桜坂久遠の苦悩─如月さんは知っている外伝─

さむがりなひと

第1話

夜斗が人間界に帰ってきた直後、霊斗と雪菜の結婚式が行われている最中

少し結婚式場から離れた広場にて



「厄介なことにならなきゃいいんだけどね」



久遠がど真ん中に立って襲い来る影を見回す



「ま、主ならもう少し楽にこなすんだろうけどさ」



久遠の右手のひらに紫色の雷が現れた

それが徐々に拡散していき、周囲の陰に指向性を持って衝突して影を砕いていく



「ありゃ、下位魔獣だったかぁ…。まぁこんなもんだよね、今の時代じゃ」


「兄様!…って何も残ってないですね」


「舞莉!なんかものすごく弱かったんだよね」


「桜坂家の異能が強いという見方もできなくはないんですけど…この痕跡的に言うなら、魔王が実質的に死んだことによる影響でしょうか」


「白鷺だっけ?まあそうなんだろうね。代わりに都市伝説がめちゃめちゃ多くなっちゃったけど」



久遠はそういって周りを見渡した

歩いてくるのはゴスロリの少女だ

年齢的にはおそらく15歳~17歳程度。下手すればもっと幼いかもしれない



「君がメリーさん?」


「…もしもし私メリーさん。そうだよ?」


「君はなんでここにきたの?」


「…もしもし私メリーさん。怪異の敵を、殺すため」



少女から伸びてきたのは薔薇の茎のようなツタだ

それを避けた久遠がまた紫色の雷を放つが、何かに阻まれた



「…!対魔法障壁…!?」


「これくらいは想定してたよ。どうせそこまで強く撃ってないし」


「なら私が…!」


「大丈夫。おいで、鳴雷」


久遠の手の中に現れたのは、久遠の身長と変わらない全長を持つ太刀だ

それを一閃し、少女の体を真っ二つにして笑う



「君ごときで私を止めようなんて、百万年早いんだよ」


「ア…アァ…!!?」



少女の体は霧散し、風の中に消えた

久遠は太刀を自分の陰に突き刺し、中に沈むのを待ってから歩き出した

妹である舞莉も久遠から半歩遅れて歩き出す



「どうにも、怪異が進行してるみたいだね」


「そうですね…何事もなければいいのですが」


「何事もないなんてありえないよ。どれくらい被害を減らせるかってところかな」


久遠は珍しくため息をついて空を見上げた

あきれるほどにきれいな星空が、ゆっくりと曇り始めている



「主が平和ボケしてないといいんだけどねー」


「してそうですね、あのバカ主様なら」


「まぁね。とにかく、私たちはいつも通り怪異狩りを続けよっか」



久遠と舞莉はまた、次の狩場へ向けて走り出した

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