魔を斬る者

さいとう みさき

第1話歪み



 はぁはぁはぁ……



 嘘でしょ?

 あれ何!?


 美紀が、美紀が食い殺されている!?


 

 三傘見神社のご神体にいたずらしたから?

 それともあの鏡が割れたから?



 分からない、分からない!!



 ずしゃっ!

 ずしゃっ!!



 き、来たっ!?


 もう何が一体どうなっているってのよ!?

 これって夢?

 そうだよね、あんな化け物が実在するなんてありえないもんね。



 「はははは、そう、これって夢だよね?」



 あたしのその言葉に夢ならもう醒めてと切望するも現実は目の前に迫って来る。



 それはどう見ても人では無い。


 神話か何かに出て来そうな悪魔っぽい格好のそれはヤギの様な頭に上半身は屈強な男の人、下半身は毛むくじゃらの動物の様な格好で背中に大きな蝙蝠の羽根が有った。


 そしてその手にはずたずたに引き裂かれた美紀の上半身が握られている。



 くちゃくちゃ



 美紀の肉を咀嚼する音が聞こえる。

 既に瞳に生命の光を消してしまった美紀がこちらを見ている。


 それはまるで同罪の私もこっちに来るのを促すような感じで……



 「あはっ、み、美紀、あははははははっ!」



 何故か笑がこみ上げてくる。

 もうすぐ私も美紀と同じになるんだ。



 すっ



 「まさかこちらの世界でもこ奴が実体化するとはですね。仕方ありません、マーヤ処理を致しますよ?」



 いきなり聞こえて来たその声にそちらを見ると長い日本刀を引き抜いた私と同じ女子高生がいた。



  「だ、誰?」


 「下がっていなさい。あれは本来この世界に在らざる存在です」



 そう言って彼女は真っ黒な長い髪の毛を翻し、日本刀をちゃきっとあの怪物に向ける。

 そしてその陶器のような美しい顔に有る吸い込まれるような黒い瞳の色が金色にうっすらと輝き始める。



 「マーヤ、こちらの世界でこ奴は魔法を使えますか?」



 彼女はそう言ってしばし無言になる。

 そして次の瞬間その場から消えて気付けばあの刀であの化け物の腕を切り落としていた。



 『ぐろぉおおおぉぉぉぉっ!!』



 「ふむ、確かにこちらではこ奴等も魔法は使えないのですね? では今まで同様核を破壊して終わりにいたしましょう」


 彼女はそう言って今度は宙に飛び上がる。

 それと同時に彼女がいた場所にあの怪物が拳をぶつけるけど境内の石畳がそれを受けて粉々になる。



 漸っ!



 私はその光景に見とれてしまった。


 夕方の既に薄暗くなってきた空に彼女が舞い踊りギラギラした日本刀が弧を書くように振るわれる。

 それがあの化け物の首を切り落とし、地面へと叩き付ける。



 ごとっ!



 そしてあの化け物は美紀の死体を放してその場に倒れる。



 「残念ですが彼女の遺体も消し去るしかありませんね。あなたもここで見た事は忘れなさい」



 ちん。



 刀を鞘に戻し彼女はそう言う。

 そしてあの化け物の死体に歩んで行きその体に手を突っ込む。

 するとあの化け物はまるで燃え尽きた灰のようになりぼろぼろと崩れ落ち消えて行く。



 「あ、あなたは一体?」


 「余計な詮索はしない方がいいです。あなたも早くここを離れなさい」



 そう言って美紀の死体にも同じく手を突っ込んで何かすると遺体が灰の様になってぼろぼろに崩れて消えていく。



 そして私が驚く最中、彼女はその場から姿を消すのだった。

 

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