第47話 蝙蝠

俺はゴブリンのジョエルになった。


理由は蝙蝠エリアの攻略に魔法以外の手数が欲しかったからだ。


久しぶりのゴブリンの身体に、多少の違和感を感じる。


ゴブイチ相手に剣の打ち合いでもしてみようかと思う。


ゴブイチを見ると膝を付き、待機して、次の俺の指示を待っていた。


その横にはマシューがいた。

マシューは俺の外観が変わり、不思議そうな顔で、小首をかしげる仕草をしたが、すぐに俺だと気付いたのか?興味を失ってモグモグしている。


俺は黒剣を鞘から抜いて、右手に構える。ゴブイチはすぐに立ち上がり、長剣を抜いて構えた。


俺は黒剣をゴブイチの長剣に軽く当てる。ゴブイチも俺に合わせると後ろに下がり距離を取る。


ゴブイチはすかさず踏み込み、長剣を振り下ろした。俺はその場で受けて甲高い金属音が響く、長剣を下に流し、そのままゴブイチを横薙よこなぎぎするとゴブイチは黒剣の間合いを見切り難なく躱す。


俺の剣は短剣で間合いが狭いので、長剣を受けてから勝負だ。手数でいくか、足を踏んだり搦め手でいくか、何通りものパターンを俺はゴブイチと繰り返す。感が戻ってきた。


黒剣と短剣を両手で持って、更にゴブイチと稽古を繰り返した。乗って来た俺はゴブイチとの間合いを詰めていく、手数では上回るがゴブイチは堅実に受け、距離を取り、躱していく。ゴブイチはまだまだ本気を出していない。当たり前だが稽古なので、怪我をしてもしょうがない。


実戦では、これに衝撃波や俺など魔法までも加わる。しかし確かな実力をゴブイチからは感じ取れ、俺も感が戻って充分充実した時間だった。


マシューはモグモグして見ていた。

退屈はしていなかった様で何よりだ。


ゴブゴロウ達もキリが良さそうなので、飯にして、ゴブサンが帰るまで暇なのでこの辺の探索などしてみようかと思う。





俺達居残りメンバーは森に入る。


蝙蝠エリアの手前まで様子を見に来ている。


なんとも禍々まがまがしい空気が立ち込める蝙蝠エリアがあった。


ゴブリンや狼の目は暗闇に適している為、今まで森で不自由した事は無かった。しかし、蝙蝠エリアは闇が濃い、光の無い世界、まるで闇に吸い込まれるかの様な森だった。


キキキキキキキキキキキキキ!


何が鳴く声なのか?

至る所で、声がする。


俺がいきなり蝙蝠エリアに踏み込みと、宣戦布告する事になり、始めから強敵に出くわす可能性があるので、軽めの探索をゴブゴロウに指示する。


ゴブゴロウは五匹の白狼を連れ、蝙蝠エリアの森に向かった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※



ゴブゴロウが蝙蝠エリアに入り暫くすると、突然、周りにいた白狼が消え、真っ暗になる。闇が濃度を持って纏わりつく、顔を撫でられる様な闇で、前も後ろも将又はたまた上なのか?下なのか?さえ自信が持てなくなった。立ち止まり、膝を着き、手探りで白狼を探す。手触りで白狼の毛並みらしき感触を感じるが、本当に仲間なのか?首にすがり付き、頬擦りする。

声を出すと白狼達が集まって来た。

やっと落ち着きを取り戻す。

目も慣れてきたらしく、段々と白狼の姿が確認できた。


周りを見渡す、来た道が分からない。パニックになりそうな自分をどうにか抑え、息を吐く。


もう一度、周りを見ると星の様なまたたきを感じた。ついになる怪しげな光が付いたり消えたり、ユラユラ揺めき、ぽつ、ぽつと増えていく。


それは瞳だった。音もせず、瞳だけが現れ、増えていく、その全てが見つめていた。獲物となる自分達を。


バン!!


突然森の奥から炸裂音が木霊こだました。ゴブゴロウ達はその音に向かって駆け出す。


瞳は浮き上がり、流星の様に向かって来る。殿しんがりの白狼がギャンと悲鳴を上げた。闇が取り囲み殿の白狼はかき消えた。ゴブゴロウを乗せた白狼を先頭に三匹の白狼がついていく。


バン!


また音がする。

ゴブゴロウは更に速度を上げて、音のする方へ、闇を突き進んだ。

また一匹の白狼が犠牲になる。

とうとう闇を抜けた。


一度に光を浴び、目が眩む。

そこには、ゴブイチ、マシュー、白狼達、そして大将が待っていた。

大将は仁王立ちし、森を睨み付けている。


森の闇から蝙蝠が湧き出て来た。

バサバサと羽音はおとが重なる。今まで感じ無かった存在が明らかになった。ゴブリン程の体躯に、真っ黒な毛に覆われ、豚の様な鼻をした奴が、身の丈の倍は有ろうかという羽根を広げ飛んでいる。


バババババババッ!!


機関銃の様な音が鳴り響くと、七匹の蝙蝠が地に落ちる。すかさず白狼がトドメを刺した。


大将の『魔弾』が蝙蝠の羽根を傷つけ、飛べなくしたのだ。


ゴブイチが杖を構え、『火玉ファイアボール』を撃つ!蝙蝠が悠々と躱し、マシューに向けて急降下する。

角白狼がその蝙蝠の喉を素早く噛みつき始末する。


その様子に蝙蝠達は戸惑い、やがて森の闇の中に羽ばたいていった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※



俺は蝙蝠を観察する。

そこには八匹の蝙蝠が並んでいる。

全て見事に喉を噛まれ死んでいた。


魔石の位置を探り、胸元を切り裂いて魔石を取り出した。


黒光りする魔石だった。


俺は魔石を握りしめて目を瞑る。


やはり一番下っ端の蝙蝠達の様だ。

しかし、強化された白狼を二匹も殺した。背をつかれ、集団で襲ったとしてもこの蝙蝠の存在は脅威だ。


対策を立てなければ、暗闇の森で一人づつ確実に殺される事になるだろう。


ゴブゴロウの中から様子は見ていたが、羽根の音は感じ無かった。しかし闇の森を出ると、羽ばたく音は聞こえた。俺の信号さくれつおんは届いた。あれが聞こえなければヤバかった。俺が乗り込んで、死ぬか?生きるか?ボスのところまで行って、決着をつけねばならなかった。死んだ白狼達も良くやってくれた。身を挺して、ゴブゴロウをいかしてくれた。感謝に堪えない。


魔石からは魔力の波長が読み取れた。風のエレメント、そして闇のエレメントを感じた。森自体が闇の波長を放っている。その闇に紛れ、羽音まで消しているのかもしれない。ゴブゴロウを襲う気配に気付き、一か八か炸裂音を出したが、幸運な事に音が届いてくれて助かった。


そして風、進化したかげを感じ無いコイツらでさえ、手を焼いたのだ。未知の魔法が使われたらどうなるやら見当もつかない。ゴブサンと同流して対策を練らねばならないだろう。


俺は蝙蝠達を回収して狼エリアのプールに戻る事にする。

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