第43話
それは本当に小さな子どもにするような光景だった。
それでも真純はとても幸せそうに笑っている。
「家族は幸せになったけど、おかしなことが始まった」
真純はそう言うと右手を掲げてみせた。
さっきまで普通だったその手の甲がパックリと割れて血が溢れ出してくる。
私はすぐにこの場から逃げてしまいたかったけれど、やっぱり体は言うことをきかなかった。
「ありえないことが次々起こる。まさか、追体験アプリを他の誰かが持っているんじゃないかと思った。そして持っているとすれば……お前しかいない」
真純の声にゾクリと背中が震えた。
今までで聞いたことのないような冷たくて、威圧的な声色。
そこには怒りや悲しみを通り越した、殺意が感じられた。
「私はなにも」
震える声で言うが、真純は聞いていない。
「だから私は車に轢かれたあのとき、救急搬送される車の中でアプリを使った。これが最後、そう思って」
あんたにも同じように交通事故が起こるように設定した。
頭の中は真っ白になった。
私にも同じ事故が起こるように。
それは死んでしまった真純と同じように、私も死ぬという事実だった。
私がどうしてもそれだけはできなかったことを真純はやってのけたのだ。
しかも、真純の交通事故は私が仕掛けたものだったから、間接的にでも、私が力を貸すことになってしまったのだ。
「ははっ……冗談だよね?」
乾いた笑い声が漏れた。
信じられなかった。
自分のしたことがひどく滑稽で、さっきまでの喜びはあっという間に悪夢への入り口になってしまった。
「冗談じゃない。これが現実だよ」
真純はそう言い、血まみれの手で私の前髪を鷲掴みにした。
「じゃあ行こうか。4人一緒にね」
白い空間に夕里子と由希の2人が現れた。
私は絶叫して逃げ出そうともがく。
しかし頭上から降りてきた真っ黒な光に抗うことができず、私達は吸い込まれていったのだった。
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