第15話 大バトル
「どう?」
「しっ。あれ」
朱雀は人差し指を口の前で立てて玄武を黙らせると、あれだよと三つ向こうのビルの上を指差した。
そこでは、妖気がぶつかり合い、そして、殴り合う人影も見えた。
「両方女の子か。一体何で争ってるのやら」
ひらりと翻るスカートから判別した玄武が、にやっと笑う。
なぜ女子なのに女子に興味津々なのか。聞かないのが身のためというやつだろう。
「あ、あの子。一人は那岐様と関係あるっぽい」
「えっ」
「強い結びつきを感じるもの」
サラは今、攻撃した方と教える。人型に戻ってもう一度確認し、間違いないと頷いた。
「サラは晴明様大好きだからな。そんなことも見抜けるんだった」
「んにゃっ」
「じゃあ、一先ずあのお嬢さんに加担しなきゃね」
「ちょっと」
反論させなさいよと二人に向って怒鳴るが、もちろん無視される。と、そこに青龍と白虎が合流した。
「状況は?」
「晴明の一味と妖怪がバトル中だ」
「ほう」
「ちょっと」
無視して話を進めるなとサラは頬を膨らませたが、今はあのバトルを止めることだ。那岐自由と協力している呪術師ならば、今後も有益である。
問題の二人へと意識を集中させる。
晴明と繋がりのある少女は、ロングヘアで高校の制服を着ている。ジャケットのデザインからして、那岐自由と同じ高校だ。能力もなかなかのもので、妖気を浄化する力が強いらしい。
対する妖怪化した人間は、素早い身のこなしと毒を含む妖気を持つ、三つ編みおさげ髪のセーラー服の少女だ。素早く拳に毒霧を纏わせて攻撃できるらしい。こちらも相当強い。そして、そのセーラー服から、あの狐の少女と同じ高校だと解った。
おそらくだが、高校も能力別で分かれているのだろう。最近の人間事情には疎くなってしまったサラだが、そのくらいは推測出来る。
「ううん。呪術高校に妖怪高校か」
「は?」
「いや、なんでも」
朱雀に何を言っているんだという顔をされ、忘れてとサラは手を横に振る。しかし、能力別の高校に通っているとすれば、状況が変化したのも頷けるというものだ。
「ううん。つい最近まで、呪術師って厄介者で、だからこそ、私たちが力を貸さなければならないはずだったのに」
「まあな。って、考察はいい。あいつら、能力が対照的すぎる。このままじゃ体力がある方、必然的に妖怪側が勝つぞ」
「あっ」
そうだった。今はともかく、晴明の力になることを考えなければならない。
ここ最近では妖怪化した人間について考えることが多いが、サラたちが手助けしたい呪術師たちは、半端に能力があるせいで、妖怪側からも人間側からも嫌われやすい。
最初、この世界の晴明を見かけた時に、グレた能力集団と一緒にいたのも、どちらからも攻撃を受ける可能性があるせいだ。
だからこそ、妖怪に負けるわけにはいかないのだ。
「あの子の人生がここで変わっちゃうわ」
「そういうことだ」
五人はこのままでは拙いと、すぐにバトルが行われているビルへと飛び移った。
「なっ」
「きゃっ」
突然現われた五人に、呪術師の少女も妖怪の少女も驚いた声を上げる。しかし、妖怪化した子の方が反応が早かった。
「あんたらね。天夏先輩の言っていた本物の妖怪!」
そう叫ぶと、いきなり攻撃してくる。
「おっと」
白虎が素早く反応し、攻撃は無効化された。しかし、毒霧を使える彼女には、あまり攻撃されたくない。
「さすが妖怪。妖力で障壁を作るだけで防げるのね」
一方、少女は悔しそうに呟きながらも、好戦的に笑っている。
(まったく、妖怪化した人たちって、どういうわけか攻撃的な人が多いのよね)
サラは呆れつつも、さりげなく呪術師の少女を背に庇った。
「あ、あんたら」
「私たちは妖怪化した人とは別よ。それにせいめ・・・・・・那岐様と関係があるわ」
驚く少女に、サラはちょっぴり嘘を吐きつつ、大人しくしていてと頼む。
「那岐様って、那岐君のこと?」
少女はきょとんとし、ついで、あの能力ならば、こういう変な奴と知り合いでも当たり前かと納得していた。
その納得でいいのかは解らないが、後ろから攻撃されることはなさそうだ。
「那岐と繋がっているのか。ますます、こちらで捕獲する必要がある」
しかし、その話を敵に聞かれてしまい、少女がまた攻撃をしてくる。
「ああ、くそ。徐々に面倒なことになってきたぞ」
朱雀がひょいっとサラと呪術師の少女を抱え、空中に飛び上がった。一先ずここから退散だ。
「あっ、駄目!」
が、それに少女が抗議の声を上げる。そして朱雀の手から逃れようともがいた。
「お、おいっ」
「な、なんで」
「あそこに」
少女が指差す方を見れば、今まで気づいていなかったが、小学生くらいの子どもが倒れていた。
どうやらあの子を巡ってバトルが起こっていたらしい。
「あの子は」
「妖怪化しそうなの。一刻も早く、身体に溜まった気を浄化しなきゃ」
「なっ」
サラの確認に、少女はとんでもないことを言ってくれる。だが、妖怪化はいつ起こるか解らないものだ。それに、生まれ持っての能力の場合と、後天的に能力が開花し、妖怪化する場合がある。
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