第52話 ニュルン
俺は蝙蝠エリアの森の中を駆けている。召喚した白狼に乗って、凄まじい速度で森を駆け抜けている。
後ろにはアベルが別の白狼に乗って着いて来ている。アベルは振り落とされない様に必死になって白狼にしがみついている。
俺は千里眼で、魔物の襲撃に備えているが、逆に俺の千里眼の範囲に入ると逃げ出す魔物ばかりなので、最短距離を突き進む事にしている。
多分だが、人間のキャンプ地のニュルンは、蝙蝠と鳥のエリアの間、霧の大森林の入り口にあると思う。俺がジョセから貰った地図には、人間のキャンプ地など載っていなかったので、可能性のある場所はそのくらいしか無いからだ。
間違えていたらその時考えればいいやと気軽に考えている。それよりも人間の情報が少しでも欲しかった。戦うにしても、利用するにしても、ケヴィンになる方法も知りたい事が多すぎた。
目を痛めたアベルはまさに渡に船で、俺の目的に合致した最高の人間だった。
白狼も慣れると中々乗り心地の良い走りがするのだが、しがみつくと振動がキツイ筈だ。アベルよ!もう少し頑張るのだ。俺は闇の森を考え事をしながら快適に進んでいた。
俺はネイムド蝙蝠の魔石を握り締めた。
蝙蝠になる気はない。だって真っ黒で、気持ち悪い。ゴブイチに冗談で切られそうな気がする。
なんとか闇のエレメントと風のエレメントを使う事は出来ないモノか?魔石の中に入って感じる。
闇は光の対極、光と闇は他のエレメントと違って、もっと根元的な次元にある様な気がする。光は土のエレメントを震わせる力の様なモノ。闇はその舞台で、土のエレメントならば震えを止める様な力なのか?光は存在の強さ、闇は環境の強さ、ベクトルの違いの様でもある。闇はこの森の様に存在を呑み込むほどの濃密な環境や舞台を作り出す。そこに存在する生命は根元的な恐怖に精神をやられる。目をやられ、耳をやられ、五感をやられる。
やっぱり俺の好みではない。
必要に迫られなければ闇のエレメントは使わないかもしれない。
風は中々良い感じるがする。
『
俺は蝙蝠の魔石を握ったまま、風のエレメントに共感した。自由になりたい!俺の中の魔力と風のエレメントが輝く、
『風神』!!
俺は大きく叫んだ。
魔力が身体の外に溢れ出し、ローブがはためき、白狼の毛並みがわさわさと揺れる。俺と俺を乗せた白狼が風に包まれて、前が開けてゆく、道が出来てゆく、背を推してくれる。
ドーン!
と更にスピードが上がり、後ろのアベルと白狼を置き去りに、弾丸の様なスピードで飛んだ。白狼は雲を蹴る様に、地面を軽やかに、音も置き去りにして、まさに飛んでいる様だった。白狼の悦びも伝わってくる。
快感。
俺は風のエレメントが大好きだ。
フワッと何事もなく、止まる。
アベル達を残しておかない。非常に残念だが仕方がない。
俺達はアベル達の到着を暫くお待つ事にした。
その間、俺はネイムドの魔石をペンダントにしてみる。魔石を蝙蝠の骨を加工して包む、中央を露出させて、魔石の輝きを引き出す。チェーンも作って首に掛けた。そこには青暗く輝きを放つ、俺の魔力も込めた魔石のペンダントが、俺の胸元を飾っていた。
これでいつでも『風神』や『
『
アベル達がやっと来た。ここで休憩をする事にする。
「ケヴィンさんは本当に凄い魔法使いなんですね。この前の洞窟では爆発するし、今はあっという間に消え去ってしまうし、俺なんかには信じられないほどの魔力の魔法使いですね!」
「秘密にして貰えると助かるが」
「もちろんです!ケヴィンさんの迷惑なんて掛けたくありませんよ!俺だけの胸の内にしておきます。ここまで何もなく安全に来れましたし、この調子ならニュルンまであと少し、俺も無事に帰れそうです。良かった。ありがとうございます。」
「あゝ、約束は守る」
「お願いします」
俺達は白狼を見張りに闇の森で仮眠を取った。
仮眠中も何もなく、そのまま出発するともう少しで闇の森を抜ける所までたどり着いた。
ここからは歩いていく、白狼なんかに乗っていて、厄介事なんかに巻き込まれては堪らない。白狼は森に放って消してしまう。
アベルに肩を貸してゆっくりと歩く、森が開け、草原になった。崖が見える。ここはやはりダンジョンなのか、霧に覆われ、崖の高さ横の長さはどこまであるのか判然としなかった。
遠くに火が燃えているのが見えた。
「やった!やっと帰ってきた。ケヴィンさんありがとう。門番に通行手形を見せてください。ありますよね。」
「俺はないぞ。」
「本当ですか?困ったな」
「俺も記憶を無くしている。通行手形も持って無かった。」
「そうなんですか。それなら俺が身元引き受け人になります。門番の前まで行ったら何も話さないでください。俺がなんとかやってみますので、」
「それは助かる。」
「いいえ、このくらい。お安い事ですよ!」
俺はアベルの指示に従い、アベルを支えながら、篝火に向かって歩く、切り立った崖は高く
「おい!そこで止まれ!」
門番が俺達を不審者だと思ったのか?声を荒げて槍を構える。
「俺です。アベルですよ!!
旦那にはこの前酒を奢ったじゃないですか、あのアベルです。」
「おいおい、大きな声で何を言う。
アベル⁉︎お前どうした?目をやられたのか?」
「ドジ踏んじまいました。それでこのケヴィンに助けてもらったのです。後で事情は詳しく報告します。これは俺の通行手形です。コイツの身元は俺が保証しますんで、ここを通してくれませんか?」
アベルは通行手形と何かを門番に渡す。
「うむ、コイツはケヴィンだな、必ず報告しるのだぞ。通れ!」
「ありがとうございます。」
俺達はなんとか無事にニュルンに入る事が出来た。後はアベルを酒場まで送り届けるだけだ。
「助かった。ありがとう。」
俺が礼を口にすると。
「いいって事よ、アンタには随分世話になったからな、気にしないでくれよ。」
アベルは笑顔で答えてくれた。
洞窟の入り口を越えるとまるで別世界が広がっていた。入り口は大人五、六人が並んで通れるくらいだったが、中に入ると壁や天井が
「ここが冒険者の
アベルは誇らしげに言った。
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