第37話 終わりと始まり




海に来た僕たちは、しばらく4人で普通の大学生らしくスイカ割りやビーチボールを楽しんだが、その後、先輩と美樹さんは2人でどこかに行ってしまった。

カップルでいちゃつきたいところに僕とひろみが邪魔だったのだろう。


パラソルの下に腰掛けて休んでいるところにひろみが話しかけてくる。

「二人っきりだね」

「そうだな。お前もミキと一緒に行かなくてよかったのか?」

「いいよ。邪魔しちゃ悪いし。」

「それもそうだな」


「今日はありがとね。」

「うん。」

「なんか、久しぶりに遠出して、いろんなこと忘れられた感じするな」

「いろんなことって、ゆかりさんのこと?」


なんと答えていいかわからず、僕は黙ってしまった。


「え?もしかして図星?」

「ああ、そうだよ。」

「なんかあったの?」

「この前、告白した。だけどうまく行かなかった。」

「あちゃー。残念だったね。」

「結構気合い入れてデートをエスコートしたはずだったんだけど、背伸びした感じが嫌だったみたい」

「そっか。私だったらそうやって頑張ってくれる感じ、嬉しいけどな。」

「なんか、翔太くんが翔太くんだったから好きだったのに、って言われて。俺だってゆかりさんに見合う男になれるように頑張ったのに」


「え?そんなのもう一回押せばいけるやつじゃん!」

「いやいや、そういうことじゃないでしょ」

「あれじゃない?見合うとかじゃないんじゃないの?」

「え?」

「ゆかりさんは、翔太の無理してない感じとか、冴えないけど優しい感じとかが好きだったんじゃないの?」

「そうなのかな?」



「少なくとも私は、翔太のそういうところが好きだよ。」



「ありがと。なんか元気出たわ。ひろみと友達になれてよかったよ。」


“好き”という言葉の大きさを受け止めきれず、“友達”に押し戻してしまった。

もし告白されても応えられないし、今の関係にも戻れない気がしたから。

これが、夏に浮かれた僕の勘違いだったらいいな。




—ひろみside—


「そうね!!!友達として応援しとくわ!!!!頑張れ!」

私は水を買うと言ってパラソルを離れた。



ひと夏の恋が、あっけなく終わった。



翔太からは見えないだろう所まで歩いてから、しゃがみこんで泣いた。

私の人生はずっとこうだ。誰に恋しても2番手で終わる。

当馬ひろみの名の通り、当て馬ヒロインだ。



「え?泣いてんの?大丈夫?」


見知らぬ男に声をかけられた。見るからに自信ありげな男だった。


「うるさい!あんた誰?関係ないでしょ!」

「いや、自販機の真横で泣かれたら気になるだろうよ。何?どうしたの?」

「ついさっき、また告白してフラれたのよ。私は一生当て馬よ。あんたにはわかんないでしょうけど。」

「いや、俺も2ヶ月くらい前に彼女と別れてさ。それまであんまり人生で失敗してこなかったんだけど、すげー落ち込んでんだよね。」



その目を合わせたら、少しだけ何かが始まる気がした。


—伸吾side—


ゆかりとふたりでくるはずだった海水浴場に、今年は一人で来た。


最近の俺は、ゆかりと行った場所に一人で行って、少しずつ別れを受け止めようとしている。今日も、ここで思い出を整理して今度こそ決別して終わらせよう、と思っていた。


そんななかで、自販機の横で泣いている女がいた。



普通はこういう面倒なやつは無視が一番だ。




でも、これ今ゆかりと付き合ってるあいつ翔太だったら助けてるよな。


コンビニの店前で冷静に話をつけて、年上の男に絡まれている彼女を救うあいつ。

ストーカー元彼と彼女の痴話喧嘩に、おどおどしながらついてくるあいつ。


純粋な正義感。俺に足りなかったのはそれだもんな。




そう思ったら、このまま去るのも嫌で、声をかけてしまった。

ここから何かを始められる気がした。

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