第7話

☆☆☆


翌日、私は寝不足の顔で重い足取りで学校へ向かってきた。



昨日の朝とは大違いだが、こんな気分の日に限って天気はよかった。



久しぶりの晴れ間にお母さんはとても喜んでたくさんお洗濯物をすると張り切っている。



晴れでも雨でも私が学校でやられることは同じだ。



いやきっと今日から今まで以上のイジメが待っている。



もう、両親へのごまかしもきかなくなってしまうかもしれない。



想像は悪い方悪い方へと進んでいき、あるきながらコンクリートにズブズブと沈んでいってしまいそうになる。



それでも学校に到着してしまい、私は1年A組の教室内へと入っていた。



できるだけ気配を消したくて自然と猫背になってうつむいて歩く。



自分の席までたどり着けると一旦安心して大きく息を吐き出した。



それでもまだ私の心は休まらない。



今日はどんなことをされるのだろうかと不安が募って胃がギリギリと締め上げられる。



今まではこんなことなったのに……。



そう思って奥歯を噛み締めたとき、机の上にラクガキされていないことに気がついた。



毎朝の日課のように書かれていたブス、バーカ、シネ、の3つの言葉。



悪口を書かれていないことはいいことのはずなのに、それは余計に私の不安を加速させる材料になってしまった。



普段の生ぬるいイジメは終わりという合図かもしれない。



そうなると、放課後のイジメが悪化していく光景しか浮かんでこないのだ。



「うそでしょ?」



「かわいそー」



そんなときにそんな声が聞こえてきて、私はハッとして顔を上げた。



誰も私を見てはいないがさっきからこそこそと噂話をしている子たちが多い。



「え、由希が?」



会話の中に由希の名前が出てきてビクリと体が跳ねた。



昨日殴られた右頬の痛みを思い出し、そっと手のひらで包んだ。



耳は自然とその会話を聞こうとする。



「登校中に知らない男に突然殴られたんだって。だから学校まで逃げてきて、今夕里子たちの保健室にいってるみたいだよ」



え……。



その会話に呼吸が止まった。



由希が男に殴られた?



ドクンッと心臓が大きく跳ねて手のひらにジットリと汗が滲んでいく。



「あ、由希来たよ!」



視線を教室の前に移すと、夕里子と真純の2人は由希を挟むようにして教室に入ったきた。



3人の姿を見た瞬間教室内は静になる。



由希の顔はいまにも倒れてしまいそうなほど青くなっていて、右頬にはシップがはられている。



昨日私が殴られたのと同じ場所だと瞬時にわかった。



由希たちと視線がぶつかったものの、いつもの意地の悪い笑みや暴言が飛んでくることもなく、3人は静かに自分の机に座ったのだった。


☆☆☆


この日、由希は時々先生に呼ばれて教室から出ていったり、警察の人に説明したるするために度々席を外していた。



残されている夕里子と真純も由希のことが気になるのか、やけに静かな日となった。



「きっと罰が当たったんだ」



放課後になり、帰ろうとしたところ太一が声をかけてきた。



瞬間身を固くして警戒し、周囲をうかがう。



幸いにも夕里子たち3人はすでに帰ったあとだった。



今朝あんなことがあったから、今日はまっすぐに帰っていったのだろう。



「なにが?」



私は威嚇するように低い声で聞く。



「由希のことだよ。昨日あんなことをしたからだ」



私は太一から視線をそらした。



そんな話のために呼び止めたのかと、内心苛立つ。



こうして会話しているところはクラスメートたちに見られるのも嫌だった。



どんなところからあの3人へと情報が伝わるかわからないのだから。



「あっそ」



私はそっけなく返事をして教室を出ると、太一から逃げるようにして早足になったのだった。

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