第14話

☆☆☆


最悪な気分で自室へ戻ったとき、カバンの中がドロドロになっていることを思い出した。



涙が出てきそうになって、土がついたままの教科書を突っ込んだからだ。



また盛大なため息を吐き出したから、もうどのくらい私の幸せが逃げていったのかもわからない。



汚れている教科書をひとつひとつ、ゴミ箱の上で土を落としていたときスマホが震えた。



どうせダイレクトメールだ。



それ以外のものが私に届くことなんてないんだから。



そう思って作業を続けていたが、視界に入ったスマホ画面にはクラスメートからのメッセージが送られていた。



私は手を止めてスマホを確認する。



それは多美子からのメッセージだった。



《多美子:こんにちは!》



《多美子:今まであまり話したことないのに》



《多美子:突然メッセージしてごめんね!》



《多美子:体育の授業のときから井村さんのこと気になっちゃって》



《多美子:よかったら仲良くしてくれない?》



短いメッセージの連投に一瞬驚き、それから何度もその文章を読み直した。



私と仲良くなりたいと言っている。



だけど多美子も同じクラスなのだから、私がイジメられていることは知っているはずだ。そしてイジメっ子に近づくと今度は自分がターゲットになることだって、もはや世界の共通認識じゃないか。



それなのにこうしてメッセージを送ってくるということは、本当に友達になりたいということなのかもしれない。



嬉しさが湧き上がってくる。



多美子は今まで教室内のイジメを見てみぬふりしていた1人でもある。



だから正直少し複雑な感情で、見て見ぬ振りを許せるかどうかもわからない。



だけど今までこんなメッセージをクラスメートからもらったことのない私は盛り上がってしまった。



友達ができる。



高校に入学して初めての友達だ。



教科書についた土のことなんてすぐに忘れて、スマホを両手で大切に持って返事を打つ。



《有紗:もちろん、友達になってほしい》



これだけでいいかな?



もっと長い文章のほうがいいかな?



文章は小さく区切って送るものなの?



なにせ友人とメッセージ交換なんてしたことがないから、わからないことだらけだ。



何度も消して、書き直してを繰り返しているうちに、あっという間に20分も経過してしまった。



まずい。



これって既読無視だと思われているかもしれない。



手のひらには汗が滲んできていて、今にもスマホを取り落してしまいそうだ。


私はスマホを両手でしっかりと握りしめて、どうにか返事を送信したのだった。



《多美子:これからよろしくね!》



可愛い絵文字と一緒にそんな文章が送られてきたのは、それから15分後のことだった。

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