最強呪符使い転生―故郷を追い出され、奴隷として売られました。えっ?国が大変な事になったからお前を買い戻したい??すいません。ボク、物じゃないんで、他を当たって下さい―

びーぜろ

第一章 最強呪符使い故郷を追われる

第1話 最強の呪符使い。故郷を追い出される

『呪符』それは種々の災難をしりぞけ、幸いをもたらすとされる物。

 ここ、アクバ皇国には、その呪符を作り操る少数民族が住んでいた。

 その少数民族の作る呪符の力は、災厄を齎す荒御魂を鎮め、陰ながら国を護り、豊かさを齎していた。

 しかし、それも時が過ぎるにつれて廃れていき、呪符の加護をただの御守りと同一視した時の為政者は……。


「えっ? 接収ですか? この土地を??」

「そうだ接収だ。これよりこの土地を接収する」


 明朝五時、兵士に叩き起こされて言われた一言がこれだ。


 接収とは、国家権力が強制的に国民の所有物を取り上げる事を指す強権。

 何かのドッキリだろうか?

 それに、この辺り一帯の土地は、その昔、ご先祖様が国難を救った功績で賜ったと聞いている。

 頭が回らず、ボーっとした表情を浮かべながら突っ立っていると、兵士が羊皮紙を見せつけてくる。


「この土地は元よりアクバ皇国の所有地。すぐに立ち去って貰うぞ。四十秒で準備しろ!」

「ええっ、四十秒ってそんな無体な……。ふわぁ……」


 朝、起きたばかりで欠伸が出た。


「……せ、せめて、もう少しだけ時間を下さいよ。それにこの土地は特別なダンジョ……」

「ええい、うるさいぞ! これは皇帝陛下からの勅命である。お前は黙って従っていれば良いのだ! おい、お前達!」


 赤い服を着た司令官っぽい兵士がそう声を荒げると、その部下達が次々と剣を抜いていく。


「今すぐこの場を去らぬと言うのであれば切り捨てる……。去らずに命を捨てるか、この場を去り命を繋ぐか好きな方を選ぶがよい」

「ええっ、それ選択肢が最初からないじゃありませんか!?」


 そう口答えをした瞬間、目の前を剣線が走った。

 驚きながら両手を上げると、司令官っぽい兵士が首筋に剣を添えてくる。


「二度は言わぬぞ? 死ぬか去るかさっさと選ぶがいい……」

「は、はい。今すぐここを立ち去ります……」


『いのちだいじに』

 遠い昔、日本という名の国に住んでいた時、ゲームで学んだ大切な言葉だ。

 なにより、この状況。

 素直に従わないと、本当に殺されてしまいそう……。


「……そうか。それでは、私についてこい。せめて安全な場所まで送ってやろう」

「えっ? 別に送ってくれなくても別に構わな……」


 ギロリとした目で睨まれる。


「……ありがとうございます」

「礼はいらん。これも兵士の勤めだ」

「そ、そうなんですか……」


 目付きが怖い。

 それに兵士の勤めというのなら荷物を纏める時間位欲しいものである。

 しかし、当然それは敵わず……。

 ため息を吐きながら仕方がなく司令官っぽい兵士について行く。


「えっと、この土地を去るにあたり注意事項が……」


 着いて行く最中、兵士にこの土地のことを少しでも理解してもらおうと、声をかける。しかし、それも、「その件については国に任せておけ。これまで個人にできていたことが国にできぬはずがない」といった一言で終わってしまった。


 会話も終わりしばらく歩くと、兵士が立ち止まる。


「……着いたぞ。これに乗って麓の町まで行くがよい」

「えっ? でもこれって……」

「なんだ……。折角、馬車を用意してやったというのに不服か?」

「いや、でもこれって……馬車じゃないですよね?」


 目の前にいるのは、胡散臭い笑みを浮かべる商人風のおじさん。

 そして、奴隷を閉じ込め運ぶ監獄馬車。

 監獄馬車なんてレゴブロックでしか見た事がない。

 兵士に視線を向けると、早く馬車に乗れとでも言わんばかりの顔でボクのことを見つめてくる。


「えっ? 嘘でしょ?」


 なに、その早く乗れって感じの顔?

 それとも、これ、本当に普通の馬車なの??

 これが普通の馬車なの??

 ちょっと、籠っていた間に常識が浦島太郎したとでもいうの??


「……いいから早く乗れ」


 刀の鞘で小突かれ仕方がなく監獄馬車の中に入ると、『ガチャン!』と音を立てて扉が閉まる。

 扉の鍵が閉まるのを確認すると、兵士はニヤリと笑みを浮かべた。


「……それでは達者でな。いい飼主に買われろよ」

「え、ええっ!?」


 やっぱり、この監獄馬車は奴隷を運ぶもので、商人風の胡散臭いおじさんは奴隷商人だったようだ。


「それでは旦那。また活きの良い奴隷がいたら買い取りますので、よろしくお願いします……。これは御代の金貨十枚です……」

「ああ、こんな所までご苦労だったな。道中、気を付けて帰れよ」

「はい。毎度……」


 奴隷商人。略称ドレイドンがボクを見て醜く笑う。

 ドレイドン。顔が人の顔じゃないよ。

 お口も臭そう。気持ちが悪いから笑わないで。


「それじゃあ、私はこれで……」


 ドレイドンがピシリと音を立て、馬に鞭を入れると、監獄馬車がゆっくり動き始める。


「ち、ちょっと、ここから出してぇー!」


 檻を掴んでガシガシ前後に揺らす。

 しかし、まったく出られる気配がしない。


「奴隷はいやああああっ!」


 拝啓。

 いまは亡き父様、母様。お祖父様、お祖母様。

 この世界に転生して十二年。

 初めて乗った乗り物は奴隷を運ぶための監獄馬車でした。

 どうやらボクは、奴隷としてふもとの町に運ばれ売られるみたいです。

 代々、継がれてきた土地のお仕事は多分、国がやってくれます。

 だから心配しないで下さい。

 だからいまは、いまは……。


「助けてぇぇぇぇ!」


 ボクのことを助けて下さい。


「うるせえぞ! クソガキッ!」

「あ、はい。すいません」


 と言うのは冗談で、折角、お仕事から解放されたので少し世界を見て周りたいと思います。


 日本や海外とは違う異世界。

 正直、あの場所に引き籠っていたので、この世界がどんな所なのか楽しみです。


 こうしてボクこと、呪符使い『リーメイ』の長い長ーい一人旅が始まった。


 ◇◆◇


 この土地に古来より住む呪われた民を売り払った司令官っぽい兵士こと兵士長、アンハサウェイは金貨十枚をポケットに収めると、連れてきた兵士達を整列させる。


「よし。お前達、よく聞けよ。これより皇帝陛下の勅命に従い、ダンジョンの封鎖、そして、この地にあるすべての呪物を回収する。回収できそうにないものについては破壊せよ!」

「はっ!!」


 そう命令を降すと兵士達が動き出す。

 ある者は、この地に散らばる怪しい呪物を回収するために……。

 ある者は、回収できそうにない呪物を破壊するために……。


 そして、命令を降した兵士長、アンハサウェイはというと……。


「ふん。占い好きの皇帝陛下にも困ったものだ」


 あの子供が住んでいた家の真隣にぽっかり空いた大きな横穴。

 その四方を囲うように、夥しい量の呪符が張り巡らせられている。

 兵士の一人が呪符を剥がし、丁寧に回収していくと、穴から黒い物体が次々と這い出てくる。


『ケタケタケタ! 穴ガ開イタ! 穴ガ開イタ!』

『クコックコッ! 本当ダネ! 本当ダネ!』

『ハナッハナッハナッ! 自由ダ! 私達ハ自由ダ!』

『『キゲキゲキゲッ!』』


 それは兵士達を一瞥すると、空気と同化するように消えていった。


「うん? なにかおかしいな……。からなにかが出てきたような気がしたが……」


 気のせいか?


「まあいい。作業を進めろ!」

「はい!!」


 アンハサウェイは気付かない。

 いま、自分がなにをしたのか。

 穴の中から出てきて消えたなにかが、なにを齎すのか。

 この時はまだ気付けずにいた。


 ◇◆◇


「あーる晴れた昼ぅ下がり、市場へ続く道ぃ♪ 荷馬車がゴートゴォト、私を乗せて行くぅ。かーわいそーな私、売られていくよぉー。かーわいそーな瞳で見ているよぉー」

「あー。うるせえ!」


「ドナドナドォナードナー。私を乗せてぇー。ドナドナドォナドナー。荷馬車が揺れるー」

「うるせえって言ってんだろっ!」


 気持ち良くいまの心境にピッタリな童謡を歌っていたら、ドレイドンに怒られてしまった。

 まったく、ドレイドンは怒りっぽくて困る。


「ドレイドーン。いつになったら町に着くのー? もう監獄馬車に揺られているのは飽きたよー」

「俺の名前はそんな名前じゃねえ! ドンタコス様と何度言ったら……。って、お前! 檻の中で何を食べていやがる!」

「えっ? 朝食代わりのクッキーだけど……。ドレイドンも食べる?」


 態々、馬車を停め檻の近くに顔を近づけてくるドレイドンの口にクッキーを放り込む。


「うん? こりゃあ美味えな……。もう一枚って、そうじゃねえだろっ! どこからそれを出した!」

「えっ? 美味しかった? ドレイドンには湿気たクッキーをあげたつもりだったんだけど……。あ、湿気てなかった。もー、一枚無駄にしちゃったじゃん」

「人の話を聞けぇぇぇぇ!」


 怒り心頭のドレイドンが、檻に向かって鞭を打つ。

 おお、怖い。

 ちょっと、おちょくっただけで鞭を打ってくるなんて……。

 きっとカルシウムが足りていないのだろう。


 怒り狂うドレイドンを無視して、亜空間から取り出した呪符で檻の中をデコレーションしていると、なにかがこちらに向かってくる気配を察知する。


「ドレイドーン。何かが近付いてくるよ?」


 ドレイドンも鞭で檻を叩くのに忙しいと思うけど、ボクはボクで檻の中を飾り付けるのに忙しい。

 檻の外のことはドレイドンに対処して貰おうと、そんなことを考えての発言だったんだけど……。


「う、うわああああっ! ば、化け物だああああっ!」

「うん? 化け物?」


 檻の外に視線を向けると、監獄馬車を覆うように影が差す。


「あれは……。ドラゴン?」


 檻の中の飾り付けをしながら、ドラゴンを見上げる。

 漆黒のボディ。トカゲに羽が生えたかのような巨大なフォルム。

 間違いない。あれはドラゴンだ。


「まあいいか。それじゃあ、ドレイドン。後はよろしく。ボクは檻の中のデコレーションをしなきゃいけないから……。って、ドレイドン?」


 ドレイドンの返事がない。

 手を止め振り向くと、監獄馬車を置き去りにして馬と共に脱兎の如く森の中に逃げていくドレイドンの姿が目に映る。


「ド、ドレイドーン!」


 なんてこった。

 まさか、ボクの事を置いて逃げるとは思いもしなかった。

 しかも、ドラゴンを前に馬まで逃がすなんて……。意外と余裕あるじゃないか。


「うーん。しょうがないな……」


 亜空間から呪符と刀を取り出すと、呪符を身体に貼り付け、デコレーションしたばかりの檻を刀で切って外に出る。


 ボクは身体が弱い。

 それこそ呪符の力がなければ、檻を刀で切ることができない位には……。


「もう……。君のせいで、折角、町まで送り届けてくれる案内人がいなくなっちゃたじゃないか」


 ジロリとドラゴンに視線を向ける。


「グギャアアアアッ!」

「仕方がないから君には、ボクを町まで送り届ける馬の代わりになって貰おうかな?」


 呪符を身体の周囲に浮かせると、呪符に込められた力を使い身体を浮かび上がらせる。

 この呪符はボクが作った特製の呪符だ。

 いま、使っている呪符は、『身体強化』に『浮遊』の呪符。

 そして、手にしている刀は妖刀ムラマサ。


 結構、癖のある刀で、柄を握っているだけで、ボクの脳を侵食しようとしてくる厄介な刀だ。しかし、その反面、相手の血を吸う度にその者が持つ力を奪ったり、切った相手を操る力を持っている。


「まずは暴れられたら厄介だから束縛させて貰おうかな」

「グッ!? グルルルルッ!!?」


『呪縛』の呪符をドラゴンに付し、難なくドラゴンが動けぬよう束縛すると、羽を動かせなくなったためか、そのまま、地面に落下していく。


「あっ、やばっ……」


 空を飛ぶドラゴンに『呪縛』の呪符を使えばどうなるかなんて火を見るよりも明らか。全然気が回らなかった。


 地面に落下したドラゴンは、落下の衝撃でバウンドすると、そのまま崖の下に落ちていく。


「ああっー! ボクの乗り物がぁぁぁぁ! ドラちゃんがぁぁぁぁ!」


 その日、崖から落ちるドラゴンとボクの絶叫が崖に木霊した。

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