【ミュージカル小説】♪追放されたけどチートスキルに覚醒したので、侵略者の本拠地の魔女宮へ遠征しようと思います♫

八木耳木兎(やぎ みみずく)

第1部 追放



「お前はパーティー追放だ、オスカー」

一瞬、彼は言葉の意図を飲み込めなかった。



「な……何を言ってるんだ? リチャード」

 パーティーメンバー全員がいる前でそう言い渡された勇者パーティーの冒険者・オスカー。

 パーティーのリーダーたる勇者・リチャードに、彼は言葉の意味を問いただした。



 ここは、冒険者たちのあつまる酒場。

 人間界を侵略し始めた魔女討伐の為に、世界中の国という国から冒険者、あるいは旅商人が集まっている。

 中にはカタギとは言い難い、荒くれ冒険者やゴロツキなどもいる。



「言葉の通りだ。お前をこれ以上、俺たちのパーティーの一員として認めることはできない」

「で……でもあんまりじゃないか。俺はパーティーのメンバーとして、三年間がんばってきたつもりだ」


 その酒場でそう語る彼を、リチャードは蝿か何かを見るような目で見てきた。




「自分のレベルとみんなのレベルを見比べてから言ったらどうだ? オスカーよ」




 リチャードにそういわれたオスカーは、思わず押し黙った。




 確かに彼は、五年間戦士としてパーティーに所属しておきながら、レベル30――初心者に少し毛が生えた程度のレベルのまま、いくら経験値を獲得してもレベルアップも、新スキルの獲得もできていなかった。




 オスカー以外の初期のパーティーはもちろんのこと、彼より遅くパーティー入りしたメンバーの大半が、レベル120代にまで達しているのにも関わらずだ。




「既に魔女攻略の時期も迫っているんだ。魔女軍討伐のために一丸となって戦わなけりゃいけない時に、足手まといをパーティーに入れておけるか」




 リチャードの指摘に、オスカーは何一つ言い返すことができなかった。






「ま、前々から言おうと思ってたけど、俺、結構前からお前のことは嫌いだったから。せいぜい無能者として不遇な人生を送ってくれ、死ぬまでな」




 リチャードの非情な言葉に応じて、他のパーティーメンバーの何人かが鼻で笑っているのが聞こえた。



 

「そんな……そんな……」




 今にも泣きだしそうな姿勢で、オスカーはリチャードを睨みつける。

 リチャードの見下すような姿勢は、それでも変わることがなかった。




「そんなの……そんなのって……」





 そしてオスカーは、思いつめたような表情で何かを決心したかのように立ち上がった。





 そして、叫んだ。








「認られパブリブディドゥバ;oihjluigkh.u,igiftjuyf,gkyu.ilyhluvznfbisdglj;fvzfidk;nv/bldf;jvbnzdfl/k;lvmnbzdfl.kgfjcvnzk;dl/xoj;zv;n/bfl/xd;k:cベグルレべグルレベグルレベグルレベグルレベグルレドゥンドゥンドクドゥドゥンッッ!!!」








 感情に身を任せて言葉の体をなしていない発音の羅列を放ったかと思うと、オスカーは叫んだ。






「I'm オスカ―――!!!♪」




 


 その時だった。







♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪ッドゥベドヴァッチョ♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪アイムオスカー♪ドゥベドヴァッチョ♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪ドゥベドヴァッチョ♪






♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪ッドゥベドヴァッチョ♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪アイムオスカー♪ドゥベドヴァッチョ♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪ドゥベドヴァッチョ♪





スキャットマン・ジョンのテーマを思わせる音楽が、酒場に流れ出したのだ。



 かとパラバラピーパッパッパラッポ♪思うと、曲が織りなすユーロビートのリズムにパッパッパラッポ♪合わせて、オスカーはピーパッパッパラッポ♪肩と腰を揺らぶらせ、激しくパッパッパラッポ♪踊りはじめた。BPM130ほどの、ディスコダンスやHi-NRGを彷彿とさせるハイテンポのダンスだった。



 しかし、それだけでは終わらなかった。

 曲に合わせて動いたのは、彼だけではなかったのだ。



 彼が踊り出してからパラバラピーパッパッパラッポ♪ほどなくして、オスカーの後ろパッパッパラッポ♪にいた酒場の客―――冒険者や旅商人やゴロツキ、酒場の店員の若い女性などピーパッパッパラッポ♪も立ち上がり、彼に合わせて一寸の狂いなきパッパッパラッポ♪シンクロ具合で一斉に踊り出し始めた。


「Everybody誰も皆レベルの伸び悩みに悩むことあるだろう♪

 でも俺のメッセージを聞いてくれ♪何あってもあきらめるなんてできない♪

 勇者にできたなら俺だってできる♪オスカーは低レベルって皆言うけど♪

 歌とダンスは低レベルじゃないのさ♪

 でも君に教えたいことあるよ♪低レベルもチートも変わんない♪

 I'm オスカー♪Where's オスカー?♪

 I'm オスカー♪」


 巧妙で聞き心地のいいリズム感パラバラピーパッパッパラッポ♪で、踊りながら更にラップまでも紡いでいくオスカー。ダンスとラップの合わせ技パッパッパラッポ♪を見事にこなす彼の視線は、自分を追放に追いやったピーパッパッパラッポ♪リチャードの姿を睨み続けていた。パッパッパラッポ♪



♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪ッドゥベドヴァッチョ♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪アイムオスカー♪ドゥベドヴァッチョ♪スケビドゥビドゥビドゥベドヴァッチョ♪ドゥベドヴァッチョ♪



「なぜ無能な国王たちを喜ばす?♪

 チートを覚醒させられるとして、それどこの王がやるの?♪

 この状況に俺はキレてる♪怒りに燃えてるのさ♪

 Everybody誰も皆レベルの伸び悩みに悩むことあるだろう♪

 でも俺のメッセージを聞いてくれ♪何あってもあきらめるなんてできない♪

 勇者にできたなら俺だってできる♪」


 彼の紡ぎ出すラップパラバラピーパッパッパラッポ♪のメッセージとその声音には、どこか勇気をもってパッパッパラッポ♪自分を訴えるはぐれ者らしさがあった。自分のコンプレックスに悩みピーパッパッパラッポ♪、苦しみ、それでも自分は自分だ、という答えにたどり着いたパッパッパラッポ♪、はぐれ者なりの強さがそこにはあった。


 ドォォォン!!!!


 ある程度踊り終えたところで、オスカーはリチャードを人差し指で一直線に指すポーズで制止。それで彼のダンスとラップは終わりを告げた。


 人生の全てを踊りとラップで表現し、自分を追放した男に見せつけたオスカー。


 それに対して、当のリチャードは―――微動だにしなかった。


 かと思うと。


 スッ……


 勇者リチャードが片手を振り上げて取り出したのは、一枚の金貨。


 チャリ―――――――――ン……パシッ。


 親指の一弾きで、先ほどまでスキャットマン・ジョンのテーマを思わせる音楽を演奏していた楽団に、金貨を投げ渡した。


 それをサインに、楽団の奏者たちはいっせいに手を動かした。





 ドゥクドゥクドゥクドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪


「アォ!!!」



 ドゥクドゥクドゥクドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪ドゥクドゥンドゥン♪


 リチャードの要求に応えて楽団が奏で始めたのは、ポップスの曲調でありながらどこかR&Bの雰囲気も持たせた音楽。マイケル・ジャクソンのSmooth Criminalを彷彿とさせる曲だった。


「ポゥ!!!!!」



 いきなりシャウトをかましたかと思うと、先ほどまで微動だにしない姿勢でオスカーの踊りと言葉を見ていたリチャードは、素早くすべるように滑らかな体のこなしで踊り出す。


 ミスリルメイルを装着し、ミスリルソードを腰に提げているとは思えない躍動感だ。


 時折、頭にかぶっているミスリルヘルムをクイっとズラす仕草も様になっている。


 程なくして、リチャードの後方でドゥクドゥクドゥクドゥクドゥンドゥン♪、パーティーメンバー―――彼の仲間の戦士や魔導士、僧侶、盗賊たちドゥクドゥンドゥン♪も立ち上がり、彼に合わせてやはりドゥクドゥンドゥン♪息のぴったり合ったシンクロ具合で踊り出し始めた。


「♪オスカーがパーティーに忍び込む♪

 大きくなる不協和音♪

 オスカーがパーティーに忍び込んだ♪

 メンバーに残る不満の痕♪」


 先ほどまでオスカーが中心となって踊っていたはずの酒場は、一気にリチャードの独断場と化した。


「♪彼女は俺の元に逃げ込む♪

 オスカーにとって彼女は無防備だった♪

 彼女は俺の胸へと逃げ込む♪

 しかしオスカーに押し倒された♪」


 銃声のように素早く、衝撃的なダンスを一糸乱れぬ精密さで披露するリチャード。

 彼が地面を滑るようなムーンウォークで動けばメンバーもムーンウォークで動き、重力を無視しているとしか思えないゼロ・グラビティのポーズをすればメンバーも同じくゼロ・グラビティを決めた。

 風格すら感じる、場の支配力。彼の姿は、正にキングオブポップ銃声の王と言えた。


「邪魔じゃない?♪アニー、あいつ邪魔じゃない?♪邪魔じゃない?♪

 邪魔じゃない?♪アニー、あいつ邪魔じゃない?♪邪魔じゃない?♪

 邪魔じゃない?アニー♪」


 オスカーの元恋人であり、彼の今の恋人でもあるアニー(今も彼の後方で踊っている)との関係も強調しつつ、リチャードは言葉を紡ぎ続ける。その一言一言が、オスカーを否定する言葉だった。


「アニー、あいつ邪魔じゃない?♪

 邪魔って言ってくれるよな?♪

 忍び込んだオスカー♪

 オスカーに邪魔され悲鳴を上げるパーティー♪

 フィールドに残るアニーの血の痕♪

 パーティーは俺の胸に逃げ込む♪

 でも潰されてしまった♪

 それがパーティーの運命だった♪」


 間奏の間、いつの間にかテッテテレテレテレテレッテ♪先ほどリチャードと共に踊っていた荒くれ冒険者や店員すらもテッテテレテレテレテレッテ♪、操られたかのようにリチャードに合わせて踊り出し始めていたテッテテレテレテレテレッテ♪

 いつの間にか、その酒場で彼に合わせて踊っていなかったテッテテレテレテレテレッテ♪のはオスカーだけになってしまった。


「パーティーは襲われた♪(ダンダン!!)パーティーは潰された♪オスカーという犯罪者クリミナルに♪」


 躍動的で、一糸乱れぬダンスと歌の直後の完璧なロッキングによって、リチャードはオスカーに人差し指を突きつける。

 歌とダンスによって言い渡された、実質的な解雇通告だった。

 それはあたかも、先ほどオスカーが見せたダンスとラップへのカウンターのようでもあった。


 しかし。


「いや、それは認められない!!」


 リチャードとそのパーティーメンバー、そこに居合わせた全員の完璧なダンスを目の当たりにしても、オスカーの心が折れることはなかった。


「なぜだ!!!」


「昔  を  思  い  出  せ  !!」



 オスカーのその言葉を合図としたかのように。



テーレーレーレーレッ!!♪



 酒場にWham!のYoung guns(Go for it)を思わせる曲が流れ始めた。


 先ほどのダンスが嘘だったかのように酒場の全員が微動だにしない中で、オスカーとリチャードの二人だけがポスト・ディスコ調で踊り出し始めた。


「おい、バカ!♪ よく、思い出せ♪裏声で歌うオスカー


「何を、バカ!♪ 何を、思い出す♪裏声で歌うリチャード


 オスカーが十歩進めば、リチャードは十歩後退。

 リチャードが十歩進めば、オスカーは十歩後退。


 そんな調子で二人は酒場の端と端を行き来しながら、息の合ったステップを踏み出した。

 パーティーを追放する側と、追放される側であるにも関わらずだ。


「冒険中長い間お前の顔を見なかった♪

 だから俺はお前にあいさつした♪王都でな♪

 お前の腕にアニーがいるのを見てわかった♪

 母国の幼馴染がお前のハートを♪魔法で勝ち取ったと♪

 俺は『勇者ボーイ、またパーティーに入れてくれ』と言った♪

 俺は『勇者ボーイ、なんで不機嫌そうなんだ』と言った♪

 でもお前の返事は♪

 『オスカー、俺のフィアンセを見ろよ』だけだった♪」


 ステップを踏みつつリチャードの目を真正面から見据え、ラップによって自分の思いを紡いでいくオスカー。


「俺のパーティーメンバーに加入したい?お前は狂ってる♪

 アニーと眠れぬ夜♪豪奢な馬車の上♪

 お前が21になるころには英雄だ♪

 母国にいれば♪お前は楽しかったろう♪

 でもお前はここにいる♪

 そして、お前はそこにいる♪

 お前みたいな男なんかそこら中にいる♪

 古き良き日を振り返れ?♪

 若き勇者の俺は言う♪身の程を知るべきだ♪」


 彼に対する返答をするかのように、リチャードもラップを紡ぎ出した。追放を言い渡した時の見下した目とは違って、過去のことを語られたことに対する苛立ちの感情が彼の顔には出ていた。


「「若き勇者♪楽しもうぜ♪

 クレイジーな魔女が俺たちを冒険させる♪

 賢い男たちは悟る♪

 冒険には危険があると♪

 俺たちを見て見ろ♪冒険者で自由だ♪

 悲しみはない♪恐怖もない♪俺たちが成し遂げたいこと♪

 1,2,俺たちを見ろ♪

 冒険による死♪」」


 ポップな曲調に合わせて、若い頃、母国で共に冒険をしていた頃のように抜群のコンビネーションでサビを二人でハモり上げるオスカーとリチャード。その姿はさながら人気のポップデュオユニットであり、誰がどう見ても、最高最善の良き友、良きコンビだった。

 彼らの勢いに同調するかのように、勇者パーティーのメンバーや酒場の客、店員たちもいっせいにディスコダンスを踊り出した。しかし彼らのダンスは動きも少なく地味なもので、明らかに場の主役をオスカーとリチャードの二人に譲り渡していた。



テーレーレーレーレッ!!♪テーレーレーレーレッ!!♪

テーレーレーレーレッッッ!!!!!!♪


 かつての友人であり、今は強者と弱者に分かたれたオスカーとリチャード。

 リチャードの表情には、もう先ほどのような侮蔑の色はなかった。

 オスカーと激しくダンスとラップを交わして、今の彼を少しだが理解できていたからだ。


 ディスコダンスを踊っていた勇者パーティーや客、店員たちの動きも止まり、酒場の空気が静寂に包まれる。

 一帯に緊張が走る中で、そっとオスカーが口を開けた。


「本当は、また母国にいたころみたいに……お前と冒険がしたい」



 それは激しいラップとダンスの後に彼が紡いだ、余りにも単純で、それでいて切実な言葉だった。



 その切実な本音を、絞り出すようにオスカーが口にしたその時。





 一筋の光が、オスカーの体に差し込んだ。


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