相手の感情を読み取る能力が高い月村剣太 VS 感情を読ませない花形三姉妹

満月そーめん

第1話 感情特定・この中で誰が俺のこと好きなんだ?

 俺の通う東京渋谷学園には有名な三つ子の美人三姉妹がいる。

 全国高校ミスコンテスト優勝、上位独占、有名な雑誌モデルにもスカウトされ、特集で掲載されたりもしている。

 学力テストの成績も三人とも学園上位に入る。

 当然、モテるので、男からの告白も後を絶たない。

 その美人三姉妹は、『花形三姉妹』と呼ばれている。

 長女が花形春子、次女が花形夏子、三女が花形秋子。

 三人とも季節の名が入っている。

 そして、俺と同じ二年A組のクラスに在籍している。

 


 長女の春子は、黒髪のロングストレートで、品があって、美人お嬢様みたいな感じ。

 次女の夏子は、黒髪のショートで、活発で、美人アスリートのような感じ。

 三女の秋子は、茶髪のロングパーマで、好奇心旺盛で、美人女優のような感じ。

 俺が見た『花形三姉妹』の印象はそんな感じだ。

 『花形三姉妹』は、クラスの人気者でもあり、いつも人に囲まれていて、生徒会に所属している。

 長女の春子は学園の生徒会委員長だ。

 次女の夏子は学園の生徒会副委員長だ。

 三女の秋子は学園の生徒会書記だ。

 『花形三姉妹』とは話す機会はなく、同じクラスなのに、何処か遠い存在に感じている。



 俺の名は月村剣太。

 俺は『花形三姉妹』とは逆だ。

 俺はイケメンではないと思うし、学力テストの成績も常に最下位争い、いつも一人で孤独だ。

 クラスでは浮いてしまっている。

 みじめとは思ってない。寂しいとか劣等感もない。

 俺は一人が好きなのだ。

 俺は『相手の感情を読み取る能力』が異常に高い。

 『東京心理科学研究所』で、相手の感情を読み取る実験テストに協力した時、異常に高い数値を叩き出したことがある。

 なので、相手がいると、気を使って疲れてしまう。

 だから人とは関わりを持ちたくない。

 だから時々、クラスメイトから、哀れみの感情を感じる時がある。

 『花形三姉妹』からは、まるで下等生物を見ているかのような感情を感じる。


 

 『花形三姉妹』は運動神経もあり、体育の成績も優秀、秋の体育祭も大活躍だった。

 俺は運動音痴ではないが、体育の成績は平凡、体育祭も平凡で大した活躍はしなかった。

 秋の文化祭も『花形三姉妹』はクラスの実行委員として、中心になり、忙しく華やかに活躍した。

 俺は裏方の雑用係として、だるそうに働いた。

 実際、だるくて途中で帰ろうと思ったが、とりあえず最後までやった。

 その後、お疲れ様会で、『花形三姉妹』の春子から買い出しを頼まれて、初めて話をした。

 話と言っても、ただ買い出しの確認をして、メモを渡されただけ。

 買い出しの帰りに、『花形三姉妹』の夏子がやって来て、「これもお願い」と言って、メモを渡され、引き返して買い出し。

 その買い出しの帰りに、『花形三姉妹』の秋子がやって来て、「これもお願い」と言って、またメモを渡され、また引き返して、また買い出し。

 買い出しが終わって、学園に着くと、春子から「ごめん。追加でこれもお願い」と言って、またメモを渡され、また買い出し。

「何回買い出しに行かせるんだよっ」

 そう言うと、春子はクスッと笑った。


 

 冬の渋谷のアニメイトで、偶然、クラスメイトの噂好きな女子、片瀬美香と出会った。

「月村君のこと、好きな子がいるよー」

 美香は言った。

「誰なの?」

 俺が喜んで聞く。

「花形さん」

 美香は答えた。

 俺が驚くと、

「驚くよねー。だけど、花形さんは三姉妹でしょ。どの花形さんかまでは知らない。噂だし。本当なのか、わからない」

 美香は半信半疑な感じだった。

「嘘だろ? ありえない」

 俺も半信半疑だったが、半分は期待していた。

 同級生の女に好かれたことなんて一度もない。

 ましてや、あの『花形三姉妹』だ。

 やっぱり、ありえない。

 ろくに話したこともないし。

「ねぇ、明日、『花形三姉妹』と話をしてみて。本当かどうか、私が観察して見極めてみる」

 美香は言った。

「マジかよ」

 俺は困惑した。

 でも、本当だとしたら・・・・・・。



 次の日、放課後の教室で、帰り支度をしていると、美香が俺に視線を送り、手招きしてきた。

 『花形三姉妹』は教室を出ようとしていた。

 美香が急いでという感じで、俺に手招きを繰り返す。

 俺は勇気を振り絞って、

「花形さん」

 と呼び止めた。

『花形三姉妹』は振り返る。

「あの・・・・・・」

 何を話せばいいんだ?

『花形三姉妹』は俺が呼び止めたことに驚いていた。

 嫌悪感の感情が伝わってきた。

「あの・・・・・・」

 俺は緊張して頭が真っ白になってしまった。

「何か用なの?」

 春子が聞いてきた。

「いや・・・・・・その・・・・・・」

 俺は困惑していた。

「用がないのなら、行くよ」

 夏子は去ろうとする。

「何? 何もないの?」

 秋子も去ろうとする。

「ごめんね、用がないのなら行くよ」

 春子は去ってしまった。

「じゃ、あたしも」

 夏子も去る。

「バイバイ」

 秋子も去って行った。

 何をしているんだ、俺。

 自分が情けなくてたまらなくなった。

「うーん・・・・・・これだけじゃ、わからない」

 後ろで見ていた美香は言った。

「嘘に決まってる。くだらねぇ。あの三姉妹と話すことなんてない」

 俺は開き直って教室を出る。



 下駄箱に行くと、そこには『花形三姉妹』がいた。

 誰かを待っているらしい。

「誰を待っているの?」

 俺は声を掛けた。

「あなたよ。何か言いたそうだったし」

 春子は言った。

「何か気になって」

 夏子は言った。

「月村君、何を言いたかったの?」

 秋子は言った。

「いや、特にないよ。美香さんに言われて、話し掛けただけだよ」

 俺は答えた。

「何を言われたの?」

 春子が聞いてきた。

「『花形三姉妹』の誰かが俺のこと好きみたいだから、話し掛けてだってさ。その様子で見極めたいらしい」

 『花形三姉妹』は驚く。

「馬鹿らしいよな。嘘に決まってるのに」

 俺は自分自身に呆れた。

 『花形三姉妹』は黙ったままだ。

 嫌悪感の感情が伝わってきた。

 同時に嫌悪感とは違う感情も伝わってきた。

 それは嫌悪感とは逆の・・・・・・好意感?

 好きという感情?

 本当だったのか!?

 この場では、俺に対する『嫌い』と『好き』という三姉妹それぞれの感情が混ざり合っていて、誰の感情なのか特定できない。

 一人ずつ相手にすれば、わかりそうだ。



 まずは春子だ。

 ここから春子を連れ出して、感情を特定する。

「この場では話せない。それぞれ順番に話したいことがある。向こうで話そう。まずは、春子さんから」

 俺は、靴箱の前の廊下の奥の方を指差して、春子を見た。

「わかった」

 春子は頷く。

 夏子と秋子は何の話だろ? と不思議がっている。

 俺と春子は、この場を離れて、廊下の奥の方へと行く。

 さて、春子の感情はー?

 俺のこと嫌いなのか?

 それとも好きなのか?

 どっちなんだ?

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