神級チート勇者１００柱ｖｓランクＳＳＳＳＳＳＳＳＳＳ世界の魔王 〜超チート戦争〜

＃１ 《楽園追放》

　──神界。

　神々の住まう、天空の楽園。

　それは何とも神聖な響きではあるが……その実態は、さして人界と変わらないとも言える。

　邪神（はんざい）増加！　女神（じょせい）蔑視！

　半神（ハーフ）差別！　信仰（けいざい）格差！

　神獣（ペット）放棄！　宗教（えいぎょう）破産！

　等々（エトセトラ）、その他（エトセトラ）、ｅｔｃ（エトセトラ）──ッ！！

　そして。娯楽もまた、下劣で矮小（わいしょう）なる人間達と同様の──あるいはそれに似た何かが、流行しているのだった。

　異世界転生！

　それは、死後適当な人間に神々の加護（そうじどうぐ）を与え、魔王（ゴミ）を片付けさせる清掃作業。

　しかしながら、それは清掃作業であっても、ただの清掃作業に在（あ）らず！

　過大なアクション要素が含まれる！

　反則級のチート能力（スキル）ッ！

　蹴散らされて行く背信者（ゴミクズ）共ッ！

　人間がスポーツ観戦をするように。

　人間が大衆創作を見るように。

　人間が動物の戯れる動画を視聴するように。

　神々にとって、それらは娯楽！

　世界滅亡も、世界救済も、どちらも欲求（ニーズ）と要求（ウォンツ）を満たす物でしかないのだッ！！

「おし！　行けッ！　チッ、何だよコイツ。まーた負けてやがる」

「今の敵はチート使えばワンパンだろ。高々ＳＳＳ（トリプル・シュプリーム）でへばるなよ」

「クソッ、苦戦しやがって。もっと簡単に殺せるだろ！」

「雑ッ魚〜……。勇者にするやつ間違えたかな〜！」

「てかさー、これ──」

　人界では『親の心子知らず』と言うが、反対に『子の心親知らず』とも言う。

　人を創り、人を導いて来たはずの神々（おや）は、何時しか人間（こども）の立場に立つことすら、忘れてしまった。

「──俺らが転生し（やっ）たら余裕っしょ」

　上位存在！　超次元的存在！

　故の、圧倒的傲慢！！

「だな」

「こんな世界、俺でも救えるわ〜ッ！」

「人間って本当ダセー！」

　彼らは知らない。

　つい８０万年ほど前まで神界全土で行われていた、壮絶な派閥争いを。

　戦争の無い平和な世の中になって、余裕も増えるが、その分怠惰も増加した。

　平穏な時代に産まれた神々にとって、戦闘とは遊戯で、戦争とは娯楽でしかない。

　──故に、憂（うれ）いていた。

　彼らに老害と揶揄（やゆ）される旧き神々（オールドワン）は、若神（わかもの）の傲慢と怠惰を、死に到る大罪を憂いていた。

「そうか。ならば、彼らと同じようにチートスキルを持って異世界転生すれば、君らはもっと上手くやると？」

「そうそう。当ッたり前じゃ〜……あ？　ん？　しゅッ、主神様！？」

　そこに居たのは、神界ならば誰でも知っている有名神。

　神界の長。神々の頂点。

　正しく、神の中の神（ゴッド・オブ・ゴッズ）──ッ！！

　主神・アザトスであった！！

「な、何故アザトス様がここに……」

「良いことを聞いた。そうか、愚かな人間の代わりに、神を使って邪悪を滅せば良いのだな」

「あ、あの……今の発言は無かったことに……」

「いやはや。君達には感謝しかないよ。貴重な意見を有難う」

「い、いや……。あは、あはははは」

　沈黙が流れる。

　俯（うつむ）いたままの若神達の額には、つう──と嫌な汗が伝う。

　ゴクリ。重たい静寂の中で、その嚥下（えんげ）音は良く響いた。

　凍てつくような、冷たい沈黙。

　それを切ったのは意外にも、主神アザトスだった。

「なんだ。まさか貴様ら、怖気付いたのか？」

「……さっきから黙って聞いてればよォ！　俺らを馬鹿にしてんのか、お偉いさんよォ！」

「おい馬鹿止めろって！」

　若神グループの内一柱が、怒号を上げ、もう何柱かは彼を止めに入る。

　暴れる彼と、抑える神々を他所に、アザトスは尚も不敵に笑った。

「傲慢と怠惰の次は憤怒か。フッ。やれやれ、これでは手に負えんな」

　アザトスの口からは、呆れたように、嘆息（たんそく）が漏れ出る。

「では、お灸を添えるとしよう……。──皆の者！　良く聴け！」

　彼は腕を大きく広げると、声高らかに宣言した。

　その声は神界中に響き渡り、神々の意識は、強制的にアザトスの声へと向けられた。

　声だけで分かる、その超越的なまでの神威！

　空気はビリビリと痺れ、鳥達は逃げ惑い、風は跳ね除けられ、雲は千々になって空に消えた。

「これより１００柱の神々に、異世界転生をしてもらう！　これは追放であり、戒めであり、見せしめであり、生贄である！　罪状は七つの大罪への複数該当！」

　念を押すように、「これは決定である」と言うアザトス。

　神々の間に、衝撃が走る。

　神が異世界転生？　人間のような下等種がやることを、わざわざ神が直々に？

「尚、異世界で死亡すれば、輪廻の輪から外され、魂が消滅する」

　神々は、再び震撼する。

　形而（けいじ）上の存在にして、滅多なことでは死なない神。魂の消滅とは、その滅多なことに含まる。

　この世からの永遠の消去。存在の消滅。運命の破滅。

　──つまり、死！

　しかし、異を唱える者など居ない。

　信仰的にも、能力的にも、権力的にも。

　絶対的な強者たるアザトスに対して異論を唱えることが出来る者など、この世に存在しない！

　存在しない故に、アザトスは最強無比、無敵の主神なのだ！

　彼の神は、口角を吊り上げ吼える！

　獣の咆哮にも似たその叫びは、神々に三度目の震撼を与えた。

「さらば若神達よ、さらば勇者達よ。前世（しょしん）に帰って来世では上手くやるが良い。魔王を一番早く倒した者には、上級神の地位を約束しよう！　好き勝手に暴れてみろ……出来る物ならばな。ガッハッハッハッハッ！」

　主神の、豪快な嗤（わら）い声を餞（はなむけ）に、若神達は次々に異世界転生されて行く。

　──そう。

　これは、こんな異世界転生なんて自分でも出来る──そう思っている神１００柱を掻き集め、魔王討伐を競い合う超絶大戦闘（バトル）！！

　殺せ！　奪え！　屠（ほふ）れ！　壊せ！

　その覚悟と資格が、あるのならば。

　百柱転生（ゴッズ・ロワイヤル）の、開幕である！！

　主神は嗤う。嘲笑う。

「世界救済の難易度はＳＳＳＳＳＳＳＳＳＳ（ディカプル・シュプリーム）ッ！　──では……殺し合い、開始（デスゲーム・スタート）ォォオオッ！！！！」

　斯（か）くして──。

　──地獄の火蓋は、切って落とされたッ！！