第13話:俺の過去を
「夜宮くんの家にあがるのも二回目だね。相変わらずの殺風景」
「ほっとけ」
俺は久しぶりの本格的な外出で疲れ切っていた。
ベッドの傍に荷物を置くと、雪崩れるようにベッドに倒れこむ。
綾香はというとベッドからはみ出した俺の腕に触れ、今日買ってきたガラス製のイルカのオブジェを本棚の上にちょこんと飾っていた。
「綾香、なんで俺の部屋に飾ってるんだ?」
「わたしがここに飾りたいと思ったからだよ~。物が少ない部屋だからこそ、紅一点になるんだから」
口元に微笑みを浮かべながらツン、とオブジェをつつく。
本当に、最近の俺はどうかしている。
綾香の作り出す居心地のいい雰囲気と空間は丸ごと、俺のオアシスになっている。
でも、それは今日中に泥沼になるかもしれない。
「そうだ、あったかい飲み物を淹れてあげるよ。今日、わたしに付き合ってくれたお礼」
「普通は部屋主の俺がすべきことだけどな……。すまないが、頼む」
「あ、やっぱりわたしの隣で肩に触れて」
「結局そうなるんかい」
一日一回は必ず俺に触れるように言ってくるのだ。
本人は隠しているのかもしれないが、口元に嬉しそうな表情が現れるので、俺もいやいやではない。
むしろ、この時間が楽しみでもあった。
「おお……」
やがて、こぽこぽとコーヒーの香りが充満していった。
実は俺の部屋には数少ない嗜好品が存在する。
本棚も広義には生活に必要ないものだから当てはまる。
そして、もう一つがサイフォンだ。
マスターのコーヒーが不意に飲みたくなった時に重用している。
「はい、どうぞ」
「サンキュ」
口をつけるとマスターのコーヒーとは違うものの、ほんのりと優しい味がした。
「美味いよ、綾香」
「ふふ、それはよかった。夜宮くんに連れて行ってもらったカフェのマスターほどじゃないけど、そう言ってもらえて嬉しいな」
お互いにベッドの上に座るとほっと一息ついた。
次に振る話題、振られる話題を感じているのは二人ともだ。
「聞いてくれるか、俺の過去を」
「うん、それがわたしの知りたいことの一つだから」
さあ、そろそろ俺の過去――朝露事件に関して話す時が来たようだ。
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