第35話 ダブルデート




—翔太side—



朝9時50分。


僕は夏の日差しがジリジリと照らす駅前にいた。


昨日買ったばかりの水着とタオルが入ったバッグを持って。


前回の映画で遅刻してひろみが不機嫌だったので、今日は遅刻したらまずいと思い早めに来たが、なんだか準備万端で楽しみにしてる奴みたいになってしまった。


そんなことを思っていると、不意に視界が塞がれた。


「だーれだ」

「ひろみ」

「正解!」

「なんだこれ」

「よくわかったねー。」

「こんな鬱陶しいことをしてくるのはお前しかいないからな。」

「待ち合わせにもバリエーションがあった方が面白いでしょ」

「そうか?」


「それで、他にも友達が来るんだっけ」

「あー、ミキね。」

「誰?」

「いや、同級生だよ?ほら、佐倉美樹。ショートヘアでテニス部の」

「ごめん、あんまわかんないかも」

「そっかそっか。ほら私、テニス部も入ってるからさ。結構仲良いんだ。」

「なるほどね」


「で、ミキは多分彼氏の車でくるから、その車に乗せてもらって行く感じ」

「なるほど、それでカップルと一緒に行くのも気まずいから僕を誘ったと。」

「まあそれもあるけど」




—ひろみside—




本当はダブルデートのつもりで誘った、とは言えない。


「とにかく、来てくれてありがと」

「まあ、急な誘いでびっくりしたけどね」

「それはごめん」


誘えなかったはギリギリまで勇気が出なかったから、というのも言えない。



「でも良かったの?せっかくの休みだし、お隣さんのゆかりさんだっけ、と遊んだりしなくて。」

「いや、まあそれはね、別に」


翔太の顔が曇る。

前はあんなに楽しそうにゆかりさんの話をしていたのに。

ひょっとしたら、ゆかりさんとうまくいっていないのかもしれない。



「そういえば、今日は遅刻しなかったね」

「まあね、っていうか前回も一応集合時間ぴったしには来てたんだよ?」

「そうだっけ?」

「遅く来たらまたおごらされるところだったから危なかったよ」


「なんて、ほんとは楽しみだったくせに。」

「は?」

「だって、すごい準備万端なんだもん」

「お前もそうだろ」

「うん、だって楽しみだったんだもーん!」


そんな話をしていると、ミキを乗せた車が目の前の路肩に停まった。


「やっほー。お待たせ!」

「ミキなにそのサングラス」

「ピとおそろ〜!」

「JKのノリじゃん」


底抜けに明るい私の友人は、隣の男と同じ薄いサングラスをしていた。


「ひろみ、気合い入ってるね!」

「そう?普通だけど」

「だって、今日はダブルデートだもんね!」

「ちょっと!!変な冗談やめてよ〜」


ミキは訳知り顔で首をすくめた。

こういうことを言ってくるからこの子は危なっかしい。

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