第27話 バス停にて



ゆかりさんと会わなくなって数週間。


相変わらず予定を詰め込むことで考える暇をなくすようにはしているが、心に穴が開いている状態にも慣れてきた。

最近では、バイト先の仲間や大学の友人と喋る機会も増え、やっと大学生らしい人付き合いができるようになってきた。


このままゆかりさんとの日々を思い出さないようにすれば、いずれ忘れてしまう気がしている。

それが少し怖いので、部屋を出るたびに隣の扉を見て、ゆかりさんと対等に付き合える自分になるために今こうしているのだと思い直すのが習慣になった。




「おはよう翔太。そうだ、この前言ってたアニメ見たよ。」


「あーあれね。どうだった?」


「なんか話が重くてしんどかったけど面白かったよ」


「そうそう、そうなんだよね。」


最近の僕の日常は、バス停で会うひろみとのこんな他愛のない会話から始まる。



「あのさ翔太。そのアニメなんだけどさ、今度映画もやるみたいだね。」


「あー。確か来週公開とかだっけ。バイトない日とかに観に行こうかな。」


「もしよかったらなんだけど、一緒に観に行かない?」


「えー。」


「いや、普通喜ぶところでしょ。」


「いや、気楽に一人映画を決め込もうと思ってたからさ。」


「えー。一緒に行った方が楽しいよ。」


「わかった。じゃあいつ行こうか。来週の日曜の午後とか空いてるかな」


「うん。空いてるよー。じゃあそれで決まり!。」




というわけで、なぜかひろみと一緒に映画を観に行くことが決定してしまった。


ゆかりさんとも一緒に行ったことないのに、というモヤモヤはあるが、まあ普通に映画だけ楽しんで帰ればいいか。


いつも通り満員のバスにうんざりしながら、そんなことを考えていた。



—ひろみside—


やった!映画デート決定!

私は心のなかで小さくガッツポーズをしながらバスに乗り込んだ。


私はここ数週間、翔太と休日に自然にふたりになれる口実を探していた。


そんなときに見つけたアニメ映画。

渡りに船。このチャンスをモノにすればかなり大きいはず。

男は自分のオタク趣味に理解ある女子が好きなはずだし。

まあ正直、私ひとりでは絶対に観に行こうとも思わなかったはずだ。でも、翔太のおかげで楽しめる気がしている。


それにしても、そこそこ勇気を出して誘ったのに、あの浮かない反応は何なんだろう。別に彼女とかはいないはずなのに。

翔太は本当に変なヤツだ。


これからこんなふうにすこしずつ二人の時間を増やして、お互いに相性がよければ、ひょっとしたら本当に付き合っちゃうかもしれない。その未来を想像すると、少し頬が緩んだ。

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