぜ?」

話の展開が早すぎてミーユはなぜそういう話の流れになるのかを問いたい気持ちが口からこぼれ出てしまった。


「なぜって、そりゃあ、上玉だからだろ。それ以外に結婚する理由なんてないだろぅ」

実際ミーユは美人であった。スタイルもよい。


「いえいえ、そういう話じゃないんですよ。結婚はしませんし、それにいきなりすぎます」


「ヒャー、チクショウダメだったぜー。だが俺はあきらめねえ、誰かと結婚する日まであきらめねえぜ」


「誰でもいいんかーい」という魂の叫びがどこからともなく聞こえてきた気がした。どうやら気のせいのようだ。


「なんだかひどく頭が混乱しますね。お話を戻してもいいでしょうか」


「あぁん? 好きにしなよ。まだ俺になんか話があんのか」

モヒカンの男は右手を首に当てて首をグルグル回しながらミーユの方を見た。


「そうですね、まずはお名前をお願いします」

ミーユは勇気をもって名前を聞いた。正直帰ってほしいなと思っていたがそこはプロの対応だ。


「グラムドだ」


「グラムドさんですね」


「おうよ」



「グラムドさん、まずは椅子にお座りください」


「ああ」グラムドは言われたとおりにその場にあったスチールパイプの椅子にドカッと座った。両足を大きく開いて足を延ばしたまさにふてぶてしい態度の座り方だ。さすがはモヒカン。


「グラムドさん、今回は勇者募集ということなんですが、お間違いはないでしょうか」


「あたぼうよ、間違えるわけねえぜ」

間違いじゃなかった。残念。間違いであってほしかった。


「そ、そうですか、えっと、グラムドさん履歴書などはお持ちですか」


「俺がそんなもん持ってるように見えんのかよ!」


「いえ」


「んじゃあそういうこったろうよ!」

グラムドはいちいち元気よく答えた。そう、よく言えば「元気よく」

ちょっと怖い。


「えーとそれでは、グラムドさん、身長はずいぶん高いようですが、身長はおいくつですか?」


「190+25」だ

+25とは何だろうと一瞬考えてしまったが、どうやらモヒカンの長さも含めて身長という意味らしい。ミーユは一応ノートにメモした。



「ちなみに年齢は」


「23だ」


                     

「23…ですか」


「そうだよ」


「魔王を倒した経験などお有りですか?」


「ねーよ、んなもん。でも、すぐだよすぐ」

すぐなんなのだろうか?


「そうですか、ではモンスターを倒した経験などをお話ください」


「んなもん、すぐだよすぐ」

だからすぐなんなのだろうか?ミーユは困惑した。もしかしてモンスターを倒した経験もないのだろうか。ミーユは勇気をもって聞いてみた。


「もしかして、モンスターを倒した経験は無いのでしょうか?」


「だからそうだって言ってんだろ! これからだよ、これからぁ」

「はい」


「グラムドさんはこれから勇者を目指すということでよろしいですか」


「あんでだよ。勇者なんて言ったもん勝ちだろ、俺が勇者だってんならもう勇者だろうよ!」


「そ、そうかもしれません」ミーユはずっと脅えていた。この男はある意味状態異常を誘発する能力でもあるのかもしれない。


「それになネーちゃん、ネーちゃんはこの格好で街を歩けるか?」

オレンジのモヒカンに上半身裸、下半身は真っ黒な革のズボン。トゲのついた腕輪に肩当て。


「できません」

聞くまでもなく。

これってセクハラかな?



「俺は、この格好で街を歩いてるぜ~、そりゃ俺が勇敢だからよ、だから俺が勇者だっておかしかねえだろ!」


「はい、そうですね」

ミーユは蛮勇という言葉を思い出した。これもある意味勇敢なのかもしれない。が、勇者ではないのではないだろうかと思った。


「グラムドさんは異世界に行ったらどのような武器を使うつもりですか? やっぱり釘バットとか太めの棍棒とかですか?」


「はぁ!? なんでだよ。普通に剣とか使うだろ」


「えっ!?」


「棍棒なんて攻撃力が弱え、木でできたもんより、金属でできたもんを使うだろうよ。普通はよぉ。おめぇ、俺を何だと思ってんだ?」

意外にもグラムドは怒った様子はなかった。ただ親切に教えてあげたという風だった。


「なんなんでしょう」


「勇者だって言ってんだろ」


「そうでしたね」


「ちなみに、なんで勇者になろうと思ったんですか?」

ミーユは仕事ではなくただの好奇心で聞いてしまった。


「勇者になれば、女にモテんだろうよ。そしたら、俺も結婚できるぜー、なぜか今んところうまくいってねえけどよ」


「そうですか」

聞いて損したという気分だ。


「お仕事の説明はお隣の部屋で他の皆さんと一緒にしますので、そちらでお待ちください」


「ちっ、めんどくせーな、今説明してくれてもいいんだぜ」

グラムドはしぶしぶ部屋を出て行った。なんだか嵐が過ぎ去ったかのように、ミーユは疲れた。でもまだ今日の仕事は終わらない。がんばれミーユ。



「次の方どうぞ―」


「我を呼んだか?」

 次の順番の男が入ってきた。男は王冠に変なビラビラした首巻に、赤いマント、もうなんというか、王様というべき格好なのだ。

(何これ? 十三世紀の王族? クソダサ)

青いジャケットに、提灯のような赤いズボンに白いタイツ姿。ミーユもいちいち服装の名称がわからないが、とにかくダサいと思ってしまった。年齢はまだそれほどいっていないようだ。でも、ミーユはこんなことではくじけない、プロフェッショナルだからだ。驚きはしても最小限しか顔には出さず、あ、でも案外顔に出てたかも。仕事を続けた。


「初めまして、私はミーユ・ホレットです。本日は面接を担当させていただきます。まずはお名前をお願いします」


「ポイホイサンと申す」


「ポイホイさん?」


「いや、名前がポイホイサンなのだ」

ポイホイサンはその話題には慣れっこだという風に特に気にしている様子はなかった。


「それではポイホイサンさん(言いにくい)志望の動機をお願いいたします」


「我はピガリアの王子、やがて王になる身なれば、王族としての雄姿を日ごろから市民に見せる必要がある。規範となるべく行動することは王族の義務であり誇りなのだ。私の名誉のためでもあるし、やがて王となるピガリアの王子が、勇者となって、魔王を倒せばピガリアの名声も高まろう。世の安泰も国にとっては重要なこと。それをただやるだけのことよ」



「高い志をお持ちのようですね」



「志だけではない、それを実行するだけの実力も兼ね備えている。そうでなければならない」

どうやらわりと固い感じの人らしい。


「それともう一点、我が王室工院では鍛冶もやっていてね。その名を世に響かせるためにも私がそういった武具を使うことで宣伝にもなるはずだ」


ミーユはノートに書き込んだ。


「なるほど、なるほど、年齢はおいくつですか?」


「今年で20になる。勇者に年齢など関係ないはずだが、変わったことを聞くんだな。いや、それが市政のやり方ということか、失礼した」

ポイホイサンは自分で答えを出して納得した。


「モンスターの討伐経験などはありますか」


「細かい数字は覚えていないが、かなりの数は倒している」

しゃべり方に威厳はあるものの、ミーユはその実績を疑わしく思った。王族がモンスター退治なんてやるのだろうかと。そもそもこの人本当に王子なのかな?



「それではモンスター退治などのお仕事は問題なくこなしていただけそうですか?」


「うむ、問題はないだろう。ただし、よほどの相手となれば一人で簡単に倒せるというわけにはいかないと承知しておいてくれ」



「わかりました。それでは使っている武器はどんなものですか」


「武器は剣を使っている。我が工房で製造した剣、シャギャート十三世・ウインドだ。一太刀七斬の業物よ」



「すごいです、本物なら何千万もする剣じゃないですか」


「うちで作っていると言っただろう。当然本物だ」


(もしかしてこの人は結構お金持ちなのかな)とミーユは思った。本物ならば!


「他にも、我が王室工院で作っているものなら何でも説明できるが、聞きたいか?」

ポイホイサンは目を輝かせた。


「いえ、申し訳ありませんが、お時間の都合がありますので、それはまたの機会に」ミーユは長くなりそうな気配を察知して丁重にお断りした。


「そうか」

ポイホイサンは少し寂しそうだった。


「お仕事の説明はお隣の部屋で他の方と一緒にいたしますのでそちらでお待ちください」


「うむ、承知した」

ポイホイサンは部屋を出て隣の部屋へと向かった。ミーユはその後も何人かの面接を行った。



別室にて


「それでは皆様大変お待たせいたしました。まずは世界の成り立ちと皆様にやっていただきたいお仕事の説明をはじめさせていただきます」


明かりを消した部屋にプロジェクターで「異世界入門」の文字が映し出され、椅子には、20人ほどの人間が座っていた。ミーユはプロジェクターで写し出された画像の横に立ち、説明を始めた。



「現在では様々な異世界がつながりあっているわけですが、ここにも異世界出身の方も結構いらっしゃいますね。私はこの世界の出身です。この世界を基準にお話しさせていただきますね」


何人かのものがうなずいた。


「世界が重なりあう前、私たちの世界に名前はありませんでした。しいて言うなら地球と呼ばれていました」


「ある日なぜかマスドラ界とつながってしまい、我々世界の地下鉱山と出入口がつながったことと、マスドラ界の伝承に、マスドラ界の外、つまり天上に別の地の国があると呼ばれていたことから初めて地球にやってきた漂流者が、地球を地上と呼びました。そのことから私たちの世界を地上界、マスドラ界を地下の世界と呼び始めました」


傍聴者たちはみな常識だという顔をしていたように思うが暗くて見えない。何人かは初めて聞いたという顔をしている。


「この時点ではまだ地球という名称と地上という名称が入り混じっていたのですが、タピュノン界、ラーワスル界、バッヘン界、ベル世界、バス世界と立て続けに様々な世界へと入り口が開き、中には地球と半融合してる形の世界もできてしまいました。

もう短期間に色々な世界が増えて訳がわかりません。そんな状態でした」


「地上から空に見えるタピュノン界は、通称天上界と呼ばれるようになりました。他の世界の研究が進むと、地上界以外にも地球と呼ばれる地域がいくつもあることがわかり、地上界は、地球界とは呼ばれなくなりました」


「一時期、それ以外の世界も世界の様子から別名がつけられましたが、広く見聞が進むと、世界の名前にそぐわないことが多く見つかり、地上、地下、天上以外の別名は使われなくなりました。今でもごくたまに通称を使う人がいますが、もうほとんど何世界の通称なのか説明をつけなければ伝わらないほどになったので、ここでは説明を割愛します」


「勇者が大勢いれば、魔王も当然大勢いる」


「ある、有名な魔王が残した言葉ですね。その魔王はすでに討伐されて過去のものになっていますが、実際は逆で、様々な世界に多数の魔王がいることがわかった結果、それを討伐しようと立ち上がった人達が勇者と名乗ったことが勇者が増えるきっかけになったと言われています」


グラムドはすでに寝ている。モヒカンの前面が水平になりそうなほど首が傾いている。


「世界が重なり合ったことで、地上界にも魔法は広がり、他の世界にも地上の技術が徐々に広がっています。あるいは人間界が魔界と領土を取り合っていたりもしますね」


「人間界のシェア拡大と、人類生存圏の拡大安定のために、皆さんにはその邪魔になるものをぜひお掃除していただきたいと思います」


「ちなみにですが人間界同士も、シェア拡大のために、商売敵というか競合他社というものが多数あります。弊社にとっては、冒険者ギルドなんかはその最たるものですね。物理的な衝突や争いごとなんかはまずありませんが、他社の人間は魔族やモンスターという共通の敵がいるものの、必ずしも常に味方とは限りませんので注意してください。ただ、(人間を倒す前にモンスターを倒そう)をスローガンに一応人間同士の争いはほぼないのが現状です」


ミーユはちょっとした企業の事情を話した。その言葉には力がこもっていた。


「ですので、弊社といたしましても、できるだけ優秀な人材を集めたいというのが本当のところです、今日お集まりいただいた皆様も、ただの冒険者募集ではなく、はっきりと勇者募集といううたい文句で集まっていただいております」


会場のほとんどの人間がうなづいた。


「勇者に求められる力量は高いですが、報酬も同じく高くいたします」

クラスアとドミールが力強くうなづいた。


「勇者のお仕事はたくさんあります。モンスターを退治したり、魔王を退治したりと。現在、または将来の勇者さんたちと今日ご縁がありましたことをうれしく思っています」


「さしあたり、勇者の皆さんにはまず実力を測らせていただき、その中で力量に応じたお仕事をしていただきますが、それとは別で、特に、十大魔王、八大竜王、他魔王級のモンスターなどを倒していただくと特別ボーナスが支給されます」


「これらの討伐を一体でもなしえたときには、地位も名声も欲しいがままです。もちろんそれだけ困難な相手ということですが」


ドミールがすっと手をあげた。

「その十大魔王や、八大竜王というのはどういったものですの?」


ミーユは訝しんだ。

「この有名な魔王たちを知らないとなると、勇者への道は遠そうですねぇ。名前くらいは説明いたします。まずは、

不死の王

死の王

闇の王

無限の魔王

農魔王

財魔王

せいふく王

破壊の魔王

腐敗の王

閉塞の王

です」

ミーユは話を続けた。


「続いて竜王たちです。

宝晶竜ダイアモンドドラゴン

火炎地獄竜インフェルノ

偉大なる大地の巨竜グレートビックアース

古の地竜エンシェントグランド

青き長竜ロングボトムブルー

赤き深海竜マリンオブレッド

呪いの骨竜カースドボーン

酸の王竜アシッドキングです。」


「もっと詳しい情報はありませんの?」


ドミールは質問をした。


「居場所については、現在不明ですし、これ以上の情報は有料ですね。簡単な情報なら安いですが、重要な情報ほど入手が困難だと思ってください。最低限の情報を集められない人には、魔王や竜王に挑む資格がありません」


「なぜですの」


「情報を集めることも冒険者の能力の内だからです。討伐に必要な情報を集められない冒険者には、勝ち目はありません」

安易に一角千金をねらっているらしいドミールをミーユはたしなめるつもりで言った。


「屈強な冒険者たちが情報を集めて準備をし、徒党を組んで万全を期して挑んでも、いまだ討伐できていないのが十大魔王や八大竜王なのです。冒険者を無駄死にさせないためにも、これらの情報は誰にでも気安く流してはいけないというのが、冒険者の一般常識であり、暗黙の了解になっております。いくつかの世界や国ではすでに法規制もされています。日本でも無料で細かい情報を流してはいけないことになっています」


「これらの討伐は長期的にはもちろん弊社の目標ではありますが、直ちに決戦を挑める状態にはありません」



「それなら僕がやるよ」とノイフェが言った。

他の何人かも手をあげた。


「それはとても頼もしいですが、ノイフェ君。今はこれらの居場所はわかっていません。彼らも移動をするし、世界を渡る能力のあるものも結構いるようです」


「おっと、今の情報は勇者や勇者候補の皆さんを今日はまとめて勇者と呼ばせていただきますが、ということで教えられる情報です。まぁあくまで憶測の域をでない不確かな情報ですのでお代は頂かなくてまぁいいでしょう」


「ノイフェ君、命を無駄にしてはいけません。しっかりと準備ができてから挑んでくださいね。少なくともパーティーメンバーを探しているうちは、まだ挑むのは早いですよ。わかっていただけましたか」


「わかったよ」

ノイフェは答えた。他の勇者たちも手をおろした。


「まずは皆様の力量を確かめさせていただきます。それが最初のお仕事クエストとなります。


スディーが軽く握った右手の甲を左手でさすりながら聞いた。

「それで勇者を集めて、何をさせたいんだ」


「まずはこちら皆さんの中でパーティーを組んでいただきまして、ゴブリン100匹、ミノタウロス1匹、メデューサ1匹、いずれかの討伐もしくはペガサスの捕獲をやっていただきます」


「なんだ、そんなことか。わざわざ勇者にやらせるほどではないだろう。中級くらいの冒険者ならだれでもできることだ」


スディーはちょっとあきれ顔だ。何人かは簡単だという顔をして、何人かは困難だという顔し、何人かはそれは一体なんだという顔をした。


「もちろん勇者にとっては簡単なことでしょう。しかしこちらも勇者として雇うからには、最低限この程度できてもらわなければなりません。今日集まっていただいた皆様の中には冒険の経験の無い方も何人かいらっしゃるようなので。冒険の経験が無くてもパーティーで知恵や力を合わせれば目標達成は可能なはずです」

ミーユは淡々と言葉をつづけた。


「まずはパーティー決めからです。こちらで用意したくじを引いてもらいます」


「この程度なら私一人で十分なんだけどね」とクラスアも不満げだった。


皆はくじを引いてパーティーが決まった。


「すでにお持ちの方以外には、冒険者のためのモンスターの討伐を記録する装置を差し上げます。腕輪型、ネックレス型、指輪型、髪飾り型、コート型、バンダナ型、ワッペン型、魔法紋、があるのでお好きなものをお選びください」


「いただきますわよ、これって高価なものですの?」

ドミールは迷わず指輪型のものを選んだ。三衛門は腕輪型を選び、鈴木はバンダナ型を選び腕に縛った。



「どの企業、ギルド、冒険者協会でも同じようなものを無料で配っているので、売ってもお金にはなりませんよ。それに他人には使えないですしね」


「そうですの」

ドミールは少し悲しそうだった。


「期限は5日以内。場所や道具は各自の自由です。リタイアする場合は、記録装置に話しかけていただければ期限内なら救助も出ます。武器の無い方には最低限の装備を貸出しいたします。説明は以上です。他に何か質問は?」


ほとんどのものは首を横に振った。ドミールだけは不安そうだった。


くじ引きでパーティーが決まった。


ノイフェはスディーやドミール三衛門と同じパーティーになった。それともう一人だ。クラスアやメーラム、鈴木、グラムドはそれぞれ別のパーティーになった。


「それでは弊社所有の異世界ゲートを通って出発してください。」


各チームは話し合い行き先を決めたようだ。


いよいよ異世界冒険始まる(はじまる!)



備考:近況ノートからキャラクターの絵を見れますよ

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