厨二病が治ったら、可愛くておっぱい大きくて可愛い君に出会えたってマジ?

ゆみねこ

トラックに撥ねられたら、学年一の美少女に告られたってマジ?

第1話 その男、厨二病なり

 初登校から実に三日目、差出人不明の手紙が下駄箱に入っていた。そこには『放課後に校舎裏で待っている』という旨の内容が書いてあった。


 告白かも、と一瞬思ったが登校して三日しか経っていなく、イケメンには程遠い普通顔の男に告白とは何ともおかしい話だ。そういうのはカーストトップのイケメン男子である『あの人』の所業だろう。


 そんな疑いの気持ちとは裏腹に、もしやもしやと思いながら、ウキウキで校舎裏に向かった。

 やがて、やって来たのは──めちゃめちゃ可愛くておっぱいが大きい、なのに小動物の様な小柄な少女だった。


 そんな少女の情報は登校三日目だというのに、俺の記憶の中にしっかりとインプットされている。


 彼女は持ち前の愛想の良さと学年一の可愛さで、数々の男のハートを打ち抜き『怪盗天使』の異名を密かに授けられたクラスメイト──一楓にのまえかえで


 まあ、彼女は偶々用事で通りかかっただけだろう。

 そう思って、視線を外した。


 しかし彼女は俺の前で立ち止まると、こちらを見て言った。


「──好きです。私と付き合ってください」


 一楓は色白な頬を赤く染めてよくある告白言葉を言った後、美しい所作で腰を折った。


──見紛ごう事なき告白である。


「…………!?!?」


 超絶美少女である一さんが俺に告白をしている!?

 何故に、何のために?


──『ごく普通』の高校生男子であるはずの俺が、どうしてこんな状況に陥っているんだ……?!



★☆★☆★☆★☆



 我が名はピリオドセイヴァー、時空を統べる神である。セイバーではなくセイヴァー。

 『ヴァ』の発音は普通に『バ』と発するのではなく上の歯を下唇に当てて発音するんだ。その若干の違いが大切だ、覚えておきたまえ。


 我は人間に扮して野を越え、山を越え、時を超え、正しい時間軸から逸らそうとする極悪人や事件の排除が役割だ。何故、我はそんな事をしているのか、それは──


 この時間軸からずれてしまうと世界は滅びる。そんなことも知らぬ愚かな人間どもは今日も今日とて最高神様がお定めになられた行動から反しようとする。

 我的には愚かな人間共など滅びてしまえばいいが、最高神様はそれをお望みではない。だから我は下劣で卑賎で矮小な人間に扮して世界の滅亡を陰ながら防いでいるのだ。


──そんな我の人間として演じている生活の一端を貴様ら人間に特別に見せてやろうではないか。



 我はここ「海浜中学校」にて普段は学生として過ごしている。今は担任のサトゥーに呼ばれて、職員室という豆から抽出した液体の臭いが充満する部屋に向かっている──人間は不可解だ。あんなに臭くて不味い毒のようなものを摂取したがるのだから。


 サトゥーもその不可解な人間の一人。そしてまた、サトゥーは非常に不敬な人間だ。この我に向かって放送を用いて「来い」と命令口調で言ってきたのである。


 寛大な心を持ち職権濫用はしない我に向けて言ったからまだ良かったものの短気な武神や雷神様に言っていたら間違いなくサトゥーの命はなかっただろう。そう、我だから許してやっているのである。我、超優しい。


 我は引き戸を開けて職員室に乗り込む。が、直ぐに足が止まってしまった。

 あの毒の臭いのせいだ。無敵の我は聖なるものであるため、唯一あの魔の毒が弱点である。サトゥーは我をこんなところに呼び出してどうするつもりなんだ。


「おい、そこで何をしている。早くこっちに来い」


 やはり、サトゥーは不敬である。誰のおかげで自分が生きられていると思っているのか。足りない頭で考えてほしいものだ。

 尤も気付かれてしまったら、最高神様が残されたシステムによって我の存在が消されてしまうのだけれどな、はっはっは。


「来てやったぞ、サトゥー。して、如何様な要件があって我を呼びつけたのだ?」


 何かあったのか、顳顬こめかみをピクピクとさせて髪の毛を逆立たせると大声を上げた。まるで地獄の番人である鬼のようだ。心なしかサトゥーの顔が真っ赤に染まり、額からは狂暴なる漆黒の角が生えているように見えてきた。


「呼び出した理由ぐらい分かるだろおおお。あと、呼び捨てじゃなくて佐藤先生と呼べえええええ!!!」


 火山の噴火の如しサトゥーの怒声で大気が震える。今は人間の身であるから身体が脆く、耳がキンキンと痛くなる。

 やはり、サトゥーはこんな魔毒が充満する部屋に我を呼び、内側から侵食させ弱らせて、更に外傷を加えて我を滅ぼそうとしているのではないか?


 世界を救ってやっている者に対して何たる恩知らずな事だ。

 しかし、面白い。我を滅ぼそうとする人間は初めてだ。特別に不敬な態度でいることに今後一切構わないでおいてやろう。


「たった今、理由が分かったぞ。我を滅ぼそうとしているのだな、サトゥー」

「んなわけあるか、お前のテストについてだよ!」


 ふむ、我を滅ぼそうとしていたわけではないのか、残念である。ただ、サトゥーのこの雄叫びは目を引くものがある。

 もしかしたら、輪廻転生した先は爆音神にでもなっているかもしれぬな。サトゥーは鬼になったり神になったり変化が得意だな。怒り鬼に爆音神、複数役職持ちなんて珍しい。


 どうだ、我と交代しないか? 時空神も大変ではあるが、なかなかに良いものだぞ。


 しかし、サトゥーが神になったら我の後輩か。であるなら、今だけでも上からの我に接するのを楽しませてやろう。神は規律に厳しいのだ。年功序列や長幼の序に背くだなんて以ての外だ。

 背いたら首ちょんぱ、虚無の彼方へさようならバイバイだ。来世は来ない、悲しい運命へレッツゴーである。


「聞いているのか」

「ああ、サトゥーは転生したら神になるという話であろう?」

「はあ、全く聞いていないのか……」


 大きくため息を吐いて肩をがっくりと落としたサトゥー。


「ため息はするものじゃないぞ、サトゥー。幸せが逃げてしまう」

「このため息もお前のせいなんだけどな……。俺はこんなにお前の人生のことを考えているのに、どうしてお前は自分の人生に無頓着なのか。高校受験なんだぞ、このままのお前の学力じゃどこももらってくれないぞ。そうなったら高校浪人、悲惨だぞ」


 デカデカと『我の解がこの程度の紙に収まるわけなかろう』殴り書かれたB4の紙が五枚サトゥーの手から渡された。紛れもなく我が書いた文字である。


「本当にふざけてるよな、これ。受験前の学力テストでこんな事を仕出かしてくれたのはお前が初めてだよ。おかげで俺は大目玉だ」

「そうか、ありがとう」

「ありがとうじゃないんだよな……。これ、どうするんだ?」


 五枚の紙くずをペラペラと揺らして聞いてくる。魔毒の臭いがこちらに漂ってくるからやめてほしい。


「サトゥーが捨てておいてくれ、我はそんなものに興味はない。──要件は以上だな、さらば」


 我は常に忙しく、この後は異世界の監視で忙しいのだ。サトゥーのために割いてやれる時間は少ししかない。


「おい、待て。湊!」


 サトゥーが我との別れを惜しんで大声をあげているが、残念ながら時間になってしまう。我は駆け足で職員室を出て、家に向かった。

 負けヒロインは幼馴染である、という世界の掟を幼馴染ヒロインが破るかもしれない異世界は見ていて面白く萌え〜であるからな、絶対に見逃せぬ。


──要はアニメを見たいから佐藤先生の説教に時間を奪われたくはないという事だ。



「大変ですね、佐藤先生」

「はい……。大声をあげてしまってすみません」

「いやいや、もう慣れましたとも。しかし、厨二病ですか」

「はい、どうすればいいのでしょうか。どれだけ必死に相手をしてもあの様ですからねぇ。是非とも担任を変わってほしいくらいです」

「そこは佐藤先生の腕の見せ所ですよ。見捨てずにあの子をしっかり見守ってあげてください。いつかは熱が伝わるはずです」

「そうだといいのですが……。いいのですが……はあ。期待出来ませんよ。状況が状況ゆえに見捨てすことも出来ませんし……」


──時空を統べる神ピリオドセイヴァーこと、湊柊仁かなでしゅうとは厨二病であった。

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