第34話
☆☆☆
翌日、学校へ行くと由希が休んでいた。
私はそれを確認してほくそ笑む。
昨日家に戻ってから男性とホテルへ行ったことをアプリに記入した。
相手は由希だ。
私は最初から逃げ出すことを考えて行動していたけれど、由希は違う。
同じように男性にホテルに向かったとすれば、そのままやられてしまったかもしれないのだ。
そう考えると胸が踊ろるようだった。
「有紗、昨日はありがとう。植本くんに連絡してくれたんだね?」
「うん。私より男子に行ってもらったほうがいいと思って。ごめんね直接行かなくて」
それでも多美子の様子を見る限り大丈夫そうだ。
「ううん。本当にありがとう助かったよ」
多美子の顔色は相変わらず悪い。
だけど再びアプリを使い始めたのだから多美子を助けることだってできる。
私だから、できることなんだ。
しばらくすると由紀子と真純が教室へ戻ってきた。
カバンがあるからどこかへ行ったのだろうと思っていたけれど、こっちの2人の顔色も悪かった。
「え、由希が?」
「それって悲惨じゃん」
噂好きなクラスメートが2人へ視線を向けてこそこそと会話を始める。
耳を済ませてみれば、昨日の帰りがけに男に無理やりホテルに連れ込まれたという内容が聞こえてきた。
「それってやられたってことでしょう?」
「わかんない。でも今日休んでるしさぁ」
「黙れ!!」
真純が怒鳴り声を上げて立ち上がった。
椅子が後方に倒れて大きな音を立て、教室中が水を打ったように静かになる。
「由希はやられてなんてねぇよ!」
非情な噂を打ち消すように叫ぶ真純。
なぁんだ、やられてなかったのか。
少し残念な気がしたけれど、男に無理やりホテルに連れ込まれただけでも、十分恐い経験をさせることができたはずだ。
「罰が当たったんだね」
多美子が私へ向けてウインクする。
私は笑顔を返しておいた。
☆☆☆
別れた彼氏が隣の席にいる気まずさを初めて体感した。
時々視界に入ってくる旭のことが気になって仕方ない。
今はもう教科書も全部揃っているから私に声をかけてくることもないけれど、旭が私のことをどう思っているのか気になった。
なんの前触れもなく突然別れを切り出してきた私のことを最低女だと思っているかもしれない。
だけど時々視線がぶつかったときの旭は優しくて、笑顔をみせてくれる。
その笑みを見ていると胸がギュッと痛くなった。
早く復讐を終えよう。
それで、もう一度旭とやり直したかった。
今度は私から告白をすることも、もう決めていた。
そんためにはやらなきゃいけないことがある。
休憩時間に入り、私はトイレの個室に入っていた。
右手にスマホ、左手にはカッターナイフを持っている。
あの3人の中のリーダーは真純だ。
真純を攻撃することが一番手っ取り早く復讐を終わらせることにつながってくる。
私は大きく息を吸い込んで吐き出した。
トイレの消臭剤の匂いが鼻腔を刺激して顔をしかめる。
力は込めなくていい。
ほんの少し、ちょっとだけ傷つけばいい。
私は左手に持っているカッターナイフを右手の甲に押し当てた。
真純はいつも手鏡を見ている。
それは自分の容姿に自信のある証拠だと私は思っていた。
その容姿を傷つけることができたら、どれだけ真純は傷つくだろうか。
本当は顔面を切り裂いてやりたかったけれど、さすがに顔の同じ場所に傷があると怪しまれてしまいそうなので手の甲を切ることにしたのだ。
右手の甲の押し付けたカッターナイフをゆっくりと動かすと、皮膚に傷が入ってジワリと血が滲んで浮かんでくる。
痛みに顔をしかめて奥歯を噛み締めた。
このくらいの痛みどうってことはない。
私はもっともっと深い傷をあの3人に負わされてきたんだから……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます