第33話 夏休みが終わった

夏休みが終わった。



「なんか サトレ変わった!」

「なんか 明るくなったよね?」


レオナが忍と 彩羽に言われていると 


「若者 三日会わざれば刮目して見よ じゃのう」

あっちゃんが 分かったような わからないような事をいって

一人でうんうん 頷いてから去って行く


「あっちゃんは変わらないね」

「うん」

「で 夏のコンクールどうだった?」

女子の話題はコロコロと変わっていく


レオナは自分でも この夏休みに変わったと思う


師匠と出会って 深淵の謎が一部なのかもしれないけど解けて おばあちゃんの気持ちが分かって トキやソラと出会って そして別れて

はいはい 理央さんのことも忘れてないですよ


おばあちゃんの力で 敵だけは間違いなく見える だから これからは カン違いしないように落ち着いて行動しよう 




レオナの学校が始まってすぐの 休み明けテストはユキたちとの勉強の成果か いつになく手ごたえを感じた。


これは 報告しなくては!

休み明けテストが終わった日 レオナは 子機を自分の部屋に持ち込んでリングノートを開く 分かるのは理央の電話番号だけ


携帯に電話すると すぐに理央が出た


「だれ?」

っとひそめた声はいつもの理央とは思えなくて緊張しながら

「レオナです」

というと ちょっと待ってとガサガサと音がした


「レオナちゃん?」


いつもの理央の声に安心する

「はい レオナです テスト終わったので お会いしたいと思いま―」

最後まで言い終わらないうちに


「明日(あした)、 明日の土曜日の14時 いつものテラスに来て 俺 遅れるかもだけど  絶対に行くから待ってて お願い!」


確かに理央の声だけど 理央っぽくない固い声

「承知しました。 師匠にもお会いしたいとお伝えください」

「了解」


電話が切れた




翌日 レオナはウキウキとガーデンへ向かう


師匠とお揃いになるかな?とちょっと期待して オレンジのシャツにデニムパンツ

いつもの麦わら帽子はそろそろ季節外れかなと思いながら被って来た



今日は 師匠と理央がいると思うと テラスへの足取りも軽くなる


14時と言われたのに 30分も前についてしまった


理央が、居た。

黒い学生ズボンに 白い半そでYシャツ 胸ポケットの校章は …… レオナでも知っている この辺りでトップ校と言われる人気高校の校章だ。


 師匠もあの高校なのかあ 流石師匠です!

あれ? 師匠が見えないけれど? どこだろう? 

 

レオナの姿を見ると 理央の方がレオナの方に駆けてきた


「ちょっと 付き合って 」

理央が レオナの手を引いて歩く 病院棟の方へ向かう

「あの?師匠は?」

早歩きになりながら聞くけれど 理央は振り返りもしない


まっすぐに病院へ入る理央 病院という事は ソラがらみの事だろうか?

今日は エスカレーターでなく エレベーターに乗る

ボタンは 4 でなくて 6?


理央は何も言わないで俯いている。

重い沈黙の中、エレベーターは途中で止まることなく六階でドアが開く。

そこで降りて 狭い階段を登る 

会議用の椅子が隅に積み重ねてある階段は 使っていい階段なんだろうか?

レオナは疑問に思うが理央の足は止まらない。


階段の突き当りのドアを開けて 屋上へでた。

理央が何かを探すようにぐるりをあたりを見回して その一角へレオナを連れて行く



「見て」

指さす方向には 雲から延びる光の帯

「天国への階段 綺麗ですね」

レオナは答えるけれど 何が起こっているのか理解できない



「違う あれは 天国へのエレベータ

 ユキ 通路だとか トンネルだとかって言ってた。一人一つのトンネル

 だから 一人でトンネル通って また 階段一人で上がるのは大変だから

 だから あれ エレベータ ユキが あれに ユキが ユキが …」


理央が最後まで言えずに 理央が崩れ落ちた


いつでも ヘラヘラと笑っている 理央が 泣いている?


男の人が泣くのを レオナは初めて見た 何があったんだろう?



師匠が関係するんだろうか?

師匠 タスケテ

師匠 どこですか?

師匠?

師匠?


気が付いたら レオナも 理央の横で 座りこんで泣いていた  



理央が いつかユキがしてくれたように レオナの頭を撫でていた


「エレベータ 消えてるなあ」


理央の声に顏をあげると 夕焼けに染まる空が広がっていた


「ユキ 昨日 トンネルに入ってさあ  今日、トンネル出てさ  さっきのエレベータに乗ったと思う」

理央の声が 震えている


「 ユキのエレベータ レオナちゃんと一緒に 見送りたかったんだ。

  ユキどう思ってるかな?」


「トキがユキを案内してるかな? ユキの事だけ ユキさんって呼んでたじゃん 俺のことは 理央ちゃんって言ってたのに」


「ユキ やること 全部やったのかな? トキみたいに そろそろって分かってたのかな」



理央が一人でしゃべるのを レオナは黙って聞いている






理央がレオナを家まで送って行った。

その間 レオナは一つの深淵さえ見なかった

理央があまりに心を閉ざしているからだろうか?


理央に深淵が懐くのは 理央が優しいから、 その明るく、開いている心に光や風になった魂たちがひきつけられて そして 深淵までひきつけられる


でも 今の理央は空っぽだ、明るさも温かさも無い。 そして レオナの心も空っぽだ

 


「気を付けて帰って下さいね あ これ」


理央とエントランスでの別れ際にレオナは 少し躊躇しながらも 理央にユキからもらったボトルを渡そうとした


「ありがとう でも レオナちゃんが持っていて ユキもその方が喜ぶ ありがとう また ね」


やっと 理央が口の端を上げた。 

理央が手を挙げて出て行き 自動ドアが閉まるのをレオナは見ていた


 

後から レオンを連れて帰って来た母親は ベッドで丸くなっているレオナを心配し、体調が悪いというのを信じて気遣ってくれた


日曜は ベッドの中で 一日 丸くなってすごした


食欲がないというレオナに 母親が食べられるものはないかと聞いた レオナは いつものサンドイッチをリクエストした


夕方 夕日が差し込むレオナの部屋に母親がサンドイッチを持ってきてくれた。

いつも お昼に持っていったサンドイッチ、 

トキが褒めてくれた 

いつも ユキは済ませてきたからと言っていたっけ 

「いいよ どうぞ」そう言うユキの顔と声を思い出してまた涙があふれる


「何があったか 教えてくれないかな?」


ベッドに寄りかかって レオナにくっついて座った母親が聞く


「ガーデンの友達がね 空に登ったの…」


やっとそれだけ言って レオナはまた泣く

母親が その背中を抱いて トントンとかるく擦る。

 


夏休みの前は、泣くときはいつも一人だったのに 師匠の前では何回も泣いて 

そして 今は母親に縋り付いて泣いている 声を出して泣いている

一度泣き出したレオナの涙は止まらない


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