第40話 ゆかりと幼馴染



—ゆかりside—



地元に帰っても、私の心は休まらなかった。



実家では、両親や親族、そして早くに結婚した姉から、「彼氏はどうした」「結婚はどうする」「いつまで仕事を続けるんだ」などの言葉を浴びせられた。


古くてお節介なひとたちだ。


結局は自分たちの思う幸せを押し付けてきているだけじゃないか、と理屈で突っぱねたくなるが、それらの言葉は私の幸せを願ってのものだともわかるからこそ、どうしていいいかわからなかった。


別に私とて、大義や主義主張があって独身なわけではない。


今が不幸とも思わないが、誰かと一緒になれたら幸せだろうなとも、人並みには思っている。仕事が面倒だけど好きで、家事が苦手で、出会いが少ない生活をしているだけだ。


これまでの恋愛でも、うまくいけば結婚、という意識はあった。


だが、直近の恋愛だけでも、完璧主義の伸吾に振り回されたり、翔太くんとの年齢や立場の差が難しかったり背伸びされるのも悲しかったりと、単純にうまく行かなかっただけなのだ。その事実が余計に悲しい。


そんなことがグルグルと頭を巡るなか、高校の同窓会に行った。


会は地元の居酒屋を貸し切って行われ、それなりの人数が集まっていた。

あのころ一緒にいた女子たちは、当時のノリのまま生きている人もいれば、私のように普通の社会人になった人もいた。同級生には、仕事で成功して社長になった人も、結婚して子供までいる人もいて、どちらもキラキラして見えた。


途中で屈強な男女数名が合流してきた。

どうやら今日は商店街で夏祭りがあったらしく、神輿を担いでから来たという。

珍しいダブルヘッダーだと思う。

彼らの多くは地元で就職したり所帯をもったりしていた。結婚生活や子供の話題になると、独身で今は恋人すらいない私は、既婚者や長く付き合っている恋人がいる人も多いなかで、肩身が狭かった。


さらに、学生時代にボス的存在だった女子が「どこに住んでる」「誰と付き合ってる」「どこで働いてる」など、マウンティング合戦をはじめたのには辟易した。

私の心休まる場所は、どうやらここにもなかったようだ。空気を消して誤魔化しながら、こんな同窓会なら来ないほうがよかったと少し後悔した。


しかし、そんな私にも、会えて嬉しかった友人がいる。私の住む街の行きつけのケーキ屋で働く、香奈である。香奈とはわざわざ同窓会に出なくても会えるし、お店に行った時には挨拶していたのだが、お互い忙しいのでゆっくり話すのは久しぶりだった。


私は二次会に行く群れに背を向けて、香奈と二人で飲み直すことにした。


香奈とは幼稚園や小学校でも同じクラスにいたはずなのだが、仲良くなったのは高校に入ってからだった。高校時代は、二人でふざけて指を絡めてハグをして、漫画に出てくる恋人のシーンを真似したりして遊んでいた。あとは、香奈がよくクッキーを焼いてくれて、香奈の部屋で一緒に食べたりもした。


香奈おすすめのバーに着くまで、そんな思い出を語り合いながら、私たちはなんとなく手を繋いでいた。その時間が、地元に来てから一番心が安らいでいた。


香奈が薦めてくれたお店は、私のイメージするこの町には似つかわしくないほどの洒落た雰囲気のバーだった。

「こんなとこあったんだね。地元なのに知らなかった。」

「最近できたみたい。前に帰省した時に来て良かったから。」


「香奈とゆっくり話せるの久しぶりだね」

「そうだね。でもゆかりはいつもお店来てくれて嬉しいよ」

「あそこのお店のお菓子、全部美味しいからね。」

「ありがと。で?この前ケーキ作った彼とはどうなったのよ?」

「いやー。それが別れちゃって。」

「えー。」


それから私は、そのケーキを翔太と食べた日から今日までのことを話した。


話しながら、翔太の笑顔も困り顔も背中も全部鮮明に思い出して、私はやっぱり翔太が好きなんだと思った。

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