第8話 黙認しよう

ギルドの一室。

 ここは極秘の会合の為にある部屋で、部屋の周りに静寂サイレンスの魔法がかけられている。


「さ、サイモン公爵家?ですか⁉︎」


 ギルマス・スレインが御領主シャトナー伯爵から聞かされたのは、推測とは言え衝撃的内容だった。


侍女メイドに産ませた娘だ。しかも公式には病死となっているんだ。にな」

「そ、それは鑑定結果が不本意なモノだったと」

「噂だがな。才能スキル無しとの判定だったと言う話だ」


「それは…、あの大貴族たるサイモン家では表沙汰に出来ぬ相談です」

 この場に同席している役人の男。確かフォルト=ヘイスティングとか言ったか?伯爵家に仕える男爵子息の。


「だから捨てられた。御領主はそうお考えだと」

「でなければ、あの子が此処にいる理由がない。まだ推測の粋は出ておらぬが。あの子の容姿は私の記憶とも合致するのでね。尤も、彼女の病死は一月も前に公表されている。となるとあの子は、その間丸々ではないにしろ独力で生活していることになる」

「そうですね。見た限りでは従者や侍女がついているようにも思えません」

「そうでしょうか。受付嬢レーナの話では魔物の素材の処理は完璧だったとの事。これは受付主任のサンドラも認めております。子供に出来る作業ではありません」

「誰か冒険者に頼むとかは」

「その冒険者がギルドに持ち込むでしょう。善意の者ならばあの子の付き添いで。悪意ならば子供から奪うかと」

「ではやはり、彼女自身を世話する何者かがいる事になる」

「だとすれば、何故あの子が1人でギルドへ換金に来たのか」


 そして振り出しに戻る。

 こうなるとあの子が実は凄腕の冒険者だ、と言う仮説も成り立つが、今時英雄譚どころかお伽噺でも有り得ない。それに、才能スキル無しなんて判定晶石に出る筈が…。


「確証が無い以上、あの子の正体は分かりません。ですが、ギルドとしてはあの子を保護する事に何の問題もないも思えます」

「街としても住人登録は可能です。教会でも役所でも後援出来ると考えます」

「そうだな。私が、とも思ったが、平民としての方がいいだろう。何か事情はあるだろうが、事後確認でいい。まずはあの子の存在と活動を保護せねばな」


 私は頷くと、ギルドの、あの子がいる一室へ向かう。役人のヘイスティング氏も同行するようだ。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「レーナ、ちょっといいか?」


 泣きまね続行中の私の目の前。優しいギルドの受付オネーさんが呼ばれていく。あれは、門番さんを怒ったギルドの人…。

 そう、確か…、うん、ギルマスって言ってた。


 って事は、あのオジサンがギルドマスター。ここの1番エライ人…なんだ。


 それと、お役人みたいな若い人…。

 誰だろ?


「アイラちゃん。私はフォルト。この街の役所で働くおにー…オジサンなんだけど」


 うん。

 私相手に、オニーサンは厳しいと思うよ。


「外から来るけど、その、もう、この街に住まないかと思ってね。オジサンはその手続きをする係なんだ」

「街に?」


 うん。確かに、あの洞窟にすむよりはマシだと思う。でも、コロやカナ、キィちゃんは?街中が住み易いとは思えない。


 私はアイツ等と一緒に過ごす方がいい。


「色々事情あるし、街には住みません。でもお買い物とかちょくちょく来たいです」

「そうか。じゃあ、ギルドの登録だけしようか。換金手続とか、その方が簡単になるよ。レーナさん、頼めるかな」


 ギルマスとレーナさん、オジサンの後ろに来てた。

 と、ギルマスさん?も頷いてる。


「ちょっと待ってね、アイラちゃん。手続きの書類持ってくるから」


 え~と、つまり。

 私は冒険者登録するって事でいいのかな?


 幼女も…出来るの?冒険者。

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