第14話 7月第2月曜日 

夏休みに入ってから レオナは毎日のようにガーデンへ行っている。


その都度 母親は自分の分も作るからと嫌な顔一つせずにサンドイッチを作る。

”ガーデンの友達”によってレオナが変わったことに気が付いているからだろう

レオナがガーデンに行くのを歓迎しているようだ。


今日もレオナは両親と弟を見送り 戸締りをして家を出る。



麦わら帽 子にデニムのサロペットスカート もちろん今日も胸ポケットにはいつものノート 夏はスカートが涼しいからっと言いながら 最近のレオナはスカートが多いのは「弟さん」と間違えられたからかな?



ガーデンまでの道のり 今まで怯えていたのがウソのように深淵に出会うことはない 深淵だと思ってもユキに貰ったボトルを握り締めて近づいてみると 動物だったり 植物だったり 虫だったり…… 


その度にレオナはふうっと大きく息を吐く、その息と共にレオナの中に居た 怖がりすぎのレオナが出て行くような気がする




ガーデンの門まで深淵に出会うことなく来たが 門の外でモヤモヤした深淵に出会う。レオナ一人なら視えないのではないか?一晩たったら居なくなっているのではないか?っとちょっぴり期待していたレオナに その深淵を連れた少年、ソラはニッと笑いかけ


「おねーさん おはようございます」


と 言ってついて来る。昨日 ユキや理央と一緒に話していた時は普通に話せたけれど 一対一になるとレオナはどうしていいのか分からない。


ソラに小さく頭を下げて、速足でガーデンに入ろうとするレオナの後ろをソラがついて来……ようとして 立ちすくんでいた。困ったような顔をするソラに思わずレオナが小さな声で聞く


「どうしたの?来ないの?おいでよ」


「呼んでくれるんだ ダンケ!」


ピョンと跳ねてレオナの方に来たソラは嬉しそうな顔をしている


「あの門から中って入れないんだ。理央さんにはくっついて入れたんだけど…ほら」


っと ソラがレオナの手をつかもうとする レオナは避けようとするが 避けるまでもなくソラの手はレオナを通り抜ける 


「理央さんにだけ触れられる でも 理央さんからは触れられないし 僕が見えてない おねーさんには僕が見えるし話も出来るけど お互いに触れられない どうしてなんでしょうね?」


ペラペラとソラが話しかけてくるが レオナはソラが連れている深淵が気になって仕方がない 


「あ 僕 おねーさん達以外には見えないので返事しないでいいよ 気にしないでください おねーさんが何か言うと 変な人の独り言みたいになっちゃうと思うんで」


ポケットに入っている桜塩を使ってもいいだろうか?それとも こっちか?と ユキのボトルの存在をこっそり確認する


「あ…ここから先は ユキさんが呼んでくれないと無理だな」


テラスの近くでソラが立ち止まった。


「ん?今 なんて言ったの?」

「ユキさんが 許可なくこのテラスに入っちゃだめだって、このガーデン?自体もダメって言ってたけどおねーさんの許可で入れたから こっちも行けるかな?って思ったけど ちぇ」


悪戯が失敗した子供のような顔をして言うソラはちょっと可愛いけれど もやもや深淵は怖い 


「私は お昼までは図書室で宿題やってるから お昼の鐘がなったらここで会うという事で…」

と提案して ソラから離れた




お昼の鐘を聞き レオナは慌てて荷物をまとめる 


ユキは来ているだろうか?

テラスに寄るが 夏のお昼時 テラスには誰もいない

テラスのいつもの席にはいつものようにユキが居てほしいと期待している自分を訝しく思いながら 速足でソラと約束した場所へ向かう


「おねーさん 遅いって」

花壇の囲いに寝転んだソラが言う 


「ソラ その深淵 ちょっとしまうこととか出来ない?」

「深淵? ああ このモヤモヤ? 深淵って言うんだ? 

ふーん しまう? そんなことどうやってやるの?」

「出来ないんだ?」

「こいつ 僕の言うことなんて聞かないもん」

「どうしたらできるか考えなよ 師匠はやって見せてくれたよ。かっこよかったなあ 

 そうだ ソラ 深淵研究会!って名前どう思う? 師匠 許可するかな? 

 名前ベタすぎるかな? どうかな? 深淵研究会 あ でも… 」


例によって レオナが暴走しかけたところに


「ソラ!どうやって入ったんだ? レオナちゃんに何かしなかったか?」


ユキがやってきて 小声だけど鋭い声で言って ソラを睨んでいた。


「師匠 すいません ソラは立ち止まっていたのに 私が呼んじゃったんです

 すいません…」

「はあ。。。ソラに騙されたかな? ここは暑いからテラスに行こう 

 ソラ お前も 来るか?」


顏を輝かせたソラと ちょっと背中を丸めたレオナを見比べてユキが再び溜息をつき

テラスに向かった


テラスの近くでソラが立ち止まった場所で 少し先にいたユキがソラにささやく

「来い」


それだけで ソラが立ち止まることなく進むのを見てレオナは師匠はやっぱりすごいと感心する



テラス席の一番奥のテーブルに居るのは 人間二人と人外1組(?)


「失礼します   いただきます」

レオナがいつものように ミルクティとサンドイッチの昼食を広げる。


ユキは ソラの方を向き直って 厳しい口調で言う


「ソラ レオナちゃんに近づくなって言っただろ お前の深淵は彼女に見えるって事は…… 

まあ お前が何者なのかも分からないんだから用心したくもなる」


「ユキさん 僕 言葉遣いだって考えてるし 誰かと話した方が自分の事思い出せる

って思うんですけど?」


「よし じゃあ 話をしよう。お前、なんでガーデンに居るんだ? 理央の前には誰もお前に気づかなかったのか?」


ソラへの問いかけは ユキ自身への問いかけのようにも聞こえた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る