第43話


「父様、母様。まずは輪になって手を繋いでください」


 いきなりホープにそう言われ、俺は照れ臭くなってエマの顔を見つめる。エマもそうだったのか、俺の顔を見つめていた。


「こんな状況で照れてないで早くしてください!」

「はい!」


 子供に叱られ俺達は息ピッタリに返事をして、手を繋ぐ。


「まったく……この魔法は俺と繋がっていないと、取り残されてしまうので、決して手を離さないでくださいね。まぁ、そうならない為に二人には手を繋いで貰った訳ですが」

「そうなんですね」

「なるほど、分かった」

「封印されし古の魔法を解き放ち、我は距離の束縛を断つ魔法を唱える……」


 ホープは俺の知らない魔法を始める。詠唱の内容からして、瞬間移動の魔法の様だが、ホープはファシナンテと同じ力を手に入れたのか? だとすると、ファシナンテの奴、わざと俺達に分からない言葉で詠唱してやがったんだな。


「瞬く間に我を望む場所へと移動させよ。テレポーテーション!」


 ホープが魔法を唱え終わると瞬時に視界が歪む。


「──ここは……岩の扉があった場所か?」

「そうだよ、父様。さっき壊れたマジック・ダガーを目印にして移動したんだ」

「まぁ! こんなことが出来るなんて凄いわ、ホープ君!」

「えへへへ」

「でもどうやって──」


 俺がホープに話しかけると、ファシナンテが岩の扉から出てくる。ファシナンテは俺達を見つけると、目を見開いて驚きの表情を見せた。


「お前たち……どうやって……?」

「さぁ? どうやってだと思う?」


 俺の質問返しにイラっと来たのか、ファシナンテはキッと俺を睨んでくる──いや、目線がちょっと違うか?


「クソガキめ……お前だったのかッ!! この岩の扉を開け、こいつ等をここに運んだのはッ!!? その本を私によこしなッ!!!!」


 ファシナンテが取り乱している。余程、重要な本らしい。ここは何としても守り切らなければ!


「嫌だね」

「キィィィィ!! ぶっ殺してやるよッ!!!!!」


 ファシナンテはまた分からない言葉で詠唱を始める。だが、さっき聞いたばかりの詠唱……次に何が来るか何となく分かる。


「父様! また呪いの炎が来るよ!」

「オーケー。水の精霊よ……我の魔力を捧げる代わりに己の姿を堅固の壁とし、透明な結界を作り上げよッ……」


 ファシナンテが「くらいなッ!!」と、呪いの炎を放ってくるが、俺は「アクア・ウォールッ!!!!」と、自分達の前に巨大な水の壁を作り、防いだ。


「消せなくても、一時的に防ぐことは出来る……さっきブリザードを放った時に、気付いたよ」

「チッ……クソがッ!!!」


 ファシナンテはアクア・ウォールを殴りつけるが、俺達には届かない。


「無駄だよ。こいつは攻撃してきた相手を水圧で押し戻す。離れてさえいればお前の直接攻撃は届かない。残念ながら移動は出来ないから、閉じ込められた時は使えなかったけどな」

「ぐぬぬぬぬ……」


 魔力透視で見た所、こいつの魔力はもう少ない。


「新しい玩具まほうを手に入れて、調子に乗り過ぎたなファシナンテ。これで終わりにしよう」


 俺がそう言うと何故かファシナンテはニヤッと微笑む。


「良いのかい? それで?」

「どういう事だよ?」

「分からないのかい? お馬鹿さんだね。私が死んだって呪いは解けたりしないよ。それどころか一生、呪いを解く方法が見つからなくなるだろうね」


 脅しか? その割には自信満々なのが気になる。アクア・ウォールは長い時間もたない。早く決めなければ……。


「どうするんだい? 殺すのかい? 殺さないのかい?」


 俺は──。


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