第25話 打開策

『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。


登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。

―切断された部位群の基幹、フレースヴェルグ…未知の邪神から切り離され機能が狂った群れの統括器官、本来『ファンシー』なはずの外見表示に異常が生じた四足歩行の怪物。



計測不能:不明な領域


 残り時間を確認した。もう既に一分を切っていた。いつの間にか時間が過ぎ去っており、高速で行動していたにも関わらず、停止へと追い込まれた事で時間を無駄遣いしてしまったのだ。再び思考をはっきりさせた、徐々に痛みが増している。もうそろそろだ。もはや決定事項ではあるが、ここで何かしらの手を打たねば敗北、すなわち死ぬ事がはっきりとしていた。死ぬ事自体についての覚悟はできているつもりであった。ゆっくりと、拷問するように死に接近している事実を前にしてなお、雄大なる霊峰のごとく己を強固に保っていた。不自然なぐらい冷静に物事を見ていた。だがともあれ呼吸が苦しくなっているために、苦痛は上昇し続けていた。時空そのものに干渉して締め殺そうとする不可解な作用が、ウォーロードの残りの人生を縮めていた。

 まあ最悪の場合死ぬのは仕方が無い事だ。だが、せめてこいつも道連れにせねばならない。その手段は思い浮かばない。何かしらの自爆でも仕留められる確証は無い。第一、兵器に対する制限が掛かっている状況下でそのような大規模破壊や強力な破壊効果の発生は見込めない。即座に殺せる手段が無いのであれば延命する必要がある。まだ戦い続けるべきだ。事実として、彼はほとんど自動的に高速で機動し続けていた。延命のためには敵の窒息狙いの兵器を停止せねばならない。見れば敵は表皮を異様に伸ばして実行する連打はしてくるものの、しかしあの輝く冷気は使っていなかった。となれば、あの兵器を使用するのにはエネルギーをそれだけ使うのか。配分の問題であった。ふと視点を変えて敵の頑強さについて考えてみたが、スキャンによると常に奇妙な効果によって受ける損害を低減させているらしかった。だがそのテータはそれ以前よりも防御力が低下している事を示していた。窒息兵器の代償であろうか。となれば一つ面白い手を使おう。万が一効果が無ければ精一杯呪詛を吐いて死んでやろう。

 ウォーロードの巨体は空中でダッシュしてその強力な慣性のまま吹き飛んで、しかしその上で方向転換で敵の方を見た。それから不可視の壁を使いつつ減速して、この場を閉鎖しているその目に見えないものに垂直で『着地』した。そこから急発進し、宇宙空間で戦うためのものじみた凄まじいスピードで突撃した。瞬時に何十マイルも移動する速度で一気に四足歩行の狂った怪物へと肩から激突し、シールドが一時的に更に低下したが、しかし凄まじい破壊が引き起こされた。初めて群体どもの幹はよろめいた。そしてそのまま追撃として、敵から受けていた表皮の打撃による運動エネルギーを溜め込んでいたものを、一気に解き放ってぶつけた。ウォーロードのアーマーの拳が繰り出した打撃は運動エネルギーをそっくりそのまま相手にお返しし、この二連撃によって敵のヘルスバーは七割を切った。やはり敵は兵器の使用によって防御力が低下しており、この不意打ちは上手く行った。次から同じ手が通じる可能性は減ったが、しかしやってやったというある種の高揚感があった。

 見れば衝撃波が敵の群れを薙ぎ倒して、この場にいた一部については全滅したらしかった。召喚するまでは安泰と言えた。恐らくまだまだいるのであろうが、しかしこのようにして対抗手段はそれなりにある。グロテスク極まる地獄の使徒を相手にしているのも段々と楽しく思え始めた。ある種の自暴自棄で、もうなるようになれとすら少し考えていた。それなら勝ってやろう。その後の事はその時に考えればいい。

 そして実際に彼の受けていた負担は無くなっていた。時空に干渉して窒息を図る、その場にいる限り回避不能の兵器は気が付けば停止しており、ヌレットナール・ニーグはウォーロードの異名通りの戦士に戻っていた。

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