第10話 遺された者の責任

登場人物

―リヴィーナ・ヴァンマークス・シュワイツァー…軍人、魔術師、友を探すドミネイターの少女。

―ドーニング・ブレイド…不老不死の魔女、オリジナルのドミネイター、大戦の英雄。



二一三五年、五月七日:北アメリカ大陸、ミシシッピ川条約機構議長国『新アメリカ連邦』領、旧フロリダ州地域、暫定グレーター・セミノール保留地近郊


「まず、カリリ少佐の死についてはお悔やみ申し上げる。少佐とは…私もラニと呼ばせてもらっていたが、彼は本当に誠実で、人を自然と惹き付ける人物だった。それについて考えると…私としてもこの件の犯人に対しては怒りが生じる。この地に派遣されてきた彼とは、今ここで起きている事をどうにか解決できないかと多くの意見を交わし、何十時間も共に働いた」

 砂浜を陸地向けて二人で歩きつつ、ドーニング・ブレイドは少し俯きながらそう告げた。どこまでも高い晴れ空が、どこまでも不安に覆われているように見えてならなかった。

「なるほど、ええ…ラニは本当にいい奴でした。彼は人生の先輩で、故あって家出した私が、あの雨の降る夜の出会い以降何度も何度も世話になってきた親友で、私も彼が友人に対してそうするのと同じぐらいの献身をしてきたつもりでしたが…しかし今にして思えば無理を言ってでも、ラニと一緒に来ていればと、そう考えてしまいます」

「まあそれについては…未来に起きる事が悪意さえ感じる程の予想外に見舞われる場合もある以上、あなたの責任ではない――無駄に長生きしていると、このようなありきたりな言葉しか出なくなるがね。私はあなたに、あなた自身を責めて欲しくないが、しかしその後悔が長く横たわるのも事実だろうと言わざるを得ない」

 リヴィーナは頭を揺らすように何度か頷きながら、亡くした友について考えた。確かに、またそうなるのであろう――お前を一人で行かせるべきではなかったと、しばらく、それも恐らく長い事後悔する事になる。

 何故分かるかと言うと、リヴィーナには既にそのような経験があったからであるが。

 長い後悔の後は、癒える事の無い傷のようなものが後遺症として残り続ける。正確にはどのように受け止めればいいのかわからない記憶について、答えがわからぬまま生きていかねばならない。

 それが、マーガレット・コナーズとの短い結婚生活の後に起きた死別を経験した上での、リヴィーナの今後に対する予想であった。長い長い後悔、そしてその後遺症。

 痛みやその類似物が完全に消える事は無い。特に、悲劇的な死別を経験した場合には。

 そして残酷な事だが、己は責任ある者としてこの事実を受け止めた上で、すべき事をせねばならない。

 有機体じみた衣服を変形させて持ち上げているラニの亡骸を保留地まで運び、事件について知らせて、検死官らにラニと見知らぬ犠牲者の死について調べてもらい、ウォール・シティにいる副隊長に連絡できるよう通信を確保しつつ、その後更にマノアにも知らせなければ…。

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