第3話 不毛のアーティファクトの森

登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。



調査開始から数十分後:領域外宙域、第五三七星系、第七惑星、第二衛星、先ライトビーム文明廃墟、嘆きの森


 嘆きの森における調査は特に面白いところは無かった。まあこのような古代遺跡も、何例も見ていれば新鮮さは徐々に薄れていくものであるが。経年劣化がこの地を覆い尽くしており、かと言って目に見えるような生物がいるでもなく、微生物とてスキャンには反応しなかった。

 文字通り不毛の地と化しており、ここら一帯を見ただけではここがどのような種族――あるいは複数の種族――の棲まう地であったのかは想像も難しかった。今のところここの元居住者達の身体的特徴、例えば歩行するなら何足か、あるいは飛行や浮遊なのかというような推測に役立つ要素は見られなかった。

 この惑星に来たのはこれで三度目で、誘拐ビジネスの一件が片付いた事でとりあえず手が空いたので本格的な調査に移った次第であった。汎惑星規模スキャンでは生命の兆候が発見できず、少なくとも地表から上には何もいないと思われた。

 まあそれとてとりあえず生物の大きさを設定してスキャンした――条件を絞ればその分検知時間も減る、正直あまり待たされるのも面倒であるから――ため、設定した基準以下のサイズの生物がどこかに隠れているかも知れなかったが、しかし少なくとも嘆きの森とその周辺は何もいなかった。

 微生物も含めて文字通りの無人となると少し珍しいものを感じた。空を見上げると、太陽の周辺がオレンジで天球の端の方が黒ずんでいた。今は昼間で、気温は同じぐらいの時間帯のPGG首都惑星イミュラストのグランド・コーストよりは少し高かった。

 風は吹いておらず、湿度は普通であるが、恐らく肌を露出しているととても不快そうな気がした。空気の淀みがアーマー越しに幻感として伝わった。

 まあどうせ誰もいない仕事だ。己のペースでできる。そのように考えながらウォーロードはアーマーとして纏っているガード・デバイスを思考で浮遊させた。すうっと上昇し、産卵管じみた構造物の繁茂するこの地を少し上から見てみる事にした。

 とりあえず上から見るとどうなっているのかを確かめるために産卵管じみた構造物の内一つの上に降り立った。上から見るとこれらの構造物は各々穴が空いている管である事が確認できた。その内部は皮膜じみた物体がゆっくりと蠢いており、しかし往時と同じように機能しているとは思えなかった。

 とりあえずスキャンしてみたところ、どうやら大気浄化システムであるように思われた。これを使って衛星の大気汚染を解決していたと思われるが、しかしそれも遥か昔の事だ。標準時でおよそ一万年前にはこの文明も滅んでおり、やはり遺構でしかなかった。

 管の縁に立っていたウォーロードは穴を覗き込むのをやめて更に上昇した。整備された道の残骸が二方向向けて伸びており、かつてはこことそれ以外のどこかを繋いでいたのであろう。

 惑星スキャン時に作製された地図を呼び出してHUD内で見ようかと思ったが、どうせなので十フィート程の衛星全体を映したホログラム立体地図を投影し、現在地の大陸が正面に来るよう回転させ、そこから現在地を注釈のように拡大して浮き上がらせた。

 三度拡大した末の現在地とその周辺を表示し、他の遺跡との位置関係を確認した。北に行くと数マイル先に都市の跡地があり、そこはここよりも遥かに巨大であるらしかった。

 動物は見当たらず、かと言って植物やその他の何かしらの生物の形態が見られるでも無く、ひたすら荒野が広がっており、表面にはブラウン・セラミックを主成分とした砂の大地が形成されていた。メサ構造や山脈も見られず、川も見えず、とにかく不毛であった。

 スキャンデータを通読した限りでは確か海までは数千マイルあり、例えばこの衛星のかつての住人達は文明発達前にはここから最寄りの海に行く場合、どれだけの時間を費やしたのであろうかと考えた――どうでもいい事だ。

 もしかすると衛星から文明が滅び去った事で自然環境も荒れ果てたのかも知れなかった。あるいは根こそぎ消し去るような大量破壊兵器によって生物が狙い撃ちにされたのか。

 星系内のガス惑星の軌道上に残骸が浮かんでいるのが見えた。不自然な破壊の痕跡があり、戦争があったのかも知れなかった。

 だがこの衛星は特に手付かずであり、あの規模の艦隊戦と合致しそうな破壊の痕跡はここでは発見できなかった。

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