道は続いていくどこまでも・・・

夢蜻蛉

プロローグ

父宛の荷物とロボット

 その荷物にもつが届いたのは、父さんの実家に帰省きせいしようとしていた矢先やさきのことだった。


「一体何かしら?」と首をかしげながら配達票はいたつひょうにサインをするかあさんを横目よこめに僕は荷物を確認する。


 宛先には、確かに父、一郎いちろうの名が記されていた。


 父さん宛ての荷物。発送元はっそうもとは父さんのつとめていた会社だ。


 一見いっけん、何の問題もないように見えるものだが、僕たちにとっては違う。


 受取人うけとりにんはここにはいない。


 そしてこの荷物が彼の手に渡ることは永久にないだろう。


 何故ならば彼はもう、どこにも存在しないのだから・・・




 突然の交通事故で父、一郎が亡くなってから、もう4ヶ月が経とうとしていた。


 交通事故による事故死だ。


 幾度となくテレビニュースで流れていた「交通死亡事故こうつうしぼうじこ」というフレーズが実際に身近なものとなったとき、僕たちは、突然訪れた受け入れがたい事実にただ呆然ぼうぜんとなるだけだった。


 ただ悲しかった。


 ずっと、父さんの遺影いえいを見つめたたまま放心したように動かない母さんの後ろ姿は今も忘れられない。


 あまりにも突然に止まってしまった父さんの時間。


 父さんだけじゃない。僕たちの時間もその時、確実に止まっていたように思える。


 変わらない日常の中で、まるで僕たちだけが取り残されているような錯覚さっかくさえ覚えた。



 だけど、時とともにそれは薄れ、日常の中に溶け込んでいく。


 止まってしまった時間は再び動き出し、僕は何事もなかったかのように学校に通い始め、母さんは来月から働き始めることを決めた。


 薄れていく父さんの記憶。今もまだ父さんの夢を見るけど、あの時に感じたほどの大きな喪失感そうしつかんはもうない。


 父さんのいない生活にも徐々に慣れつつある。




 でも不思議だ。


 こうやって父さん宛の荷物が届くだけで、その存在は再び膨れ上がっていく。


 それは確かにかつて存在したもの。


 まだ、その存在を忘れられるほどに、僕たちは割り切れていないのかもしれない。




 荷物を持ち上げると、ずしりとした重みが手に加わった。意外と重い・・・


「とりあえず、中身を確認してみようよ」


 カッターナイフを持ってきて、荷物を解くと、その中から思いもよらぬものが顔を出した。


「ロボット・・・?」


 それは、50cmくらいの小さな人型のロボットだった。何でこんなものが?


「どうしようか、これ?」


「置いていきましょう。帰ってきてから会社に問い合わせればいいと思うわ。今更遺品いひんってわけでもないだろうし・・・」


「でも・・・」


 やはり気になる。僕はそれを父の実家に持っていくことにした。


「壊さないようにね」


 母さんも特に反対はしなかった。多分、中身が気になっているのは母さんも同じなのだろう。



「行こう」



 荷物を持って外に出ると、焼けるような熱気が肌を叩いた。


 空を見上げる。まだ朝だというのに、強い日差しが降り注ぐ。


 今日も暑い一日になりそうだ。




 8月も半ばにさしかかり、夏休みも終わりに近づいた日のこと。


 僕は父の初盆はつぼんのため、母とともに父さんの実家に帰る。


 手には、父宛に届いた荷物。その中には小さなロボットが入っている。


 何故だか僕にはそれが、父さんから届いたメッセージのようにも思えた。




 これから始まる話は、僕、旧井健一うすいけんいちが2016年の夏に実際に体験したお話。


 たった7日間の旅だったけど、そこで僕はひとりの少女と出会い・・・


 そして不思議な体験をすることになる。


 それはきらめくようなまぶしい記憶となり、今も僕を象っている。


 彼女との出会い。それは同時に父の存在を再確認する旅の始まりであり、


 そこから僕は、いや、僕たちは共に、大きな一歩を踏み出していくことになる。


 そう、まだ見ぬ未来へと続くこの道を・・・|

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