高飛車お嬢様

「ごきげんよう。申し訳ないのだけれど、貴方の顔はもう見飽きてしまったわ」


 とある国の有力貴族の御令嬢、ルゼ・フォン・ルードリアン。彼女はそう言い放ちまた婚約者候補を帰してしまった。彼女ももう十九になる。そのため彼女の周囲はお見合いを何度もさせたのだが……結果、今の所全敗だ。


 彼女の判断はどうも厳しすぎるようで、どうやら『こだわり』があるらしい。



「どうしてこんなにつまらない方ばかりなの? 貴方達の目は節穴なのかしら」

「申し訳ありません、候補者が……」


 膝を付き、従者の青年はそう言った。リアン・シュードルス、彼女の幼馴染で護衛を務める二十歳だ。


「言い訳は聞いてないわ。あんな人と結婚するなら貴方と結婚したほうがましなくらいよ」


 高飛車なお嬢様はそう言っては呆れたようにため息をついた。紅茶の入ったカップを持ち上げ、揺れる液体を退屈そうに見つめる。自分でも何を言っているんだ、と思いつつ。


「へえ……、じゃあ私とします? 結婚。」

「……はぁ!?」


 思わずルゼはカップを勢いよくテーブルに置いた。紅茶が跳ね、クロスが少し濡れる。ありえない、と思った。冗談にも程がある。心臓がどくどくと脈打っていた。顔に熱が集まる。


「私とは嫌でしたか」

「いや、違……違わな……ど、どういうつもり!?」


 俯いてリアンがそう言うものだから、焦って弁解しようとしてしまう。なんだか振り回されている気がして自分らしくない、落ち着こうと一旦考え直す。


「少なくとも彼よりは有能なつもりですが、いかがでしょう?」

「冗談を言わないで、ぜ、絶対信じないんだから!」

「私はつまらない冗談は言いませんよ、ルゼ御嬢様」


 彼に上手く丸め込まれているともう分かっていた。だけれどもう反発する気にはなれない。ずっと好きだった。だから誰とも婚約できなかった。立場違いの恋が、ようやく実ろうとしているんだ。


 そっと差し出された手を、取りたかった。でも、それじゃあらしくもない。ちょっとばかりひねくれているのがわたくし、ルゼ・フォン・ルードリアン。とある貴族の一人娘、気の強いお嬢様なのだ。


「本気なの?」

「もちろん」


 視線が絡み合う。幼い頃の無邪気なものとは違う、それはきっと恋情。見つめ合うだけで満たされて幸せになれる。こうして人生を共に歩んでいける。だからルゼは彼を従者にしたのだ。


 彼の前では自分の生意気ささえも消えてしまう。やっぱり、好きだった。



「リアン」

「ルゼ」


 あの日のように名前を呼ぶ。世界で一番愛しいその人の名を。しっかりと手を取って。まるで王子様のような、お姫様の様な姿にお互い見惚れてしまう。


「愛しています」


 どちらのものとも分からないその声が、混ざり合って溶けていく。

 部屋に充満するローズティーの香りとともに、二人は永遠の愛を誓った。

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