今までの静寂、これからの喧騒

ゆりえる

1. 目指していたのは、母のような人

 花のように優しくて、しおらしく静かな女性。


 まだ物心つかない頃、桜の花びらのように美しいまま早世した母に抱いていたイメージ。


 写真立ての中の母は、これから襲いかかる自身の運命をあらかじめ分かっていたかのように、愁いを帯び、少しはかなげな表情で微笑んでいる。

 その写真を見る度、私も何だか切なくなりながら、写真の母に向かって微笑み返してしまう。

 起きた時、登校する時、帰宅した後、寝る前など、他にも意識が母に向いた時には、私達はいつでも微笑み合っている。


 この静寂の時間が、私、上柳愛音あいねの常だった。

 それは、私にとって、安らぎであり癒しの時間だった。


 この時間が、これからもずっと末長く続く事を祈りながら、私は、父に嫌われないようにしていた。

 父が突然、意地悪な継母を連れて来て、私を虐待するような毎日が始まらないように、従順な良い子で有り続けた。


 父が惹かれた母の面影を自身も辿たどろうと、おしとやかで話し方も柔らかく、物腰も出来る限り優雅であろうと心がけていた。


 少し運動神経が平均レベルより劣る分は、学業にいそしんで、学年全体では無理だけど、クラスで一桁くらいの順位は頑張って維持していた。


 毎月のお小遣いは、無駄遣いはしないで貯金にほぼ回していた。

 

 多分、私は父の目からだけでなく、誰から見ても、他の同年代の誰よりも、よく出来た素直な良い子に育っていた......はずだった。


 あの日までは......

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