第17話 久しぶりの祖母の家

ユキと理央が ”トキをなんとかすべく” 頭をひねっているであろうその頃、レオナは家族と、亡くなった祖母の家を訪れていた。


10年ぶりの祖母の家の玄関は記憶よりも小さく感じた。

ガラガラと大きな音を立てて引き戸を開けると、サカナを咥えた熊の木彫りが目に入って来た。

そうだ、この熊が子供のころに怖かった、と思い出しながら家族で声をそろえて「こんにちは!」と声をかけると 記憶よりも少し年を取ったような伯父と伯母が迎え入れてくれた。


茶の間には潜ってはダメだと言われていた 深い掘りごたつがそのままあった。

だが、最後に祖母と対面した座敷は畳が新しいせいか 縁側がガラス戸からサッシに替えられたせいか 記憶よりもずいぶん明るかった。 

この辺りに深淵が消えたはずだと思う押し入れもその後 襖を張り替えたのか記憶と違う 現代的な模様になっていた。


レオナたち家族は2階の部屋を使うように言われて荷物を運ぶ。

見覚えのある 古い家ならではの急な階段 1段の高さが学校の階段の二段分くらいありそうに高く 踊り場も無いから落ちたら一階まで真っ逆さまだ。


用心しながら 階段を登り、 降りようとした時に 勾配がきつい階段は下りるときが怖いのだと思い出す。

先に降りようとしたレオンが立ちすくんで レオナに助けを求める


「お姉ちゃん 怖い 降りられない」

「じゃあ ”バックオーライ”で下りようか?」


一緒に並んで 後ろ向きで降りる。


レオナはこの階段は「登っちゃだめ」だと 祖母に言われていた。それでも お転婆だったレオナは階段を登って降りられなくなり こうやって誰かと下りた記憶がある。一緒に降りたのは 従兄姉だったのか 祖母だったのか?




盆飾りがされた仏壇の祖母の写真はレオナの記憶の祖母よりもずいぶん厳しい顔をしていた。


「ねえ おばあちゃんってこんなに険しい顔だったっけ?」

この家に住む従兄姉たちに聞くと


「優しいお祖母ちゃんっというよりは厳しいお祖母ちゃんだったからなあ。レオナにだけ特別甘かったけどさ」

「そうそう レオナだけ ずるいなあってずいぶん思ったわよ」


っと 口々に言われ、父親たちは


「お祖母ちゃん 旦那さん早くに亡くなったから苦労したんだよ 伯父さんたちにも厳しい母親だったよ」

「そうそう いつもこんな顔してたよな その割に思い込みで何かやって失敗しては大笑いしてたよな」

「塩ココア 覚えてる?」

「塩パンは?」


っと 父親たちは盛り上がった




夕方になり 迎え火を焚いた

「おばあちゃん 粗忽だから家を間違えないようにってうちはいつも盛大に焚くの」

「それ以前に お盆は8月だよね~とか言って帰る支度してなかったりしてね」

「あ~ 有りそう」

「来るときに 馬じゃなくて牛に乗っちゃって まだ来てないとか?」

「お祖父ちゃんが一緒だから大丈夫でしょ?」

「あ それを祈ろう」

「誰に?」

「え?お祖父ちゃん?」

「毎年 お祖父ちゃんと一緒だから帰ってこれるんだったりして?」

「違いない!」



レオナの祖母 生前よほど やらかしていたのか迎え火を焚かれながらも散々な言われようである。


でも 10年経ってもこうやって思い出してもらえるお祖母ちゃんの事 みんな好きなんだね 遅くなっちゃったけど 来れてよかった。これも師匠のおかげです。 とレオナはユキに感謝する。



火が消えないうちに 近くに住む、伯母一家もやって来た。


「レオナちゃん!!ひさしぶり 大きくなったね~ あんなに小さかったのに」

「レオン君? 可愛い!!!!!」

「叔父さん ちっとも連れて来てくれないから」

「こっちに 遊びに来いよ 狭いから雑魚寝になるけどな」

「あ~!!行きたい 行きたい」


久しぶりに会った大人達は楽しそうに昔話に花を咲かせ 年上の従姉兄たちに可愛がられてレオンも楽しそうだ。




翌日は 家族でお墓参りに行ったり 父親のソウルフードだというラーメン屋さんに行ったり 家族で楽しく過ごし 夜は従兄姉たちとの花大会 と ”これぞ夏休み”をすごし…


今 レオナは大学生の従姉と縁側に並んで腰かけて お風呂の順番を待っている


「レオナ 中学受験したんだよね?って言っても もう中2かあ 大きくなるはずだよね最後に会ったの私が小学生の時だもんね」

「うん それに引っ越しとかもあって なかなか来れなかったんだ…」


暫くの沈黙が流れ


「おばあちゃんが死んだのショックだった?」

「うん …… なんか おばあちゃんの御遺体?に対面したときに凄くショックだったの。……あの時 あの世の入口が見えたって言ったら信じる?」


レオナは少し遠回しに聞いてみる 従姉は首をかしげて、しばらく考えてから

「あの世への入口かあ 七つまでは神のうちって言うじゃん? この世の人には見えない不思議なモノが子供には視えるらしいよ レオナはお祖母ちゃんの秘蔵っ子だったし 視えたのかもしれないね 私は今も昔も見えないけどさ、お祖母ちゃんは”視える人”だったらしいからね」


レオナが今も見えると言ったら どう思われるだろうか?


”視える人”って何だろう?以前 ユキにもそういわれたことがあるような?レオナがそれらを聞こうかどうしようか迷っているうちに


「お風呂あいたよ~ レオナ どうぞ~」っと呼ばれてしまった


***


「レオナ レオナ……」


眠っていたレオナはお祖母ちゃんに起こされた。

レオナが完全に目を覚ます前にお祖母ちゃんは一方的に話し出した。


「レオナは おばあちゃんとそっくりの 早とちりの慌て者に育っちゃねえ レオナが タスケテって言うから 視えるようにしてあげたのに何もかも怖がっちゃって

ごみ袋にまで怯えるなんて ごみ袋を捨てる人が悪いんだけどさ それにしてもって

おばあちゃん じれったく思ってたんだよ!」

「えええ? おばあちゃん ちゃんと説明してくれないからさあ」

「説明しようと思ったら 入口が閉じちゃったんだよ 腹立たしいねえ」


「ねえ おばあちゃん もう 死んでるよね? これって夢の中にいるの?」

「あー そうだった 死んだんだったね それなら これは夢だね」

「そっかあ ねえ おばあちゃん おばあちゃんの写真の顔怖いよね……」

「なんてこと言うんだい!」


痛い!!


目が覚めた まだ外は暗く お腹には隣に寝ていたレオンの足があった。

踵落としかあ。。。顏じゃなくてよかった レオン寝相悪いなあ!っとレオンを身体ごと向うに転がした


あれ?夢見ていたよね おばあちゃんの夢だったような?なんだっけ? 最後に怒られたような? 思い出そうと瞬きをして目を開けたら 


もう 朝だった。



両親はもう一日休みを取ってあるけれど それでも あまり遅くならないうちに四つ葉市に着きたいから 今日はお昼前に帰路に就く予定だ。階段を慎重に上り下りして 荷物を運んでいると


「レオナ これ私のおさがりだけど良かったら着て ティーン向けだから」


っと 従姉が大きな紙袋を持ってきた


「ありがとう みっちゃん!」

「どういたしまして。これなんてお祖母ちゃんが作ったのよ オールドファッションなデザインだけどポケットが付いてて便利よ」


従姉は一番上にあった白い木綿のワンピースを取り出してレオナに当ててみる


「ありがとう」


袖なしの白いワンピースは 丈こそ長いが チイが着ている物とちょっと似ていた。



車に乗り込み さあ出発しよう という時に 車の窓から中をのぞいて伯父が言った


「次はいつ来るんだ? また家族連れて来いよ」


父が応える前に レオナが横から口を出す


「来年のお盆に また来ていいですか?」

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