第14話 合同紺羽の戦い <冬の陣>その6

 光安さんと奈々ちゃんは私を落ち着かせようとしてくれている。でも、もう遅いんです。


「ちょっとちょっとユッキー。ひとまず落ち着いて、ね?」

「気持ちはわかりますけど…雪さん一旦落ち着きましょう」


「奈々ちゃん、光安さん、ごめんなさい。でも、もう我慢の限界です。私帰りますね」


 もう後には引き返せない。今回の雪まつりの主催者は私なんだから自分でお開きにしたって問題ないよね。それにしても私ってあんなに大きい声出せたんだ…。


「ほう、顔が赤くなっておるわ。その顔色じゃと雪女という名前が似つかわしくないのう」


「それは残念でしたね。では今度は赤鬼とでも呼べばいいのでは?」


 何を言っているんだ私は


「赤鬼じゃと?それはお主に対してあまりに失礼であろう。さすがの儂も今日初めて顔を会わした者に赤鬼などとは冗談でも呼べぬわ」


 はあ?もうほんっとうに意味分かんない!


「もう……一体なんなんですかっ?雪女はよくて赤鬼は駄目なんですか?全然意味がわかりません。あ、もう説明しなくて結構です。失礼します」


 ……はあ、やってしまった。私の悪い癖。一度やらかしてしまうとどうでもよくなってしまう。すぐにこの場から逃げたくなる。あんなに気を遣っていたのに全てがパー。奈々ちゃん、本当にごめんね。…って言っても許してもらえないか。


 私は下駄箱からブーツを出し、右足を履き終えたあたりで人の気配を感じたのでふと見上げると、そこには見たことがあるようなないような、珍しい生き物が立っていた。


「ごめんなさぁ〜い遅くなりましたぁ〜」


「もう、遅いよアキちゃん!」


 アキ…ちゃん?なんか聞いたことあるようなないような。ん?アキちゃん!?


「アキちゃんじゃないですか!初めまして!俺、森次郎って言います」

「え、奈々ちゃんの友達ってアキちゃんだったの!?お、俺ミッチーチャンネルのミッチーです!」


 さすがに次郎さんや光安さんでも驚いている。それはそうだ、普段YoutubeやTV番組を殆ど見ない私でも知っている有名なYoutuber。そのアキちゃんがまさか奈々ちゃんのお友達だったとは


 といっても私にはもう関係ない。どうでもいいことだ。


「アキちゃんさん初めまして。本当はゆっくりお話したかったんですけどすみません、私、もう帰るところなんです」


「えぇ帰るのきれいなおねえさぁん?じゃあ、最後に写真取ろぉ〜〜?」


「え、いやいや私その、写真とかは苦手で」


「あぁ!!しまったぁ〜そうだったぁ。これ今生配信してるの忘れてたぁ。写真じゃなくて動画に一緒に映るってことでもいいよね?」


 え。生配信?ってことは…今私の顔がアキちゃんの生配信中の動画に映ってしまったってこと!?


「あ、あの。これはそのもちろん後で編集とかなにかをして、その、私の顔も消してもらえるんですよね?」


「え?何言ってるのおねえさぁんw 生配信って言ってるじゃん!視聴者のみんなぁ!ここに面白いこと言うきれいなお姉さんいるよぉ?」


 アキちゃんのカメラのレンズとまた目が合ってしまった


「ちょ、ちょっとやめてください」


「えぇいいじゃんいいじゃんきれいなんだし!ってかおねえさんの手綺麗〜ってか肌白くね!?顔は…うわ、顔あっか!ちょおウケるんですけど!かわいい〜」


 本当にやめて。なんで、なんでこんなことに。


「いい加減にせぬか!!この珍獣めがっ!!」


 ……え?


「……はあ?珍獣って私のこと?ちょおウケるんですけどぉ…」


 本日何度目の静けさが訪れたのかはもう私は覚えていない。ただ…覚えているのはこの時の信長さんはまるで本物の織田信長なんじゃないかと思えるほどの気迫で怒鳴っていたことと、アキちゃんを睨みつけている眼光に恐怖を感じたことだけだった。

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