【青いBL童話国】~男ども殺し合うより愛し合え~

楠本恵士

転げコロコロ穴に落ちた腐れ女子

第1話・穴に落ちたらBL童話の国?

「待ちぼうけ♪ 待ちぼうけ♪ 腐女子が一人で待ちぼうけ♪ そこに男が跳んできて、コロリ転げて男受け♪」


 某所、某日──大量のBL同人誌が入った紙袋を提げた、BL同人誌専門の即売会場からの帰りの腐女子が、恥ずかしげもなく変な歌を歌い。

 買ったBL同人誌を広げて、歩きながら読んでいた。

「すげぇ……すげぇ、こんなコトやっちゃっていいのかな『「はぁはぁ……先輩、オレ前から先輩のコトが」「オレも実は、おまえの姿ばから練習中も目で追っていて……はぁはぁ」壁股ドン』うわぁ」

 赤信号の横断歩道を、同人誌を読みながら渡り、急停止した自動車数台の玉突き事故を発生させたコトにも、腐女子は無関心だった。


 腐った女腐女子が、空き地の近くを通りかかった時──草の中から奇妙な声が聞こえてきた。

《いらっしゃい♪ いらっしゃい♪ 活きがいいイケメン男が揃っているよん♪ 体を鍛えた筋トレなイケメンもいるよん♪》

(んっ?)

 気になった腐女子は、柵の壊れた箇所から空き地に入って、不思議な声が聞こえてきた方へ進む。

《可愛らしいイケメン……爽やかなイケメン……ちょい悪イケメン……ワイルドなイケメン、貴女好みのいい男が揃っているよん♪》


 声は掻き分けた草の向こう側にある、穴から聞こえた。

「なに? この穴?」

 しゃがんで穴を覗いていた腐女子のお尻を、誰かが蹴飛ばす。

 蹴飛ばされ、前転で穴を転がり落ちていく腐女子。

「ひぇぇぇぇっ!」

 落ちていく腐女子は、穴の後方から男性の声で。

「博士っっ、そちらに一匹、腐った女が落ちていきましたよぅぅ」

 そんな言葉が聞こえた。


 腐った女はコロコロ転がり、西洋家の暖炉口から外に転がり出た。

 部屋の中には、白衣コートを羽織って車イスに座った女性が、コーヒーを飲んでくつろいでいた。

 その女は、ウサギ耳のカチューシャを頭に付けている。


 ウサギ耳のカチューシャを頭に付けた、白衣コートの女性が、暖炉の中から転がり出てきた腐れ女を見て言った。

「なに、こんなのしか、いなかったの? 容姿端麗の、お嬢さまの腐れ女が良かったのに……まっ、BL好きな腐れ女に贅沢も言えないから、この程度で妥協するか」

 車イスの車輪を手で回して、腐女子に近づいた謎の白衣コート女は、腐女子の顎先をクイッと指先で押し上げた。

「顔は並みか……なんとかなるかな」

 同人誌が入った紙袋ごと、穴に放り込まれたBL誌が落ちてきた。

 さすがに腐った女もは、初対面の女から「並み顔」と言われてムッとして言い返す。


「あなた、初対面なのに失礼な人ですね! 腐った女ってなんですか! ゾンビじゃありません、男同士で愛し合うシーンが大好きな、今まで彼氏なしの陰女です! あなた、いったい誰なんですか」

「そうね、こちらから自己紹介しないとね……あたし見ての通り、美人でプリティな天才マッドな女科学者よ『博士』とでも呼んで」

「自分で美人という人、はじめて見た……あたしの名前は」

 腐った女が自己紹介で自分の名前を名乗る前に、調理器具のボールのようなモノを被せられ、ハンマーで頭をぶん殴られた。

「腐った女に、名乗る名など必要ない! さて、うまく記憶が抜けたかな?」

「あぽぽぽぽぽぽぽぽぽ……あたしは誰? ここはどこ? そもそも、あたしってなんて名前の生物?」

「やばっ、少し強く叩き過ぎた……やり直し」


 再度、白衣コートの女性が『記憶ぶっ飛びハンマー』で、腐った女の頭を横殴りで叩く。

 調理ボールのような医療器具を頭から外された、腐れ女は目をグルグル回してヘラヘラ笑う。

「えっへへへ……あたしの名前? そんなのどうでもいいよぅ……博士と出会ったこの時間が、大事だよぅ……えへへへっ、あたしはBL大好きな腐れ女だよぅぅ」

「よしよし、今度はうまくいった……さぁ、城に行くわよ。外から持ってきたBL同人誌を広い集めて城にいる、【裸の金の王子さま】のお土産にするんだから」

「ふぁ~い、博士に従いましゅ」


 車イスの『博士』と『腐れ女』は、童話の国の青いブルー城へと向かった。

 歩いている最中に腐れ女の意識は、しっかりきた。

 美形で普通の身長をした「ハイホー、ハイホー」と歌いながら連なって歩く『七人の青年鉱山作業員』や。

 イケメンで着物姿の『恩返しツル男』や。

 男性化したギリシャ神話の美の女神ビィーナスも、美の男神となってガラスの靴を作っている、靴屋の作業場を外から覗いていた。


 城に向かう道を、腐れ女の前を進む車イスの博士が説明する。

「この世界はね、子供の時に読まれていたけれど、その子たちが成長して読まれなくなった。

物語の残留思念を、集めて仮想現実の世界で再構築してみたら……どんな世界ができるかなぁ、と試しに作ってみた思考実験世界なの……仮想世界の平行世界デジタル・バラレルワールドみたいなもんだと、思っていれば間違いない」


 博士の話しだと、仮想平行世界の住人にも仮想自我が存在していて、普通に生きている生物と変わらないらしい。

 さらに車イスの車輪を手で回して、前へ進んでいる博士が言った。

「あたしも、BL好きでね……物語のクズを集めて再構築する時に、登場人物の大半をイケメンの男に変えたの。

でも、あたしの力が及ぶのは、ここまで……この童話世界に問題が発生して、裸の金の王子さまから相談を受けて。力を貸して一緒にこの世界を改革してくれる、腐れ女を探していた……話している間についたわよ、裸の金の王子さまがいる変態の城に」

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