第13話 今も昔も…

 予定外に自由に安倍晴明の生まれ変わりであること、自分たちが式神であることを伝えることになったとの報告を受け、サラたちは見事にずっこけた。

「ちょっと。なに勝手にカミングアウトしてくれてんの!」

「そうだぜ、玄武。何事にも手順ってもんがあるだろ。みんながみんな、お前みたいにデリカシーがないわけじゃないんだ」

「朱雀、後でこのビルの屋上に来い」

 サラを援護射撃しようとして、余計なことを言ってしまった朱雀だ。玄武が中指を立てて挑発している。

「まあまあ、落ち着け。ったく、あの鬼のせいで定期的に拠点を変えなきゃならなくなったってのに、ケンカすんな」

 白虎は馬鹿をやっている場合じゃないぞと二人を睨む。

「そうだ。それに状況が大きく変わりつつある。早めに晴明と合流したいってのが本音だ。今回は結果オーライだろ」

 青龍も判断は間違っていないだろうと取りなし、一先ずケンカは収まった。

「で、どうたったの? 晴明様。あっ、今は自由様、はおかしいか、那岐様は」

 サラはそれよりもと玄武に詰め寄る。

 タイミングこそ早まったものの、サラはずっと晴明と過ごしてきたのだ。早く会いたい気持ちが強い。

「ううん。とげとげしていて、青春真っ盛りって感じかしら。性格は悪そう」

 しかし、玄武の感想はサラが知りたいものと少し違う。おかげでがっくり項垂れてしまった。

「もう、玄武!」

「仕方ないでしょ。あいつ今、高校生だよ。ところが、私が安倍晴明に会ったのは、奴がもういい感じにじじいだった時だもの。ギャップが激しいのよね」

「いや、その後も生まれ変わりと会ってるんだからさあ」

 スタートと比較しても仕方ないでしょ、とサラは全力抗議だ。

「まあまあ。それを言うならば、サラが会った時って、丁度良く今の那岐と同じくらいってことだろ。どうだった?」

 青龍は話が進まねえよと割って入り、お前が一番見てるじゃんと指摘する。

「そうねえ。猫好きだったようで私には優しかったけど、他にはつっけんどんだったわね。今の情報と変わりなし」

 猫又に変化したのが幸いして、サラはすぐに晴明に受け入れられた。が、その後、この美少年がとんでもなく捻くれた性格をしていると知ることになる。

「じゃあ、しばらく性格はつっけんどんだな」

 朱雀、身も蓋もないことを言ってくれる。

「まっ、あの感じじゃすぐに会いに来ることもないだろうよ。それよりも、鬼どもをどうするかを考えたほうがいいいわね」

 玄武もまだまだよとサラの頭を撫で、その日は休むことになるのだった。




 晴明が特殊であるというのは、傍で見ているとすぐに解った。

「馬鹿馬鹿しい。明らかに人間の仕業だ。それを妖異だと騒ぎやがって」

 よく、このセリフを口にする。

 平安時代と言えば、百鬼夜行が通り、妖怪がわんさかいた時代のはず。それなのに、晴明はすぐに妖怪のせいだとは言わない。

「いや、すぐに言ったら陰陽師失格だよ。って、俺はそっち方向に進みたくないけどな」

 サラの疑問を読み取り、晴明はこう言うのだ。

 実際、彼が専門にしようとしていたのは天文道で、月や星の動きを調べることだった。

 この時代にすでに日食や月食を予測できたというのが凄い。サラはこの点に関して素直に感心していた。

 しかも、時間も正確なのだ。

 現代と変わらない。

 おかげで平安貴族たちは時間に縛られた生活をしている。

 晴明たち陰陽師――正確には陰陽寮の職員というべきか――は、特に時間厳守の生活をしていた。

 完全な国家公務員なのだ。

「想像と全然違う」

 少しは人語を操れるようになっていたサラは、思わずそう零してしまう。

 平安時代って、もっとまったりしていたんじゃないの?

 花を愛で、恋に生き、自由気ままなのが貴族じゃなかったの?

「未来で俺たちがどう語られているのか、不安になるよ」

 サラの言葉に、晴明は皮肉っぽく返してくれる。

「未来で? ううん。陰陽師に関しては知らないけど、妖怪は大人気だよ。漫画やアニメ、ゲームになっているし、ゆるキャラになっていたりするし」

「・・・・・・よく解らんが、多くの人が妖怪を受け入れているってことか?」

「うん、そう」

 頷いて、そう言えば、この時代に漫画もアニメもゲームもなかったと、サラは舌をぺろっと出す。ついでに身繕いをした。

 猫なので、毛並みを定期的に整えないと気になって仕方がないのだ。

「はあ。困ったものだな。妖怪・・・・・・怪異や鬼、その他、解らないモノを語り受け入れるというのは、悪い気の流れを生みやすい。聞いている感じからして、楽しんでいるようだからいいんだが、それでも、それらの名を呼ぶことで呪を強めることになるからなあ。いいとは思えん」

 晴明は難しいものだなと悩んでいた。

「そういうものなの?」

「そういうものだ」

 この時は解らなかった話だが、今のサラには解る。

 妖怪の存在が、現代ほど強固なものになっていることはない。

 それが、富士山を初めとする天災の影響で、より強いものになってしまった。

 だから、人間が妖怪化したのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る