第37話 女騎士ですか
「ちょっと隊長! 違いますよ、私たちはお願いしに来たんですから!」
「えっ、そうだったのか!?」
「早く謝った方がいい。ボーリン団長とも懇意にされていると聞いた。また減給になる」
先頭にいた女騎士が「いざ尋常に勝負~」と口上だか啖呵(たんか)だかを切ると、残りの2人の騎士たちが、それぞれ容赦なく突っ込んだ。
どうやら、突っ込まれているのが彼女たちのリーダーらしい。
黒髪で目のきりりとした女性である。
だが、残念美人な雰囲気をいかんなく醸し出していた。
残りの2人はそれぞれ、赤髪で苦労性っぽい人と、青髪で小柄の眠たそうな目をした女性だ。
俺がどうリアクションして良いのか分からず固まっていると、赤髪の人がフォローするように口を開いた。
「えっと、すみません。さっきの口上は無視してください。えー、私たちは薔薇騎士団といいまして、この国エギザリス公爵領で女だけで構成された騎士団をやっています。それで、私はエッカと言いまして、こっちの青い子がルルンです。で、最後の一人がリーダーの・・・」
「ミホルだ! よろしく頼むぞ、ミキヒコさん!!」
そう言って頭を下げた。
ふむ、さっぱり分からん・・・。
が、とりあえずすべきことは・・・。
「すみません、とりあえず着替えても良いでしょうか?」
「ですよね・・・。本当にすみません・・・」
エッカという人が謝った。
◆◇◇◆
「あー、勝負ってそういうことですか」
「うむ、そういう事なのだ!」
ミホルさんが腕組みしながら大きく頷いた。
ほかの2人・・・エッカさんとルルンさんも小さく頷いている。
ちなみに今、俺たちはメイドさんに言って運んできてもらったハーブティーを飲みながら、大きめの丸テーブルを囲んでいるような状態だ。
ラナさんもすでに起きていて、俺の隣に座ってもらっている。
ちなみにテーブルの下でこっそりと手をつないでいるのは内緒だ。
「つまり、俺に稽古をつけて欲しいと?」
俺の言葉に3人はもう一度頷いた。
こういう時の説明役と決まっているのかエッカさんが口を開く。
「はい。シュヴィンの街に現れたモンスターを倒されたミキヒコ様の勇姿を、私たちもあの場所で拝見しておりました。是非ともご指南お願いします」
「ミキミキがいなければ私たちは全滅していたかもしれない。でも、いつまた同じ強さのモンスターが現れるとも限らない。今のうちに強くなっておかないといけない」
「そう、そういうことなのだ!!」
「隊長は黙って」
「な、なぜだ!?」
3人の関係が分かってきた気がする。
っていうかミキミキってなんだよ。
青い子は確かルルンさんだったか。
えらいマイペースな人らしい。
ただ、幾らお願いされても答えは決まってるんだよなあ。
「残念ですが、俺に人の稽古を付けられるような技能はありませんよ。それに、あくまで俺は魔術師なんでね。騎士の方が使う剣技なんかはからっきしでして。そもそも教えられません」
うん、まあ妥当な回答だろう。
俺に騎士なんていう真っ当に生きてる人たちに何かを教えるなんてこと出来るはずがない。
まあ本音は、邪魔くさいから帰ってください、ということなのだが。
しかし、3人は顔を見合わせた後、同時に頷くと俺を気迫のこもった目で睨んできた。
おっと、腕付くで俺を無理やり従わせる気か?
正義を標榜する側というのは、自分たちが正しいと信じているが故に、わりとすぐ力に訴える時があるが・・・。
そんなことを思って身構えるが、次に見せた彼女たちの行動に俺は度肝を抜かれてしまった。
なぜなら、3人は一斉に立ち上がると、地面に膝をついて頭を下げたからである。
そう、土・下・座、だっ。
「って、なんでいきなりそうなる!!」
脈絡がなさすぎるぞ!
・・・っていうか、騎士団に入れるくらいなら、そもそも貴族の娘さんたちなんじゃないのか?
そんな彼女たちが簡単に土下座なんてして良いのだろうか?
いくら俺が腕の立つ魔術師と思っていても、所詮、素性の怪しいゴロツキと変わらないはずだ?
そんな相手に土下座って・・・一体どうなってるんだ?
だが、彼女たちは床に膝をついたまま、とても良い笑顔で口を開いた。
「ふふふ、どうやら我ら薔薇騎士団の土下座に言葉も出ないようだな」
「本当は嫌なんですが・・・。確かにこれをすると、だいたいのお願い事は了解してもらえるんですよね・・・。人として何か大切なものを失ってる気がするのが、玉に瑕(きず)ですが・・・」
「街を守るためには手段を選んでいられない。・・・あと、現実的にはこれ以上お給料を減らされたら、実家に戻らないといけなくなる。最大の死活問題」
「その通りだ! 先日のモンスター退治の失敗で我々薔薇騎士団の連続失敗記録は10へと到達した! ついでに減給額も5割へと到達! 実家帰りさせられて見合いをさせられる、という未来が現実味を帯びてきたが・・・私みたいな女が嫁に行ける訳がなかろう!! 家の恥部として深窓に押し込められる将来しか見えん!!」
「まあ、隊長は戻れるだけマシですよ。私なんて貧乏貴族の8女ですからね・・・。貰い手なんているはずもなく・・・こっちで自活しないと家が破産しちゃいます・・・。」
「私も似たようなもの。最悪、変態豚とかに払い下げられるかもしれない」
そう言って3人はズーンと落ち込む。
えらい重い身の上話だな!
っていうか、貴族のお家事情なんて聞きたくなかったよ。
ただなあ・・・、
「えーっと、けど、さっきも言いましたけど実際、俺が教えられることなんてないんじゃないですかね? 俺は魔術師ですし、皆さんの力量向上には役に立たないかと。これ以上、減給されると大変なことになるのは、よく分かりましたが」
俺がそう言うと、エッカさんが申し訳なさそうな顔をして言った。
「いえ、剣技の方はさすがに自分たちで何とかします。そうではなくて、実戦経験を積みたいと言いますか・・・。つまり、現状であのモンスターと渡り合えたのはミキヒコ様だけなんですよね。ですから、そのミキヒコ様と実戦形式で戦うことには、ともて意味があると思うんです」
うーん、なるほど。
剣技とか戦い方とかそういう細かい話じゃなくて、単に俺と戦って実戦での力を高めたいってことか。
確かに騎士団にあの街を襲ったモンスター以上の実力者はいないわけだから、幾ら騎士団内で訓練しても、あのモンスター以上の力は身につかない。
だから俺か・・・。
筋は通ってるけど・・・ただ、正直めちゃくちゃ面倒くさいなあ。
はっきり言って断りたい。
ボーリンさんにも俺たちには「不干渉」とするよう伝えていたしな。
いや・・・、あれはボーリンさん「だけ」が「不干渉」なんだよな。実はほかの人までは対象にするとは言っていなかった。
ボーリンさんとの会話を思い返して、その辺りが抜けていたことに気づく。
まぁ、そんなことは良いか。
条件がどうであれ、とりあえず面倒なことを受けるつもりはさらさらない。
それが俺のポリシーなのだから。
だけど、この人たちって何だか・・・。
「どうでしょうか? 何とか受けていただけないでしょうか? でないと一家が首を吊ることになります」
「私からももう一度お願いする。言葉だけで足りないなら、一日あなたのペットになってもいい。変態豚のペットよりもよほどマシ」
「何を言う! 言葉で伝わらないのは誠意が足りないからだ! 現にこうして土下座をすることで、ミキヒコさんの心が動こうとしているではないかッ! 毎日頼み込めば、きっとわかって下さる!!」
どことなく、ボーリンさんと同じ雰囲気があるんだよなあ。
ここで断っても、公爵と謁見するまでの3日間、ずっと付きまとわれそうな気がする。
っていうか、宿に戻った後もボーリンさんと同様、日参されそうな気配すらある。
それはさすがに御免こうむるぞ。
ちょっと、ラナさんにも意見を聞いてみるか。
「ラナさん、どう思う?」
「えっ? そうですねえ・・・」
ラナさんはさっきから俺の手をいじるのに夢中だったらしく、俺の突然の問いかけに少し驚く。ただ、ちゃんと会話は聞いていたらしい。
すぐに答えを言った。
「早めに受けられたほうが逆にご面倒がないかもしれません・・・」
「ですよねー」
俺が頷くと同時に、薔薇騎士団の3人組がパッと顔を輝かせた。
そして立ち上がると、ラナさんに「ありがとう、ありがとう」と言って涙ながらに感謝して手を握るのであった。
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