魔石クラフトダンジョンズ

第41話 子狼

鹿の骨を投げられる。

ワンワン！っと俺は駆け出し、鹿の骨を咥えてゴブイチの所へ戻ってゆく、

何度、繰り返した事だろう。

運動不足もあり、ウケるかな？と思いやってみたのだが、

ゴブイチはたいそう気に入り、この小芝居は継続されている。

最近のゴブイチは母性にも目覚めはじめているのだろうか？

俺をひと時も離してくれない。

俺は声帯も変化して、ゴブリンの様に声が出さなくなっているので、中々この状況を打破出来ないでいる。

そんな事より、魔力の増えた俺は俺でいろいろ考えてもいる。

まず『地震（アースシェイク）』は使えない。狼王が放った魔法、『地震（アースシェイク）』は狼王の固有の魔法なのか？しかも円状に並べられた岩のエリアでしか、あの絶大な魔法は

出来なさそうだ。

もっと小さなエリアでは可能性を感じる。

『土壁（ウォール）』は再現出来た。これはなかなか使える魔法だ。魔力を通した先に『土壁（ウォール）』が出現して、防御壁にも攻撃手段にもなる。最初、時間の掛かる事が気になったが、同じ物を形成して慣れる事、中身は無く、外側だけを形成する事をイメージして、瞬時に壁を作る事が出来る様になった。

応用はいろいろできて、俺の身体から針を出す様な事まで出来た。

そして、やはり魔法を使うのに、杖は必要ない事が判明する。

杖は魔法陣の体得と座標の指示に必要な様だ。

発動場所の座標と杖を重ねて、座標を固定して、魔法陣を発動場所に作り、魔力の根源に繋ぎ、魔法を発動する。

何度も杖を用いて魔法を撃つ事で、魔力の流れを掴む、自分と杖を同じモノとして、魔力の根源と発動先、杖の持ち手と杖の先の仕組みを体得する。

それを魔法陣として、発動位置と杖の位置を重ねる事で、外部の座標に固定し魔力を通すと魔法は発動する。

その杖を移動すると魔法陣が移動して魔法まで移動する。

杖はイメージを鮮明に固める事が目的の様だ。魔法陣を発動する位置の固定が出来れば離れた場所だろうと魔法道具（マジックアイテム）だろうと魔法を使う事が出来る。

杖を用いて自分の魔力を完全にコントロールする事こそ大切なのだ。

俺は千里眼が使えるので、座標の固定は簡単だ。後は魔法陣だが、これも千里眼で魔力が見えるので、魔法陣を解析する事も出来た。結局今は○の中に☆を書くだけで魔法陣として使える。

魔法を固定出来るので、マジックバックのプレートに魔法陣を書き、亜空間のアンカーにも魔法陣を書き繋ぐ、触れるだけで魔力が通りゲートが作れた。俺達の仲間の共通の魔力で反応するマジックバックが完成した。

子狼になった俺の身体でも千里眼で固定した座標に魔法陣を書くと

『火玉（ファイアボール）』だろうと『土壁（ウォール）』だろうと魔法を撃つ事が出来た。

もちろん魔法で書いた魔法陣は魔法で移動出来る。

土のエレメントに変換された魔力で空中に作れた魔法陣は簡単に動かす事が出来た。

杖は魔法の習得にとても良い道具なのはわかった。しかし今の所、俺には必要無くなった。

そして大狼以上が使える召喚魔法だが、魔法の質が上がっている俺も子狼をなんとか召喚出来た。

しかし魔石は召喚されたモノには無かったので、魔力が無くなると消えてしまった。

魔物が召喚した魔物は多分、同様に時間と共に消えてしまうと思う。今の所、時間稼ぎの肉壁以外使い道が思い浮かばないので、使わない方針だ。

魔力を沢山消費すると、召喚出来る数も増える。しかし俺の劣化版だし、武器も無いし、魔法を撃つと消滅するか？その時間が早まる。もしかして召喚した魔物と自分の位置を入れ替え出来きれば、身代わりの魔法が出来るが、魔力ばかり使うロマン魔法の宴会芸になるかもしれない。戦闘で使う場面が思い浮かばない。保留だ。

そんなこんなで、俺も実戦で魔法を使い、質の良い魔力を吸収したい。

そろそろ離してくれない？ゴブイチさん。

ゴブサンに鹿の群れ、そして出来れば鹿の上位種を連れて来て貰えないか相談する。

ゴブサンは癒しの笑顔でこくこくと頷き、新入りと共に狼達と風の様に出て行った。

俺は危険が無い様にゴブサン達を注意深く見守る事にして、残りの仲間達と、狼エリアと鹿エリアの境目辺りに向けて歩いて移動を開始する。

当然俺は、ゴブイチに抱っこされて、ゴブイチは大狼に跨（またが）って、狼達はゆっくり進む。

ゴブゴロウも堂々と大狼に跨り、１０匹の大狼達と進む。

ゴブイチはいつもは俺の副将として、覇気に満ちた立ち振る舞いが、几帳面な性格と良くあっていた。今も俺を抱っこしながら、気を緩める事無く、背筋を伸ばし、実に見事な指揮をしている。仲間からの信頼も厚い。

休憩中だろうが、ゴブイチは所在を明らかにして、愚直な長剣の素振（すぶ）りを繰り返す事が多く、気を抜いた素振（そぶ）りなど一切なかった。その事が良かったのか？俺の仲間達のチームワークは保たれ、組織として上手く機能していた。

俺がゴブリンの時は、ゴブイチが側に控え、周りの仲間に的確な指示を出す事で組織が纏まり、いざという時の頼もしさは目を見張るモノがあった。

一方、俺が子狼になってしまった瞬間から、彼は俺の保護者の様になり、手放そうとしない。仲間達への指揮も俺の意向が本当に手に取る様に分かるので、一切の迷い無く、素晴らしいモノだった。

逆に、鉄の指揮官と子狼を守るお母さんの様なギャップが飴と鞭、神秘性まで増して、ゴブイチのカリスマは鰻登りである。

なんの不満も無い。確かにそうなのだが、もう少し、もう少し俺を信用して、自由にしてもらいたいモノである。だから俺は今回のゴブサンが連れて来る敵との勝負に並々（なみなみ）ならぬ気合いを入れるのである。

ゴブイチの装備は、ゴブサンとほとんど同じで、白の胸当と鼻筋の通った兜が特徴である。新たに白のマントを作り胸当に取り付けた。内側には当然マジックバックになるプレートも仕込んである。

武器は侮（あなど）られぬ様、腰のベルトに豪華な鞘の長剣を帯びている。

そして左手に真っ白な子狼の俺を抱っこしてるのが彼のスタイル。自信に満ち溢れている。

後に彼が、左腕があるにしても決してその腕を使用する事は無く、左肘から先を絶えず上げているその姿と、烈火の如く、鬼神の様な闘いぶりに

「隻腕の鬼神」と称される、

かどうかは俺はしらん。