第12話

 俺はルーカスさん達に城に戻りたい事を告げると一緒に帰った──城に到着すると、エマ王女は俺の事を心配してくれていた様で、城門の前でウロウロとしていた。


「エマ王女、ただいま戻りました」と、エマに向かって声を掛けると、エマは嬉しそうな笑顔を浮かべ駆け寄ってくる。


 エマ王女には悪いが、なんか子犬が飼い主を見つけて駆け寄ってくるかの様に可愛くて、視線を気にせず頭を撫でたくなる……が、グッと堪えた。 


「お帰りなさいませ、アルウィン様!」

「待っていてくれたんですね」

「はい、もちろんです! アルウィン様、そちらの方々は?」

「勇者様たちですよ」


「まぁ!」とエマは両手で口を塞ぎ、「アルウィン様がお世話になっております」と、直ぐに深々と頭を下げる。それをみた勇者様たちは照れ臭いのか苦笑いを浮かべて、会釈をしていた。


 エマが顔を上げると同時に俺は「エマ王女、ちょっと話があるんですが……」と話しかけた。


「話? 何です?」

「実は──」


 俺はエマ王女に今までの事を話す。エマ王女は俺が話し終わるまで黙って聞いてくれていた。


「事情は分かりました……それでアルウィン様はどうされたいのですか? お気持ちをお聞かせくださいませ」

「──正直、怖いし、ここにはエマ王女や慕ってくれる人々が居るから、ずっとここで幸せに暮らしていたいと思っています……でもそれを維持するには、魔物の親玉を早く倒して平和にするしかないとも思っています。だから──俺、一緒に行きたいです」


 エマ王女は俺の返事を聞くとニコッと微笑む。


「分かりました。出発はいつですか?」

「ルーカスさん、出発は早い方が良いですよね?」

「そりゃ……それに越したことは無いが、アルウィン君にも事情があるだろ?」

「俺はいつでも大丈夫です」

「──そうか、そう言うなら……」

「エマ王女、そう言う事だから行ってきます。後は宜しくお願いします」

「はい! お父様にも伝えておきますわ」

「はい」

 

 俺が出発しようと後ろを振り向こうとした時、「あ、ちょっとお待ちください。アルウィン様」と、エマ王女が話しかけてくる。


「どうしたんですか?」

「魔法石をお出しくださいませ」

「魔法石を? 良いですけど……」


 俺はローブのポケットから魔法石を取り出し、エマ王女の方へ差し出す。エマ王女は俺の手を包み込むかのように両手で握る。ソッと目を閉じると、その後は何も喋らず、俺の無事を祈ってくれているかのように動かない──。


「はい、終わり! 愛情をギュッギュと込めておきましたから、これで大丈夫ですわ」

「ありがとうございます!」

「はい!」


 エマ王女は嬉しそうに返事をしながら俺から手を離す。


「じゃあ行ってきます!」

「はい! 行ってらっしゃいませ~」


 エマ王女はピョンピョンと飛び跳ねそうなテンションで、俺に手を振る。俺はまるで夫婦の様なやり取りに照れ臭さを感じながらも、絶対に無事で帰ってこようと思った。


 ふと俺は手に握っている魔法石を見て見る……本当に愛情が籠っている様で、深紅にふさわしい色合いをしていた。


 ※※※


 王都の出入り口に移動すると、御者にお金を払って馬車で移動を始める──。


 心地よい風を感じながら草原を見つめていると「なぁ、アルウィン。あんた等、夫婦なのかい?」と、ニヤニヤしながらガイさんが話しかけてきた。


「いえ……エマ王女とはまだお付き合いをさせて頂いているだけで、結婚までは……」

「がっはっはっは。あんなに見せつけてくるから、てっきり夫婦なのかと思ったら違うのか! さっさとプロポーズしてしまえば良いのに」


 ガイさんが豪快に笑っている所へ、フィアーナさんが近づき、グイっと耳を引っ張る。


「いててて、何をするんだ!? フィアーナ」

「アルウィンさん、ごめんなさいね」


 フィアーナさんは俺の顔を見ながら微笑むと、今度はガイさんの方に顔を向け睨みつける。


「あなたねぇ……結婚はデリートの話なんだからタイミングってものがあるでしょ!? 本当にデリカシーが無いわね! だからあなたはダメなのよ」

「なんだと!?」

「それにあなただって──」


 何やら言い合いが始まり、ポカン……と、眺めているとルーカスさんが苦笑いを浮かべる。


「騒がしいパーティーで、ごめんな」

「いえ……今まで一人で寂しかったので、賑やかだと楽しいです」

「そう言ってくれると助かるよ」

「ところで、いま向かっているのは?」

「カントリーファームという小さな村だよ。本当なら瞬間移動して、すべての魔物を統率している闇の帝王 デストルクシオンが住む城に乗り込みたいけど、この世界にはそんな魔法ないだろ?」


 確かに俺が読んだ魔導書の中にも、それらしいものは無かった。


「はい、そうですね」

「まぁ……世界は広いから本当ならあるかもしれないが、見つけられない以上、地道に旅するしかない。ってことで、暗くなる前に休めるカントリーファームを目指しているって訳だ」

「なるほど、ありがとうございます」

「うん」

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